第3話 フレアチジナ湖の伝説



ファイたちソレイユ騎士団一向は、王命でラザナーク村の近くにあるフレアチジナ湖に向かっていた。



 ラザナーク村がファイたちの目に入ってきた。



 もう、目と鼻の先だ。



 ファイが、遠めで村を一瞥した。



「レイティス、着いたぞ、ここがラザナーク村だ。入り口に魔法文字で書かれた立て札がある」



「地図によると、この村から北の方角に向かうと、ストーム山脈の手前に大蛇がいる問題のフレアチジナ湖があるみたいですね」



 レイティスは馬に乗りながら地図をみていう。



 そのとき、オネイロス団長が声を上げた。



「よし、先ずはラザナーク村のバコラ村長に会って、事情を聞くぞ。直訴状の電報をうったのもバコラ村長だ」



 そのいった矢先のことだった。誰かがこっちに近づいてくる。



 どうやら、年老いた女性のようだが。頭にフードをかぶっていた。



「あなたがたは?」



「この村の者か。俺たちは救援要請で大蛇を退治しにきたソレイユ騎士団だ」



 年老いた女性は目を丸くして、驚いていた。



 そして、話を切り出した。



「ソレイユ騎士団? だ、大蛇を。おやめなさいませ、騎士さま。あの湖には伝説があって、大蛇、あろうことか見知らぬ魔物が住み着いているといいます」



「見知らぬ魔物? 大蛇じゃないのか」



 オネイロスは顔をしかめた。



 老婆は更に興味深いことをいった。



「目撃者の話では、蛇のようであったといいますが、違うのやもしれません。フレアチジナ湖の伝説で湖の底には神がいて、神殿が遥か昔にあったと、言い伝えでは語られていますのですじゃ」



「神殿? 神?」



 ファイがまゆ毛を吊り上げて、怪訝な顔をした。妙な話だったからだ。


 老婆は顔を下に向けた。



 涙が地面に滴り落ちていく。



「う、うう」



「どうしたのですか、お婆さん」



「私の息子が、あの湖の大蛇に襲われて、湖の中に引き込まれたのですじゃ。お、お助けください騎士さま。どうか、お助けを、私の息子を」



 老婆は辛そうな顔で馬に近寄り、ファイの服を引っ張った。



 ファイは、耐え切れなかった。言い分に応えたい気持ちだった。



「お婆さん、生きていたら、必ず俺たちが助けてやるよ。俺も戦って生きていたらな」



「ファイ、目撃談をきいても湖の中に何かいるのは間違いない。バコラ村長に詳しく話をきこう」



 オネイロスは困った表情でいう。



 先陣をきって、馬を前に寄せた。



「よし、そうと決まれば、村長の家にいこう。って、どこだ? 村長の家は?」



 ファイは首をかしげていった。



「バコラ村長の家ですか。知っていますよ。案内いたします」



 老婆に問うと、老婆はニコリと笑い、ファイに言った。



「すまぬな、お婆さん」



 ファイがそういうと、老婆が村長の家の方に歩き出した。



 釣られて、ソレイユ騎士団も馬を走らせていく。



 恐らく、集落の奥のほうにある、目で確認できるくらい大きな家がそうだろう。



 レイティスはそう洞察していた。





☆☆   ☆☆



 

 老婆に連れられて、しばらく、足を歩ませた。



 目の前に大きな家があり、周りには柵があり、入り口の扉は堅固だった。



「あの前にある赤い屋根の大きな家がそうですじゃ。では、私はここで」



「あ、ありがとうな、婆さん」



 ファイがそういうと、老婆はその場を去っていった。



 オネイロスがそれを見やると、啖呵をきった。



「よし、中に入るぞ」



 言った矢先のことだった。



 ファイが横槍をいれた。



「オネイロス団長、キュラ様は? たしか、指揮をするといっておられませんでしたか?」



「ん、ファイよ、キュラ様は軍事会議があって、少し遅れるときいておる。後で、我らの指揮をとってくれることであろう」



「そうでしたか、軍事会議でしたか」



 ファイがそういったときだった。



 なにやら、用心棒のような体つきのいい男を従え、ひげを生やした男がでてきた。



「おお、これはこれは、ソレイユ騎士団のみなさま。待っておりました。こちらへどうぞ」



「あなたが、バコラ村長か?」



「はい、わたくしです」



 どうやら、村長らしい。そうとわかれば、話は早い。



 オネイロス団長は、馬を降りた。



 続けて、みな揃って降りていく。



「出迎えご苦労」



「詳しい話は、応接室でしましょう」



 バコラ村長は手招きをし、オネイロスたちを家の中に呼び込んだ。 




☆☆    ☆☆




 ファイたちは応接室で、バコラ村長と話しこんでいた真っ最中だった。



 バコラ村長が、やりきれない顔をして、重い口を開いた。



「数週間前から、湖に釣りや、漁に行ったものが戻らなくなったのです」



「ほぅ、数週間も前から」



 オネイロスは厳しい顔つきでいう。



 続けてバコラ村長は詳しく話し出した。



「一緒に同行していたものの話では、体が細長くて、まるで、大蛇のようだったときいていますが、正体は詳しくは、存じておりません」



「そうか、胴体が細長い怪物ですか」



 そのときレイティスが釘を刺した。



「モンスター学で学んだ例では、海だと、シーサーペントやシードラゴンが考えられますね」



 オネイロスが後ろにいたレイティスを一瞥した。



「レイティス、それはわかっておる。それは海の場合だ。あそこは湖。シードラゴンも生息しておらん」



「考えにくいということですか、隊長」



 レイティスがそういったときだった。ファイが一歩前に足をふみ入れた。



 オネイロスはそれに気がついた。意見があることに。



「そうだ。ファイ、なにかいいたそうだな、いってみろ」



「さっき、案内してくれた婆さんがいっていたことが気になります」



「それは、フレアチジナ湖の伝説のことをいっているのかな」



「存じているみたいですね、バコラ村長」



「ただ、伝説としては語られていますが、神がいたという話がほんとなら、恐らく、古代のことですな」



 妙なことをバコラ村長は言った。古代からあることだというのだ。



 事実なら、とんでもない話だ。



「古代? 村長まさか、六千年前の神古代の時代と逸話とでもいうのですか?」



 オネイロスが再三、訝しげな顔でいう。



 バコラ村長は一呼吸置き、トーンを下げて言葉を紡いだ。



「神古代かどうかはわかりません。神がいた時代というくらいですから、もしかすると神古代より昔、一万年以上昔の、創生古代の時代の話かもしれませんな」



「創生古代? まさか、伝説がほんとだっていうのかよ?」



「ファイ、それは、わからぬが、なにせ、悪鬼が湖に巣食ってるのは間違いない。村民を苦しめるもの、国の機関の我らが任務を全うし、退治するのが役目だ」



 ファイの驚いた顔を見るとオネイロスは諫めるようにいった。



 任務というものは相手が強敵でも向かっていくのが常である。



 オネイロスがそのとき立ち上がった。



「騎士団にいることというのは、こういう苦難はつきものだ、みなよ、いくぞ」



「了解」



 ファイたちがオネイロスの後をついていく。



 オネイロスがそのときバコラ村長のほうを向いた。



「バコラ村長、湖の近くまででいいから、案内してもらえないか?」



「はい、では、わたくしではなく、付き人のナダスを向かわせましょう。ナダスおるかー」



 バコラ村長がそういうと、部屋の奥から身体の大きな男がでてきた。



 おそらく、村長のボディガードのような役目を担ってる人だろう。



「はい、旦那さま」



 野太い声でナダスはいう。



「ナダスよ、ソレイユ騎士団のみなさまを例の湖の近くまで案内してやってくれんか?」



「はい、旦那さまの命とあればなんなりと」



 ナダスはそういうと扉の方に歩き出して、オネイロスの方を振り返った。



「では、みなさまいきましょう。ついて来て下さい」



 ナダスが手招きをして歩いていく。



 ソレイユ騎士団はナダスに連れられて、フレアチジナ湖に向かった。





☆☆  ☆☆



「もう、見えてきていますね。この林を抜けてまっすぐ行くと、漁師たちの船着場があります。危ないので、私はここまでで」



「ご苦労」



 オネイロスが合図を送る。もう、湖は目で確認できる距離まできていた。



 ファイが口を尖らせた。



「大蛇がなんだ、上等だぜ」



「割と大きな湖だな。伝説どおり、この湖のそこに神殿があるのか?」



 レイティスは、あごに手をやり、熟考したような素振りでいった。



 続けてファイが言葉を紡いだ。



「底が見えない、わりと深いな」



「船着場で、出てくるまで立ち往生もできんな」



 オネイロスの言葉に、レイティスが考察したようにいった。



「しかし、水の中にいると思われる見えない敵では?」



「そうだな、よし、奴さんをおびきだすか。おい、誰か、持ってきた血のついた匂いがすごい馬肉を湖に放り込んでくれ」



 オネイロスがそういうと、騎士団員が、血のついた馬肉をもってきた。



 血が滴り落ちて、地面に後が残る。



 小柄な男が馬肉を持ち、湖の方へ放り込もうとした。



「はい、では私めが放り込みます」



ドボン!



 馬肉が放り込まれ、湖が血の色で、赤く染まっていった。



 小柄な男は湖の方を凝視する。



「出てくるでしょうか?」



「わからんな、いつでてきても対処できるように、みな、構えておけ!」



「ハッ」



 オネイロスの言葉に、騎士団員の面々が一斉に返事した時だった。



 ファイが急に両手で頭を左右抱えた。



(助けて、助けて)



「な、なんだ、なにか、頭の中に聞こえてくる」



「どうしたファイ?」



 ファイの様子がおかしい。ファイの表情が躊躇いでひきつり、ファイの左手が薄っすらと炎で経ち込めだした。



「て、手が熱い。燃えるみたいだ」



(助けて、私の声が聞こえるなら、助けて。私は湖の奥深くにある祠に閉じ込めら

れてるの。お願い、このままじゃ殺されるかも)



「み、湖の奥深くに祠がある?」



 ファイが再三、左手を持ち、驚嘆する。



 レイティスが心配そうに一瞥していた。



「ほこら? お、お前その手、どうしたんだ? 炎がたちこめてるぞ?」



「へ、ばれちまったな。戦闘用グローブはいて隠してたんだが。何かと共鳴しているみたいだ」



 ファイはへへと面を変えることなく苦笑いをした。騎士団員の目線がファイの左手にいく。



 そのときだった。ファイがとんでもないことをいいだした。



「(殺される?)見殺しにはできない。女の人の声で助けてときこえた。俺は湖にもぐってみる」



 そういい、湖の方に身体を乗り出した。



「ば、ばか、やめろ。もし、大蛇がでてきたら、殺されかねないぞ」



 レイティスは両手で必死にファイが飛び込もうとするのを止めた。



 だが、ファイの意志は固く、制止に耳を貸すような頃合ではなかった。



「く、レイティス、そんなことはわかってる。だけど、見殺しにはできない。大切な人を守るために、弱い立場の人を守るために、俺は騎士になったんだ」



「待て。勝手な行動は軍法違反だ」



「団長、いかせてください。お願いします」



 オネイロスの制止にもファイは耳を貸さなかった。断固として言い張った。



 オネイロスは、仕方なく、こくんと軽く頷いた。



「わかった。お前の意志は固いな。許可を出そう。ただし、命の保障は出来んぞ」



「わかってます。俺は行きます」



ファイは真摯な眼差しをオネイロスに送ると、湖に飛び込んだ。



「あちゃぁ、あいつほんとにいっちまったよ」



 レイティスが、顔を手で隠して、ダメだとサインを出した。



 オネイロスも、勇気ある行動に、拍手を送りたかったのだろうが、命の心配がありそうもいかなかった。



 レイティスが横槍をいれた。



「しばらくして、でてこなかったら、団長どうするんですか?」



「無事を祈るしかない」



 オネイロスはそういうとだんまりしていた。



 湖の中に怪物がいるのは確かだったのだ。



 ファイは浮かんでこない。馬肉の赤い血溜まりだけが湖に薄っすら不気味な影のように蔓延っていた。







☆☆ ☆☆




(助けて)



 ファイの脳裏には続けざまに助けを呼ぶ女の子の声が聞こえてきていた。



 ファイは湖深く水を足で蹴り、潜っていた。空気が口から洩れ、気泡となってプクプク上に上がっていく。



 ファイは目を閉じ、相手に聞こえるように念じてみた。



「(今、助けに向かってる。だが、場所がわからない。どこにいるんだ? 声の主、教えてくれ?)」



(ありがとう。きてくれているのね。前方の大きな岩の間にある洞窟の向こう側に祠があるわ)



 その言葉を聞くと、魚が入っている岩の間をみつけた。



 ファイは水を蹴り、息が持つのも限界近くだったので、一か撥かでそこに向かった。



 その岩と岩の間には、空洞があった。



 そこに、飛び込んだ。



「ぷわぁ、ん、なんだ、息が出来る。空気がある。こんなところがあったのか。ん、手が共鳴してる。こっちだな。わかるぞ」



 ファイは共鳴で薄っすらと光る左手をおさえながらいった。



 敵がいないか、空洞の中を見渡した。だが、異様な形のものは何一ついなかった。



 少し安堵の色を落としたが、緊迫感だけは、漂っていた。そう、討伐にきていたからだ。



 いつ大蛇がどこに潜んでいて、攻撃してくるかもわからなかったからだ。



 そのとき、女の子の声がまたファイの脳裏にきこえた。



(その分かれ道を左にいったところに閉じ込められてるの)



「わかった、こっちの道だな」



 ファイは目の前に広がっていた空洞の分かれ道を左に歩いていった。



 すると、水晶の中に人がいて、閉じ込められているのに気づいた。



「ん? 水晶? 水晶の中に、人がいる?」



「(助けて)ん、ん、んぅ!」



 中に閉じ込められていた女の子は水晶の壁を手で何回も叩いた。



 だが、当然の如く割れるはずもない。



 ファイは水晶の前で唖然となり、立ち止まった。



「なんだ、背中に羽根が生えてる? キミは一体、何者なんだ?」



「(そんなことより、早く助けて。ここから出してぇー)んー、んー、んぅー」



「共鳴、きこえる。わかった。剣で水晶を真っ二つに打ち砕く。左に寄ってろ」



「(わかったよ)んー」



 ファイは、剣を思いっきり上に振り上げて、構えた。



 次の瞬間!



「おりゃぁー」



 GAKINN!



 剣を振りかぶると、水晶は見事に真っ二つに切れた。



 水晶が半分に切れて、地面に落ちた。



「上手くいった。助けれて、よかった」



 ファイは、額の汗を手で拭った。ファイなりに、気負いしていたのだろう。



「ありがとー」



 羽の生えた金髪で青い目をした女の子は宙を飛び、ファイの頬っぺたに軽くキスをした。



 ファイが照れて、頓狂な顔をした。



「って、おい、キスはやめろ、照れるじゃねーか」



「あたしはね、水の妖精ニミュエ・ウンディーネっていうの」



「水の妖精? 滑稽だな。俺はファイっていうんだ。ソレイユで騎士をしてる」



「騎士様ですか。あたしは、このラーギア神殿を守る水の妖精でしたが、つい最近になって、魔王アガスラーマの魔力で地獄から召喚され、復活した、伝説の魔竜

『水魔竜ヴァギラーザ』に捕まって、水魔竜の魔力で、この割れた水晶の中に閉じ込められていたのです」



「水魔竜? (俺たちが探してる大蛇に似てる? もしかして?)そいつは、どんな体形をしてるんだ?」



「蛇のように胴体が長くて、竜族ですが、羽はありません」



 ニミュエは淡々と述べていった。だが、細い柳眉を燻らせ、悲観的な憶測はあったのだ。



「みえたぜ、やっぱりな、大蛇の正体は水魔竜みたいだな」



 ファイは、鼻をフンと自信過剰的にならした。



 昔から、ファイは強い敵とぶつかると、意気が高まるようだった。



 ファイのその反応をみて、にこやかに笑い、ニミュエがまた話し出した。



「水魔竜は、昼間は、岸辺には現れません。お腹がすくと夜の時間帯に人を襲いにラーギア神殿から出て行きます」



「ということは、まだ、その神殿にいるってことだな」



「多分、寝ているはずです。しかしです、ここは、神殿の祠で、入り口の前みたいな場所です。ヴァギラーザがいる、ラーギア神殿までは、まだ洞窟を奥深くにいかないとたどり着きません」



「洞窟があるのか。ニミュエ、よかったら、ヴァギラーザのところまで案内してくれないか?」



「いいですよ」



「今は、まだ昼だ。奴は、きっと神殿で眠っているはず。寝ているところを不意打ちすれば、倒せるかもしれない」



 ファイが反対方向に進もうと背中を返したそのときだった。



「待てよ」



「きゃぁ、誰ぇッ?」



 誰かがファイの肩をポンと叩いたではないか。



 どこか聞き覚えがある声だ。ニミュエの顔色が急に変わった。



 ファイの後ろ側に怖がりながら急いで飛んでいった。



 ファイは、声を聞いて誰だかは想像がついた。



「ニミュエ、心配するな。俺の仲間だ」



「レイティス、それにオネイロス団長」



 レイティスとオネイロス団長は広い空洞の中を見渡していた。



「ファイ、お前が上がってこないから、心配して、我らも飛び込んだんだ」



「そしたら、この入り口に魚が入ってるところを見て、祠があるのに気づいたんだ」



 レイティスが考察したようにいう。



「そうか、ここは下から入れるようになってる」



「ふぅ、よかったです。敵かと思いました」



 ニミュエは団長たちが、剣を持っているので殺されるかと思っていたのか、一安心するとホッと胸をなでおろした。



 その様をみたオネイロス団長は言葉を紡いだ。



「ん、羽が生えてるな。ファイ、その子は妖精か?」



「そうみたいです、ここを守る水の妖精らしいです」



「律儀なこった」



 団長がそういったときだった。



 レイティスは、一旦、剣を鞘に納め、息を吸い、空気を感じ取っていた。



「空気があるみたいだな、フレアチジナ湖にこんなところがあるとは思わなかったな」



「恐らく、神古代か、創生古代に作られた場所じゃないか」



 オネイロス団長がニミュエを見遣り、洞察していった。



「神がほんとにいたということですか?」



「いたみたいですよ。何千年も昔に。あたしがここを守る前にいた人から、きいた

ことがあります」



「ということは、お前、千歳とか、二千歳とかかよ?」



「千歳? むむむ、もう、ファイ、失礼ですぅ、妖精年齢は34歳で、あたしは、まだ人間の年齢でいうと17歳ですよ」



 ニミュエは、ファイに食ってかかり、両手を怒ってジタバタ、振り上げて、何回も


ファイの肩をポンポンとたたいた。ファイが愛想笑いをして手の平を返すジェスチャーをした。



「34歳? 17歳? わりいわりぃ、許してくれよ。古代の話がでたからよ、てっきり、何千歳かと思ったぜ」



「ぷんです」



 ニミュエは怒って旋毛を曲げ、ほっぺを膨らませ、腕組をしながら、顔を反対に向けた。



「はは、お前たち、賑やかだな。だが、悠長なこともいっていられないぞ」



「だけどよ、この洞窟の分かれ道、どっちにいきゃいいんだよ?」



「あたしはここの地理は熟知しています。みなさん、ついてきてください。こっちです」



 ニミュエはそういうと先陣をきって、背中の羽をはばたかせて、ファイたちの前を飛んで行った。



「頼りになるな。いこう、ファイ」



 レイティスがそういうとファイたちも一存し、ニミュエの後をついていった。



 だが、この先に、未曾有の敵が潜んでいるかもしれないと、誰の頭にも浮かんでいた。



 仮にも、ソレイユ騎士団はここに、大蛇を退治しにきていたのだから。



 常に任務に対しては、死と隣り合わせ、それは切っても切れないものだった。















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