君もきっと、誰かの支え
戌井てと
画面を通して
時間潰しにサイトを開くのは、いつもの流れ。スマホひとつ、手の中でなんでも出来てしまう。
電車がきた。
ドアが開く。
暗黙のルールで、スーツ姿の人が改札へと流れていった。
ちゃんとした説明は無くて、気づいたら当たり前になってる毎日。
いつ出来たのか、誰が造ったかを想像するのは、きっと少数だ。一生懸命話したら、変わってるね、それ以上言うのは無謀だし。最悪、離れてしまう。
嫌なら離れてしまえばいい。
息をするのもやっとの場所で、必死になってる自分が、駅に設置されてる鏡で露になった。
ほんの数メール。その距離で刻の流れていく感覚が、痛いくらいに違う。
忙しく過ぎる人だかりを背景に、自分の顔はスマホで隠れるように、いちまい撮った。気にする程でもなかったシャッター音。モノクロに設定して……あとボヤけさせて。
タイトルは、時がとまる。
芸術志向の人たちが集まるサイトに、撮ったのを投稿する。のんびり待って、メッセージが届いたら返事をする。SNSの類いではあるけど、つかず離れずのような、楽な付き合いが出来てるように思える。
ステキですね、と簡単に気持ちを表現できる仕様もあり、それだけの繋がりが、ひとり。その人の投稿はダークな要素が多い。良いと思える……でもそれに対してステキですねって、違うように感じた。
注目されたい、人気になりたい、そういう人がいる。自分の世界、理想、自己表現の場として、やってる人がいる。肯定してほしい、我が儘な気持ちを抱えて。
しばらく迷って、結局は、ボタンを押すだけの簡単な表現方法を選ぶんだ。
通知が忙しくなってきた。
先ほど投稿したのを見た人からの、メッセージだ。なんて返そうか。新着欄から来たのかも、はじめましての人もいた。
個人のフォルダに一件の通知がきていた。向こうも知ってる駅だったんだろう、場所が特定された。看板、会社名、風景、絞れる材料は山ほどあるもんなぁ、当然か。
知ってるユーザーさんなのに、文字のやり取りは初めてで、変に緊張する。送っては十分後に返事がきて、居ないのに近くに感じた。
今日もまた、何気ない景色を、特別に撮っていく。
あのとき、一度きりで、いつの間にか退会してしまったユーザーさん。リアルが忙しくなったから、他にやりたい事が見つかったから、いくら理由を探しても、それは同じ思いを共有していたかったという事。
サイトを閉じて、写真のフォルダを開けた。たんぽぽを手前に大きく、背景に雲ひとつない青い空。この投稿を機に、サイトでの活動は最後になった。ダークから鮮やかに変わり、ちいさな対象なのに大きな存在感。
知らないはずなのに、個性的だとか、可愛いのが好きだとか、派手なものが好きだとか。なんか知ってる。
つかず離れずが心地よかった。
『お探しのページは見つかりません』設定された文字、対応。なんだか寂しく、心に風が通った。短いやり取りでも作品を見ていた、見てくれた期間は長いから。
カメラを起動させて、構えた。この一枚も誰かの思いと重なるように。
君もきっと、誰かの支え 戌井てと @te4-3
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