第14話:おかえりなさい
どうもこんにちは。リオネッサです。
外壁の外で畑仕事をしてひと休みしたらなぜか空を飛んでて、飛竜に襲われたと思ったらまゆたまごのおかげで九死に一生を得て、魔王城を目指して歩き出せば今度は魔物や魔獣に追いかけられたけど、魔界植物でなんとか撃退できました!
そして今、
逃げるのに
でも魔界の木って登りにくいんだよね。幹が太くて
えっちらおっちら汗を流しながら登っていく。
「まーま。まーま」
「お城に帰るために登ってるんだよ。このままじゃどこに行けばいいかわからないからね」
「まー」
わたしの話がわかったのか、そうじゃないのか。美幼児が短く返事をしたとたん、わたしの体は軽くなった。まるでシャボン玉にでもなったみたいだ。
「もしかして、あなたのおかげ? すごいね! ありがとう」
「あーう」
これなら枝を軽く
とん、とん、とん、とわたしは木のてっぺん近くまですぐに登りきることができた。
「おー。
広がるのは木、木、木、森、あと山、
「魔王城は――、っと、あった!」
今いる場所からかなり離れているけれど、間違いなく魔王城が見えた。
明確な目標があればがんばれる。魔王さまだってお仕事をがんばっていらっしゃるんだし、わたしもがんばんなきゃ!
美幼児のおかげで木の上を跳んで移動できるようなったんだし、夜通し跳んでいけば明日の朝には辿り着けるかもしれない。
けれど、魔術というのは多かれ少なかれ体に負担がかかるものだ、とゼーノもバルタザールさんも言っていてた。
体内で生み出せる魔力の量は決まっていて、生み出せる量が多ければ多いほど魔術を使える。
魔力がつきれば空気中の魔素を体内に取りこみ、魔力に
生まれたばかりの美幼児がいくら魔界生まれで成長が速いといっても、長時間魔術を使い続けるのはムリだろう。
魔術が切れたその時はなんとか木の上で移動する方法を考えなくちゃ。地面を移動すれば、また魔物や魔獣に追いかけられるだろうし。
木の真ん中くらいなら枝が密集してるから飛び移りやすいかな?
「だいじょぶ? 疲れてない?」
「あーぅ」
「疲れたらすぐに言ってね」
「まー」
日の傾きがわからないから今がいつごろかわからないけれど、腹時計を信じるならもう夕飯が近いころだろう。おやつを食べたのにわたしのお腹はくるくると小さな音をたてた。
「お腹減ったなあ…」
「まーうー」
美幼児には悪いが、食べ物はなにも持っていない。
拾い食いしようにも果物なんかはなってないし、食べられるキノコも火で
「うう、まおうさま…」
お腹が減って力がでない。ひもじさはプラス思考の大敵だと思う。
なにか楽しいことを考えよう……!
魔王城に戻れたら、まず、勝手にいなくなったことを謝ろう。夕飯は皆さん食べてるよね。ハンバーグを焼くだけにしてきてよかった。サラダはわたしがいなくても作れるようになってたもんね。それから汗まみれだしお風呂につかりたいな。お城のお風呂は大きいから泳いでみようかな。
それから、それから、
「魔王さまにお帰りなさいを言いたいな」
魔王さまのお帰りに必ず言うって約束したんだもの。
「うぅ~~~」
がまんしていた涙がぼろぼろこぼれてきた。
泣いたってどうにもならないんだから、泣くな、泣くな、泣くな!
ぐしぐし
「ありがとう。少し元気になったよ」
ちょっとだけど、笑う元気が出てきた。がんばろう。
美幼児と笑いあって、また城を目指した。
***
どれくらい跳んできたのだろう。城がこころなしか大きく見えてきた気がする。
気付けば大きな月が頭上に輝いていた。珍しく雲も霧も出ていないようだ。大きな満月は人界で見るより青い。魔界の月は満ちるごと、欠けるごとに少しずつ色が変わっていって、次の満月には水色になるらしい。
「きれい……」
いつもは見えない星まで見える。うん。今日はきっと運がいい。
考えてみれば外壁の外で魔物や魔獣に襲われたのにこうして生きているんだから、わたし、すごく運がいい! すごく元気が出てきた!
「よーし、いっくぞー!」
わたしは浮き上がってきた気分そのままに枝を蹴って跳びあがった。
息があがるほど跳んで跳んで跳びまくったわたしの耳に美幼児のか細い声が届いた。
「まーま…。みゅう…」
「へ?! あ!!」
高く高く跳躍していて、ほとんど空を飛んでいたわたしの体はいきなり重力につかまった。
美幼児の魔術が切れたのだと理解してももう遅い。ガクンと崩した体勢のまま、鋭い木を目がけて落ちていた。
せめてこの子は守らなきゃ…!
まゆたまごごと引き寄せて小さな体を抱きしめる。覚悟を決めてぎゅっと目をつむった。
ごめんなさい、魔王さま。
「ただいま、リオネッサ」
風を切って落っこちていたわたしの体が浮いかと思えば、耳もとで魔王さまの声がして、わたしは急いで目を開けた。その
目を開けたその先にには、魔王さまの満月にも負けないくらいきれいな瞳がすぐ近くにあった。
「まおうさま…」
魔王さまがいるとわかったとたん、体から力が抜けた。涙を流していることすら忘れて魔王さまを見つめるわたしの頬に魔王さまが困ったように指をそえた。
「その、…ただいま。リオネッサ」
涙をぬぐってくれる魔王さまの指があたたかくて、さらに泣きそうになってしまったけれど、なんとかがまんした。これ以上魔王さまを困らせるわけにはいかない。
代わりに今できる精一杯の笑顔を浮かべる。たぶん、というかぜったいぶさいくだけど。
「おかえりなさい、魔王さま」
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