6 ある日、君が笑った。

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 ある日、君が笑った。


 桃花はあることを決意して、今日、鏡と会っていた。

 それは鏡に、自分の秘めた思いを全部、残らず吐き出して、(それは大量に、桃花の心の中に溜まりに溜まっていた。忘れようと思っても、どうしても忘れることができなかった)鏡に愛の告白をすることだった。

 大きな、本当に大きなもう宇宙に向かって飛び立つことのない、引退した宇宙ロケットが見える建物と建物の間にある通路の途中で、百花は、「あの、鏡さん。ちょっといいですか?」と言って鏡に話しかけた。

 百花は一人でその通路の途中に立ち止まっていた。 

 その少し先の通路の上には鏡がいる。

 ほかに人は誰もいない。(そうなるまで、百花がタイミングを図りながら、鏡に話しかけることを、……ずっと、待っていたからだ)


「どうかしたの?」

 相変わらず呑気な顔をして、鏡が百花のほうを振り返った。

 でも、そこにいる桃花の真剣な表情を見て、鏡はすぐに、百花がこれから、とても大切な話を自分にしようとしていることに気がついたみたいだった。

 鏡は百花と同じように真剣な表情になると、ゆっくりと通路の上を歩いて、百花の少し前のところまで移動をする。

「鏡さん。大切なお話があります」

 百花は鏡の顔を正面から見て、そういった。

 百花の顔は、真っ赤だった。それにその体は小さく、……ずっと震えていた。

「どんな話?」鏡は言う。

 その鏡の表情は、子供を見つめる大人の顔、だった。

 家庭教師をしてもらっているときに、(……そして、きっと今も)ずっと鏡が、高校の制服をきている百花に向けていた表情だった。


 自分が鏡に子供扱いされていることが、百花はとても嫌だった。

 高校の制服を着ている間はしょうがないかもしれない、と思っていたけれど、高校を卒業して、百花が大学生になったあとも、鏡の顔や態度はなにも変わらなかった。

 百花は、ずっと鏡のことを忘れようと思っていた。

 そうするべきなのだと思った。

 実際に、鏡は自分(百花のことだ)のことを忘れようとしているように見えた。二人の関係は家庭教師と生徒であり、大学受験が終わったら、それでおしまい、ということらしかった。

 ……その鏡の考えは、たぶん、正しいのだと思う。

 だから、百花も鏡のことをずっと忘れようと、努力をした。

 ……でも、忘れられなかった。

 ううん。むしろ、その思いは強くなるばかりだった。

 鏡と会えなくなって、連絡もあんまり取れなくなって、……もう百花はどうにかなりそうだった。

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