幸の言の葉
れいん
第1話
これはこの大きな世界でちょっとした小さな小さなできごと。あるふたりの少年の不幸で幸せな物語。
今日は待ちに待った僕の誕生日だ。と言っても平日だから学校へ行かなきゃいけない。正直、めんどくさい。でも、友達と話すのは楽しいから学校へ行く。
「伊織、朝ごはんできたよー」
「今行くー!」
1階へおりると、いつもの朝ごはん。僕は母さんの作った味噌汁の香りが好きだ。なんか、朝って感じがする。
「急がなくて大丈夫か?」
父さんの言葉ではっとする。
「今何時!?」
「8時」
やべー。このままだと遅刻だ!朝ごはんを口にかきこんで勢いよく外へ出る。
「いってきまーす!!!!!!!」
「行ってらっしゃい!!気をつけてね!」
「はーい!!!」
ぎりぎりセーフで登校。
「良かったぁ。セーフだ」
ほっと胸を撫で下ろしていると
「あっ。いおりんハピバ!!」
「いおりん言うなし」
「なんだよーせっかく祝ってやってんのにー」
「それは…ありがと」
「いおりん照れてるぅかっわいー」
「うっせ」
いつもと同じたわいもない会話。毎日同じような会話ばっかりなのに飽きないのが不思議だ。こういうのを幸せって言うなら、きっと僕は幸せだ。
「あーっやっと4時間目終わったぁ」
「いっおりっ!今日テストとか聞いてなかったんだけどぉー」
「前先生言ってたじゃん」
「まじかよー」
「〜蛍原伊織くん、蛍原伊織くん、至急職員室まで来てください〜」
「伊織ー何やらかしたんだよー」
「何もしてないしー」
え?どうしよ?僕なんかやらかしたっけ?友達ににはああ言ったけど、割と焦ってる。今まで呼び出しくらったのは教室の花瓶を割った時だけだ。
(とりあえず行くか…)
職員室に入ると、やけに空気が重かった。
(え?何この空気。無理。教室帰りたい。)
そんなことを考えていると、先生が口を開いて僕に、こう言った。
「伊織くん。落ち着いて聞いてね。今、お父さんとお母さんが事故にあったって病院から連絡があったの」
…え?アタマが真っ白で何も理解出来ない。頭を殴られたみたいな衝撃。それと同時に体も固まる。声が出ない。体が動かせない。そんな状況の僕に先生は
「〇✕病院に搬送されたそうだから、急いで向かいましょう。」
それから病院までの記憶がない。気がつくと僕は両親のいる病室のドアを勢いよく開けていた。そのには変わり果てた両親の姿があった。
「うそだ…嘘だぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ゔぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「!?」
「大丈夫ですかっ」
「母さん…父さん…ゔァ”ァ”ァ”!!!!!!!」
酷く取り乱した僕がしばらくして、少し落ち着いたあと、看護師さんが声をかけてくれた。
「…ご家族の方ですか…?」
「…はい…そうです…。」
その看護師さんが事故のことについて詳しく教えてくれた。事故があった時、僕の両親は大事そうに紙袋を抱えていて、道路を渡る時中身を落としてしまった母さんがそれを取りに行こうとして、それを止めようと追いかけた父さんの所に、トラックが突っ込んで来たそうだ。2人が最後まで抱きしめていた紙袋を渡された。中には「伊織 HappyBirthday」
と書かれたメッセージカードと前からずっと欲しがっていたゲームが入っていた。僕はその場で泣き崩れた。だってもう、「ありがとう」の一言すら伝えられないから。こんなことなら、日頃からもっと伝えておくんだった。今日の朝ごはんももっと味わえば良かった。後悔しても、もう遅い。
「僕の…僕のプレゼントなんて…どうでも良かったのに…なんで…?……父さんと…母さんが…生きてることが…僕の1番の幸せだったのにっ…」
僕が泣き崩れていると、いつの間に目を覚ましたのだろう。意識が戻ることは無いと言われていた母さんがうっすらと目を開けていた。
「…い…おり…たん…じょうび……おめ…でと……」
言いたいことが沢山あった。でもまず、伝えなきゃいけないと思った。この言葉を。
「母さん。僕を産んでくれて…幸せに…育ててくれて…ありがとう。」
母さんは嬉しそうに目を閉じた。それから数日後、母さんと父さんは、息を引き取った。十歳になった秋のことだった。小学四年生の僕には背負いきれない程の重さで、今にも押しつぶされそうだった。
幸の言の葉 れいん @dotuitarehonpo
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