第10話
部屋に戻ってスマホを確認してみると、早くもSEINが大変なことになっていた。さては莉音さん、それともしかするとそれに対する美香夏さんが豪速球でメッセージ合戦をしているのではないかと疑ったが、どうもそれとは別らしかった。
ひっきりなしに通知をよこしているのは、クラスのグループのほうである。
『美少女カルテットの休日』、と題された写真である。アストロノーツのほうでグループのプロフィール画像にもなっているあの集合写真ではなく、もっと遠くから撮られた、要するに隠し撮りだ。
投稿者は、莉音さん、ではなく、若葉さん。
おい、客を隠し撮りするな。あと何度も言ってるが(言ってないが)ボクは美少女じゃない。ていうか、せめて本人の見えるところに貼り出すな。
……まあ、莉音さんは気にしなさそうだけど。問題は美香夏さんと、ボクたちだ。
まあボクたちに関しては莉音さんに撮られた時点で発生しかかっていた問題ではあったが。直通回線のひとつでA-フォーに連絡を入れる。
「もしもしこちらお父さん」
「はい。で、その、用件なんですけど」
「おう」
「ボクたちの写真が、想定以上に出回ってしまってまして……」
「……それだけか?」
「それだけって」
「いやそれだけだろうが。気にすんな」
「いいんですか? 二度と潜入に使えませんよ。潜入以外でも、顔を知られていれば作戦行動に支障をきたす可能性が」
「いいっつってんだろが。気にすんな。以上。二度とこんなどうでもいいこと連絡すんなよ」
ぷつん。切られた。……えー……。
「ほんと優ちゃん気にしすぎよねー」
「ボクがおかしいんですか? これ」
「そらそうよ。だってさ、そもそも学生にしてる時点でこんなの織り込み済みってことでしょ」
「それはボクも理解していますが、それにも限度というものが」
「まあとりあえず、写真ばしばし撮っていいってことだろ。はいピース」
「じゃあやっぱり、この任務自体が、A-フォーのお節介なんですか? ……つばささん、いくらなんでも不真面目すぎますもんね」
「気づいてた? 半分はね。でも、さるお嬢様がこの学校にいるのは事実。天翼会からのスパイも、たぶん事実。つまり任務もいちおう存在はしてるってことだ。でも、言われたでしょ? 何もしないで済むのなら何もしなくてもいいって。これは働きすぎのエージェントくんへの罰だって」
「……ボクも、グレてやりましょうかね」
「それならそれで喜ぶんじゃない?」
「はぁ……もういいです。知りません」
何が何でもスパイを見つけだしてやる。それが、このお節介に対するボクのせいいっぱいの反抗だ。
緊急用携帯を折り潰し、ベッドに突っ伏して再び自分のスマホをいじる。
甚だ不本意だが、ボクたちの問題は存在しなくなった。あとは美香夏さんだ。
個人チャットを呼び出す。
『クラスザイン見ました? なんだか大変なことになってますね…』
すぐに既読がついた。
『そうみたい。まあ、私は慣れてるからいいよ。そっちは大丈夫? 困ってない?』
『大丈夫です』
『そう』
一拍置いてメッセージが続く。
『今日は、楽しかった。誘ってくれてありがとう』
……ボクが、気にし過ぎなのかなぁ。
ボクが危惧していることなんて、本当は悩む必要なんてないことなのかな。
わからなくなってきた、けど、とりあえず。
『こちらこそ。また遊びましょうね』
『うん』
ボクはベッドから離れて机に向かった。
明日の予習をしておかないと。
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