第4話 洞窟に巣食っているもの



ファイたちはニミュエの案内の元、洞窟の奥深くまで歩いてきていた。



 ニミュエの明かりの魔法でファイたちの周りだけが明るくなっていた。



 ニミュエの指が明かりの魔法で光っていた。



 しかし、昼のように一面が明るくなるものではなかった。悪魔で松明のようなものだったのだ。しかしながら、この明かりの魔法のいいところは、発動した当人の魔力が続く限り、光らすことができ、松明のように燃え尽きると暗くなるということはなかったのだ。



「しかし、それにしても長い洞窟だな。くれーし」



「大丈夫です。あたしの魔法で明かりをともしていますから。みなさん、あたしを見失わないでくださいね」



 ファイの嘆きをニミュエがきいて、顔を少し膨らませ少し前を低速で飛んでいく。



 指が光っていた。その光が届く範囲では、明るかった。



 しばらく、歩いていくと広い場所にたどり着いた。だが、薄気味悪いところだった。



 ニミュエは何かを知っているようで、熟知しているためか、動揺の色は全くなかった。



「なんだ、ここは? 急に広くなった」



「ここは、取ってきた魚など、昔は、食料保存庫だったところです。今は使われていませんが」



「さすが、熟知してるな」



 そのときだった。レイティスが遠くにあるものに指をさした。



「おい、あれは、人じゃないか?」



 レイティスは倒れている人に急いで駆け寄って、抱き起した。



「しっかりしろ、大丈夫か?」



「ダメだ、脈がない死んでいる」



 ファイが腕を取り脈を診た。最悪の結果に顔を横に振った。



 オネイロスが言葉を紡いだ。



「恐らく、湖の中に引きずりこまれたラザナーク村の村民だな」



「ひどい、足を食いちぎられてる。くそッ、ゆるせない」



 死んでいた村民は酷い有様だった。痛々しい様子が手に取るように伝わる。



 どうやら、足を食いちぎって水魔竜ヴァギラーザは食い捨てたのか。皆に動揺が走った。



 ニミュエが仕方ないと、目を凝らした。その反応にファイが気づいた。



「ニミュエ、知っていたのか?」



「あたしの力では、魔王アガスラーマによって、魔力を与えられ、復活した水魔竜

の力を止めることはできませんでした。立ち向かったあげく、守る仲間は死にあたしは水晶の中に閉じ込められたのです」



 よっぽどつらいことがあったのか、ニミュエは一滴の涙を目から地面に流した。



「そうだったのか。ごめんな、辛いこときいてしまってよ」



「いいんです。ファイが助けてくれましたし」



ニミュエが目をこすり、涙を拭ったそのときだった。



なんと、得体の知れない、骨が揺れ動きだした。



ガチガチガチ!



「きゃぁ」



「な、なんだ、骸骨が揺れ始めた!」



「気をつけろ、敵だ!」



 ファイがそういったとき、骨は空中に浮かび上がり、形成を取り始めた。



 その形成は骨の人のような恰好をしていた。



 手に盾と剣を持っていた。兜や鎧を着たものもいる。



「な、骨人!」



「ファイ、油断するな、スケルトンだ!」



 オネイロスは声を張り上げると同時に、背中の大きな剣を抜き去り、構えた。



 レイティスやファイも剣を抜いた。



「よーし、ニミュエの仲間の仇、とってやろうじゃねーか」



 いうと、ファイは剣の段平をぎらつかせ、裏返した。



「通路をたどっていっても湖。背水の陣てわけですか。就任して、初っ端から、実戦ですか。やってみせましょう。僕の腕で打開する」



「お前ら、気を抜くなよ。俺についてこい。大剣クレイモアの錆びにしてくれようぞ」



 オネイロスが強気にそういったときだった。



 スケルトンが真ん中に集まりだした。



 その中心部に見たこともない大きな骨ででき始めている骨人の姿があった。



「グハハ、人間風情が何をいう」



「な、なんだ、骸骨あたまが形成を取り始めた。しかも、スケルトンより、はるかに大きい」



「また、新手か。気をつけろ、ファイ。こやつは、恐らく、スケルトンハガーだ。スケルトンの高位種族だ」



「たしかに、団長がいっていることはあっているかもしれません。スケルトンより体が大きく、手が四本。額に目があり、眼光は、血のような赤色。一理ありますね」



 大猿のように人の体の体長とは思えないほど、確かにスケルトンハガーはデカかった。



「水魔竜ヴァギラーザ様の寝首をかこうなど、ヴァギラーザ様はお見通しだ! グハハ、逃がさん」



スケルトンハガーがパチンと指を鳴らしたときだった。



ガタン!



 なんと石材でできた大きな扉が横から飛び出てきて閉じ込められた。逃げ道を塞がれたのだ。



「しまった! 出口をふさがれた。クソッ、まんまと術中にはめられた」



「そ、そんな、こんな石の扉なんてなかったはず。一体、どうやって?」



 熟知しているはずのニミュエの口が開いてふさがらない。本来なら扉はなかったようだ。



 ファイが悔しそうな顔をしていった。



「ヴァギラーザだろうよ。奴の魔力で、ロックの魔法を使ったんだろうな」



「ほう、少しはわかるようだな。ヴァギラーザ様の命で我が、魔法を施したのだよ」



 スケルトンハガーはどろっとした獰悪な声で赤い目を光らせながらいう。



「ファイ、レイティス、よいか、平静を保て。どんな窮地にさらされても、冷静さを見失うでない。戦況を把握し、自分なら出来ると思え」



 オネイロスは退路を断たれ、不安に陥るはずのファイたちを鼓舞するようにいった。



 だが、この背水の陣がファイたちの戦闘意欲を逆に掻き立てていたのだった。



「よう、スケルトンハガー、俺たちを逃げられないようにしたのは、誤算だったな。お前をもう一度、地中で眠らせてやる」



 ファイは親指を地面のほうに向けながらいった。



「ファイ」



 ニミュエはそういうとファイの後ろにパタパタと羽を動かして移動した。



 レイティスが剣幕を変えて一歩前へ乗り出した。



「こうなれば、身を呈しても乗り切ってみせる」



 オネイロスが大きな身の丈を乗り出し、敵に向かって駆け出した。



「いくぞ、ファイ、レイティス、俺についてこい」



 そして、近くにいたスケルトン一体に、大きくジャンプして真正面から大剣クレイモアで切り込んだ。



「うぉおおおぉぉぉぉッ」



 ZUSHAAAA!



 見事にそのオネイロスの斬撃はクリーンヒットし、唐竹割りのように真っ二つに頭から下半身まで両断した。



 その場に、スケルトンの骨が四散する。



 オネイロスは落ちたスケルトンの頭を大剣で軽く捌き、粉々に粉砕した。



「すごい、スケルトンを一刀両断した」



 レイティスが行動を鼓舞するように歓喜めいた声をあげた。



 そのときだった、一体のスケルトンがファイに剣で切り込んだ。



 GAKINNN!



 それをまともにファイは受け止めた。剣戟がその場に響き渡る。



 ファイは、ジりりと刃じりを合わし、顔を少し剣に近づけ、歯ぎしりをしてニヤリと笑った。



「へ、俺は負けない!」



 思いっきり腕の反動でスケルトンの体越し、ファイは押し返した。



 そして、態勢を崩した、スケルトンの動きをいいことに、不意打ちを仕掛けようと素早く陣を切って切り込んだ。



「おりゃぁ!」



 その斬撃は見事にスケルトンに命中し、スケルトンの鎧越し、腹の骨を薙いで、


胴体を真っ二つにした。だが、そのときだった。死角がファイにあった。



「危ない、後ろだ、ファイ!」



「な、なに、速い!」



GAKINN!



 レイティスの声に助けられ、どうにか、スケルトンハガーの一撃を受け止めることに成功した。だが、受け止めるので精一杯だった。次の第二撃に移れない。




 スケルトンハガーは悔しそうに赤い眼光を照らした。



「猪口才な、しくじったか。だが、次はそうはいかんぞ、小僧」



「あのやろう、デカイくせに、スピードが速い! どう対処する?」



 ファイは予想以上のスピードを垣間みせられ、眉間に皺を寄せ、舌打ちをした。



 たしかにスケルトンハガーのスピードはデカいわりにスピード型の剣士並みに速かったのだ。



 ファイは懸念し、嘆息めいた。一体どうする?



 このまま、奴の刃靭にかかるのか?



レイティスが剣を構えながら、目をちらつかせ、ファイにエールを送ってきた。



「スピードにはスピードを、力には力をだ、ファイ!」



「雑魚は、僕に任せて」



そういい、レイティスは瞬速にスケルトン二体の胸元にスピードを上げて入り込んだ。



間合いはもうない。刃が交わる距離だ。



「木の葉切り!」



 ZUSAAA! 



 一瞬にして、切り込んだ瞬間にスケルトン二体を木の葉のように散らせていた。


骨が細かく剣で切られ、辺りにゴミのように散らかった。



 ファイはこの剣技に驚いて、感心し、へへと笑った。



「(速い、剣筋が見えない)やるな、レイティス」



 そのときだった。



 一体のスケルトンが、ニミュエを見つけ、剣で切り付けようとしていた。



 もう、距離がない。このままでは、切られる。



「きゃぁ、助けてぇー。殺される」



「ニミュエ、しゃがんでろ! こいつ」



ZUSAAAA!



 ファイが近くにいて、どうにか切る瞬間に追いつき、斬撃を繰り出し、体ごと粉

砕して、ニミュエを助けることに成功した。



 ニミュエは閉じていた目を目一杯開けて喜びを表現した。



「(助かったの)神様? ファ、ファイ、ありがと」



「ニミュエ、アブねーから、そこの岩陰に隠れてろ」



「うん」



 ファイはそう舌打つと段平を裏返して、気力を振り出した。



 負けない、そういう意気が伝わる攻勢だった。ファイは敵に向かって駆け出した。



「よし、スケルトン、あと三体だ! いけるぞ」



「しねぇ」



 スケルトンハガーの重い斬撃をファイは上手く躱した。



 岩石がその場に飛び散り、地面に穴が開いた。



「あらよっと、そんな、素振りあたらねーぜ。調子こいてんじゃねーぞ。骸骨さんよ」



「おのれぃ」



 スケルトンハガーは悔しそうな声を出した。赤い眼光が更に強力に光り輝いた。



 一方、オネイロス団長のところにはスケルトン三体が一斉に攻撃を仕掛けようとしていた。



「クぎゃア!」「ギャグロゥ」「グギャ」



KAKINN!



「これくらいの剣戟、笑止。チェックメイトだ!」



「すごい、三匹の攻撃を一度に受け止めた」



 何と、オネイロス団長はスケルトン三体の剣撃を一度に全部受け止めていた。スケルトンといえど、三体分なら凄い負荷がかかるはず。



 オネイロス団長の大剣が犇めいた。刃じりを合わせ、翳む剣の音が鳴り響いた。



 可也の身体能力の持ち主だ。大剣クレイモアを見事に使えるのも納得がいく。



 次の瞬間、オネイロス団長は、攻撃に転じた。



 大剣を思いっきり大きく振り被った。



「うらぁ、一刀両断!」



ZUSAA!



 誰しもが、この一撃に固唾を飲んだ。大胆不敵という言葉が似合いそうな一撃だった。



 見事にスケルトン三体を、地獄にまた送った。



「ひゅー、さすが隊長。やるぅ」



「身体は壊れたが、レイティス、骸骨のあたまを粉砕しろ、そうしなければ、また時間が経てば、奴の魔力で復活するぞ」



「わかりました」



 レイティスがそういい、剣を構え直すと、もうその場に敵は親玉、スケルトンハガーだけになっていた。



「へ、後はお前だけだぜ、親玉さんよ」



 ファイが剣の切っ先をスケルトンハガーに手向けた。



「グぬぬ、手先をよくも、小癪な。我、自ら手を下さねばならんとはな」



「だったら、どうした? 潰すまでだ!」



「三人で一斉にかかるぞ!」



 オネイロス団長が賭けに出た。



 ファイとレイティスもこの声に同じ、攻勢に出た。



「てりゃぁ」



GAKINN!



「くぅ、(なんて重い斬撃だ!)」



 レイティスはどうにか、スケルトンハガーの重いその攻撃を受け止めた。



 しかし、重いだけに、受け止めると、反動で構えていた態勢を崩されていた。



 レイティスの足が、一瞬もたついた。



 だが、これに負けるレイティスでもなかった。



「だが、その重い攻撃も一瞬、封じれば」



 なんとレイティスは、何を思ったか、スケルトンハガーの右側にある二本の腕を

自身の両手と剣でどうにか、掴み手を封じた。



 しかし、もう一方側の手は健在だった。



「な、なに? 掴んだだと。しねぇ」



 スケルトンハガーが案の定、反対方向の二本の腕でレイティスに切りかかろうとした。



 そのときだった。



「骸骨頭、左手が空いてるぜ」



 ファイだ、ファイが左側の腕二本を上手く掴んで封じるのに成功した。



「クソッ、手が四本あるってのは、てこずるな。だけど、離さないよ」



 レイティスが、抑えるのに相当の力がいるためか、歯を食いしばり、苦渋の顔色をみせた。いつも、あの余裕があるレイティスが。



 真正面にはオネイロス団長がいた。



「しまった、手を、くそ、離せ、くそ」



「今です、団長!」



「おうよ」



 この絶好の機会を見逃す団長ではなかった。



 大きく剣を振りかぶり、真正面から斬りにかかった。



 スケルトンハガーはどうにか動こうとするが、精一杯、両サイドではファイたちが押さえていた。



「地獄へゆけ、スケルトンハガーよ!」



「お、おのれぃ」



ZUSHAAAAA!



 オネイロス団長の斬撃は見事にスケルトンハガーの兜ごと見事に地面まで薙いでいた。



 一瞬にして、剣筋が走り、真っ二つになっていた。



「グガァー。ヴァギラーザさまぁ」



 スケルトンハガーの最期の断末魔が洞窟に響き渡った。



 オネイロスは真っ二つにしたスケルトンハガーの頭を剣で叩き割った。



 そして、額の汗を拭い、声音をあげた。



「よし、これで終わりだ」



「ニミュエ、生きてるか、大丈夫か」



「うん、大丈夫だよ、ファイが助けてくれたから」



 ニミュエが岩陰から出てきて、明るくファイたちに愛想を振りまいた。



 ファイはへへと笑った。グッドラックのジェスチャーをレイティス、オネイロス団長たちと交わした。



「よし、敵は倒した。先を急ごう」



 まだ、水魔竜ヴァギラーザがいる。誰しの頭の念頭にもこの強敵が浮かんでいた。



 竜族、それはモンスターの中でも強靭なポテンシャルを誇る一族でもあったからだ。



 そして、ニミュエの先導のもと、ファイたちは洞窟の先に歩きだした。

 









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