第2話 魔剣士
騎士クラスに合格してから幾星霜たち五年の歳月が過ぎた。
ファイは18歳になっており、リオは13歳になっていた。
ファイとレイティスは、在学中もトップの成績で騎士クラスを卒業した。
ふたりは、騎士クラスでも一番手、二番手を走る存在だった。
その二人のライバルはマントス校長の推薦でソレイユ騎士団への配属が決定していた。
リオもこのとき、ソレイユアカデミーの魔法使い養成クラスを受け、合格が決まっていたのだった。
そして、ソレイユ城の中にファイとレイティスはいた。
今日は新人配属の式があったのだ。
日の光りを浴びて、赤毛が炎のように揺れていた。
「(今日から配属か。頑張るか)」
ファイは、普段の顔で平静を保っていた。
そう、ファイが思惑を張り巡らしたとき、レイティスが近寄ってきた。
どうやら、ファイを待っていたようだ。ファイよりはやくきていたらしい。
それはファイにもわかった。
「よぅ、レイティスも、もう来てたのか? はえーな」
「時間ぎりぎりで僕は来るのは嫌なんだ。少し前くらいで待つほうがいい。まし
て、騎士になって初召集じゃないか」
「そうだな。俺たちも厳しい訓練と学問を学んで、晴れて騎士になったんだしな」
ファイがそういった矢先のことだった。
どこかで見覚えのある人物が大きな刀を背負って通りすがった。
「ん、お前、どこかであったような気がするな?」
「なんだ?」
「新入り、口に気をつけろ、このお方は、ソレイユ騎士団の団長様だぞ」
団長さまといわれた人物の隣りにお付きの人とおもわれる、小柄な男がいた。
この男も口ぶりによると騎士団員らしいのだが。
「団長さま? 俺たちの隊長ってわけか」
「ザキ、まぁよい。わしは、オネイロスというものだ。お前たちが配属になったソレイユ騎士団の団長をしておる」
「オネイロスって、まさか?」
ファイの目の色が変わった。なにか、名前を聞いたことがあるようだった。
ファイはズット考え込んでいた。
「はは、呼び捨てにしてすみません、こいつは口の聞き方を知らないので、ほら、謝れよ、ファイ」
「いてて」
レイティスがファイの言葉を聞いてすぐに割って入り、頭を無理やり手で押し込んで、下げさせた。
団長が、怒らず、苦笑いをし、何か語りだした。
「マントス校長からきいて、知っておるぞ。お前たちが首位で卒業した、ファイとレイティスだな。これからは実戦になる。危険も付きまとい、命を落とすやもしれん。気を引き締めて行動するのだぞ」
「せ、背中に背負ってるそのバカデカイ刀、あ、あなたは、もしかして、あのときの?」
「ん、どうした、わしの刀がどうかしたか?」
黙考していた、ファイが頭を押し上げながら、見覚えのある刀に着目して言った。
オネイロスは首をかしげた。
「六年前、ヒビトス山でギルオーガを任務で倒したあの人じゃないんですか?」
「ヒビトス山、ギルオーガ、おお、その赤毛、もしかして、あのとき助けた子供か?」
「そうです。やっぱりあの人でしたか。あの時は妹を助けてもらってありがとうございました」
そういい、ファイは軽く一礼をした。
レイティスは、聞いた話がチンプンカンプンだったので、黙り込んでずっときいていた。
レイティスが考察するようにファイに言った。
「ん、ファイ、オネイロス団長と知り合いか?」
「いや、昔助けてもらったことがあるんだ。俺は、あなたに『大切なものを守りたかったら強くなれ』といわれて、騎士になったのです」
ファイがそういうと、オネイロスはニコリと笑った。
「そうか、あの時の坊主か。強くなったな」
そういい、ファイの肩をオネイロスはポンと叩いた。
そして、オネイロスはまた喋りだした。
「もう少しで、ソレイユ四兵団の大将軍キュラさまから訓示がかかる。もう少し待機しておれ」
「はい」
レイティスは敬礼をした。そのときだった。
「ソレイユ四兵団? 大将軍キュラ?」
ファイは全くきいたことがないのか、首を傾げていた。
それもそのはず、ブリュンヒルドのことはよく知っていたが、首都ソレイユ近辺のこと、ましてソレイユ城内の国家役人のことなどは、ほとんどきいたことがなかったのだ。
「ファイ、お前、ソレイユにいて知らないんだな。ソレイユでは超有名だぞ。ソレイユ唯一の天才魔法騎士で、卒業と同時に一年で大将軍になった人だ。それでいて、美人だ」
「へぇ、唯一の魔法騎士か。天才か、つえーんだろうな」
「強いも何も、剣の腕は達人、おまけに魔法も使える、魔法使いと騎士が融合したような攻撃ができるんだ。俺たちじゃとてもじゃないが」
レイティスは、余りにファイが知らないので、詳しく説明していったが、ジト目模様だった。それもそのはず、用意周到なレイティスは、重要なことは調べてきていたのだ。
ファイは事前に調べるということを一つもしてきてなかったのだ。
続きざまにレイティスが口を開いた。
「ソレイユ四兵団っていうのは、陸を主にメインとする、歩兵部隊の第一兵団、騎馬に乗り相手を蹴散らす第二騎兵団、魔法使いの部隊の第三魔法兵団、騎士と魔法使いで構成される第四騎双師団っていうのがあるんだ」
「お前、結構しってんな。調べたな」
「そりゃ、僕たちも国の機関に入るから当たり前さ。因みに僕たちがいる、ソレイユ騎士団は正式には王室直属近衛兵といって、一応、僕たちもエリート部隊なんだぞ」
「へぇ、そうか。じゃぁ、俺たちは、本来は王さまたちの警護とかが任務なんだな」
そのとき、ファイのいた場所から真正面口の遠くに、人に囲まれながら美人で白い鎧服を着た女性が歩いてきていた。この人物はもしや?
レイティスの視線が、チラリとその人物に映る。
「便宜上はそうじゃないかな。噂をすればきたみたいだ。あの白い鎧服を着た金髪の美人がキュラ様だ」
謎の人物はどうやら、大将軍キュラ様らしい。
「若いな(卒業一年で大将軍てことは19歳か。エリート中のエリートだな)」
そのとき、キュラの近くにいた、男性が声音をあげた。
「整列!」
そして、一歩前に出て、キュラはいった。
「私はお前たち、ソレイユ騎士団及びソレイユ四兵団を統率している、大将軍キュラ・ミアリーストというものだ。新人は経験が浅いが、先輩は知己を教え、それを吸収し、経験を積んでほしい。この後、シルバ王、直々から、王命が下る。よく聞いておくように」
そういうと、キュラは喋るのをやめ、一呼吸置いて話し出した。
「みなのもの、オネイロス団長のいうことをよく聞くのだぞ」
「ハッ」
ソレイユ騎士団員の雄たけびに似た歓声があがった。
「整列、一礼」
訓示をかける男がそういうと、軍独特の整列姿勢をとり、敬礼をした。
キュラはそれをみると、後ろの扉の方へ背を向けて歩き出した。
キュラはソレイユ騎士団のカリスマ的存在だったのだ。
兵士の士気をあげる力が並大抵ではなかった。
☆☆ ☆☆
キュラの訓示が済んでから、しばらく時間が経ち、今度は王様と王妃が扉からで
てきて、玉座に座った。続いて、娘のイーミ姫がでてきた。大臣たち主要要人もでてきた。
ファイの目線がイーミ姫にいく。ファイも何年も前に王様と王妃、イーミ姫はみたことがあったのだ。
「(真ん中にいるのがシルバ王さまか。隣りがアリスマリア王妃、左側の若い子が多分イーミ姫様か、成長したんだな)」
ファイが後から出てきた人物を不思議に思って、レイティスのほうを向いた。
「レイティス、イーミ姫様の近くにいるあの若い女のひと三人と爺さんって誰だよ」
「お前、ほんと調べてきてないな。あの右側の一番むこうにいる黒髪のきれいな人が魔法神官師団の神官宮大臣、テアフレナさまだよ。イーミ姫さまの政務補佐をしているらしい」
「へぇ」
政務補佐をしている人物。どうやら偉いさんらしい。恐らく側近だろう。
「テアフレナさまの側近で右側の白い髪の女の人は宮左大臣ラピスさま、右三番目の青い髪のひとは宮右大臣ルミアさまだよ」
「そうか、覚えとくぜ」
レイティスの説明に納得し、ファイは小声でトーンを落としながら返事をした。
レイティスの説明が続いていく。
「あの爺さまは、ソレイユ王室科学教育係、サントス博士らしいよ。イーミ姫さまの教育係らしい」
「サントス博士か」
「あのなぁ、お前、知らなくて、さっきみたいに変な口たたいたらどうするんだよ。行き当たりばったりじゃないか」
「へっ、わりい、わりい。気をつけるぜ」
ファイがなるほどと答えたその瞬間、警護兵の槍が上にあがった。
ソレイユ国王が、軽く咳払いをした。
「みなのもの、面を上げい。今日は、新しく、みなの仲間になるものたちが増えておる。国家の戦力として、早く、一人前になってほしいのを願う」
シルバ王は淡々と述べていく。野太い声をしており、貫禄があった。
隊列を組んだ者の前でいい、その場にいた誰もが敬服していた。
シルバ王は厳しい顔つきで、口を紡いだ。
「今日は、私じきじきから、王命がある。さっき、フレアチジナ湖の近くにあるラザナーク村から救援要請があった。村人が魚を湖に捕りに行くと、大きい蛇のようなものに襲われ、湖の中に引き込まれる事件が多発しているらしい。そのものの安否は不明だが、ラザナーク村のものを助ける為にも、ソレイユ騎士団に殲滅にいってもらいたい」
シルバ王の言葉を聞くと、その場にいたもののどよめきが少しだけきこえた。
ファイもそれは同じだった。
「(大きな蛇か)」
「これが王命書だ。イーミ姫よ」
シルバ王が王命書を取り出すと、イーミ姫が立ち上がった。
「はい、お父様」
イーミ姫はそういい、王命書を受け取り、少し歩いて、キュラに手渡そうとした。
「大将軍キュラ」
「ハッ、姫様」
キュラは敬礼をし、跪いて王命書を受け取った。その受け取る姿も若い割には貫禄があった。
そして、キュラが立って王命書を見開き、話し出した。
「みなにも知っているものがいるかもしれないが、国の魔法掲示板にも危険レベル5で表示されている事件だ。それが、この書状の内容の事件だ」
「(魔法掲示板? レベル5なんのことだ?)」
ファイもちゃんと言葉をきいていたが、チンプンカンプンだった。
魔法掲示板というのが田舎にいるとしらなくて、理解できなかったのだ。
キュラは、鋭い表情で言葉を述べていく。
「魔族が関わっている可能性もある。配属されて、間もないが、困っている民を助けるのが我らの仕事。救援に向かってもらいたい。指揮は私が取る」
キュラはオネイロスのほうを向いた。
「オネイロス、すぐに出られるように部隊を編成してくれ」
「ハッ、キュラ様」
オネイロスは胸の前に手をやり、すぐさま甲高い声で返事をした。
そして、キュラは、隊列を組んだものの前を横に歩き出した。
「いいか、明日、明朝にでる。蛇が毒を持っているのも考えられる。隊員は魔法アイテム、毒消し薬など、準備をしておけ」
そういうと、兵士の喚声が聞こえた。
☆☆ ☆☆
キュラの訓示が終わって、少しじかんがあったのか、ファイたちは魔法アイテムをみに城下町まで歩みを寄せていた。レイティスもいた。
ファイが、街角の看板の前で立ち止まった。
「これが、魔法掲示板か。たしかに事件の内容が魔法文字でかいてあるな」
「ファイ、これはね、時間おきに国の危険事項や、世界で起きる危険事項がかかれていて、魔法を使って更新されてるんだ。これを魔法で更新しているのも国の仕事なんだ」
「へぇ、そうなのか」
「危険レベルがあって、色で危険レベルがわかるようになってるんだ。レベル5は赤色表示で『非常に危険』であり生死に関わる事件」
レイティスがしってることを正確に述べていく。レイティスは結構、物事を慎重に考察する用意周到タイプだ。調べ尽くしている模様だ。かなり詳しかった。
「それでレベル4は黄色表示で『かなり危険』場合によっては生死に関わるかもしれない事件。レベル3は緑色表示で『やや危険』というもの。レベル2は青色で『比較的安全』レベル1は白色で『安全』項目となってるんだ」
看板に指を指しながらレイティスはいった。
「なるほどな、で、俺たちが任務でいく事件は赤だから確実に生死に関わる事件てことだな」
「そういうことみたいだね」
レイティスはニコリと笑った。
ファイも少しは魔法文字をソレイユアカデミーで習い、読めたので、魔法掲示板に描いてあることを眺めながら読んでいた。たしかに、湖に人が漁にいったり、釣りにいったりすると、湖の中に引き込まれるとかいてあるのを見受けた。危険レベルは5だった。
「レイティス、さっきキュラ様がいってたみたいに、場合によっちゃあ、大蛇が毒を持ってるかもしれねー、魔法アイテム屋に毒消し薬、見に行こうぜ」
「わかった、僕もそれは考えてたんだ。了解だ」
そういい、二人は魔法アイテム屋に向かった。
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