第3話:料理長マルガのつぶやき
はいは~い。魔王城で料理長やってるマルガよ~。チャームポイントはりっちゃんに褒めてもらった鱗かしら?
城勤務だけど、火トカゲの族長やってるわ~。そろそろ引退したいんだけど、後継がだらしなくって~。もう少しやる気だしてくれないかしら~。
ただいまりっちゃんと夕飯を作ってる最中よ~。あいかわらず手際いいわ~。私よりよっぽど料理長って感じね~。
実家でやってたから慣れてるだけって言ってたけど、手つきが鮮やかでうっとりしちゃうわ~。
ほんと、食べたちゃいたいくらいに。
なんて言ったら魔王様に
でも本当に美味しそうなんだもの。思うくらいはいいわよね?
人界と交流するようになって人食いが禁止されてからずいぶん前の事だから、人間の味を知ってる魔界人なんて…………ひとりふたり…けっこういるわね。かく言う私も…。
でももう何百年も前の事だし時効よね、時効。アラアラ話がそれちゃったわ。
ともかく、魔王様はとっても良い
りっちゃんが厨房に入るようになってから料理のバリエーションも増えたし~。
魔界人は食べれりゃいーや、ってヤツばっかりだもの~。煮るか焼くかがほとんどで、食べて死ななけりゃいーやー、焦げてようが生だろうが腹が膨れりゃ何でもいーやーってね。味なんて二の次、三の次よ~。
むしろぜんぜん気にしないヤツのほうが大半よね~。私が料理長やってるのも炎が扱えるからだもの~。
初めてりっちゃんの手料理を食べた時、私には細かい味はわからなかったけど、甘くて初めて食べる味だったのは確かね~。きっとあれが美味しいってことだったのよ~。
アルバンさんも人界料理に興味が出たみたいでりっちゃんといろいろ作ってるしね~。
ふふっ。私、そろそろ料理番おろされちゃうかしら~? それもいいわよね~。
けどりっちゃんと料理を作るのは楽しいもの、火加減もだいぶん覚えてきたし、もう少し続けたいわ~。
初めてりっちゃんにお願いされた時は張り切りすぎて食材を炭にしちゃったのよね~。あの時のりっちゃん、ぷるぷる震えててかわいかったわあ~。
それからも消し炭にしちゃったり、丸焦げにしちゃったり、溶かしちゃったりしたけど、今では竜骨をコトコト煮込んで出汁も取れるくらいに上達したのよ~。
スープ作りの時はずっとつきっきりじゃなくてもって、りっちゃんが心配してくれるけど、私は暖かいところでじっとしてるの嫌いじゃないわ~。
それから泡だて器を使うのだってお手の物よ~。
ふわふわのメレンゲやかための生クリームを泡立てることだってできるわ~。りっちゃんに喜んでほしくておばさんがんばっちゃった~。
私の爪でも持てるようにってりっちゃん手ずから取っ手を工夫してくれたんだもの、そりゃあ使うわよお~。
魔王様がうらやましそうに見てても知らんぷりよ~。
そのうちりっちゃんが刺繍したハンカチをもらえるんだもの、これくらい我慢してもらわなくっちゃ~。私も欲しいけど、りっちゃんの負担が増えちゃうもの~。ガマンガマン。
魔界の常識を覚えるだけでも大変でしょうに、魔界語の読み書きや、王族に相応しい行儀作法だの所作だのまで習ってるんだもの。アルバンさん、張り切りすぎじゃないかしら~? りっちゃんがまた無理して倒れちゃわないか私達いつもハラハラよ~。うちの若い連中にも見習わせたいわね~。
「りっちゃん、これくらいでどうかしら~」
「バッチリです、マルガさん」
考え事してる間にホワイトソースの完成よ~。
今日はシチューなんだけど、大量に作って余ったらグラタンにするのよ~。楽しみだわ~。
りっちゃんの料理は好評すぎていつも余らないんだけどね~。
今日は厨房で一番の大鍋で作ってるんだもの。城中に配って回るわけでもなし、さすがに余るわよね~?
念の為に大食らい共には釘を刺しておかなくっちゃ。
くじ引きで外れを引いた子は今までの煮たり焼いたりしただけの肉なのよね~。料理人の数は多くてもまだまだりっちゃんのレシピを覚えきれてないもの、仕方ないわよ~。
私は魔王様にお出しするものを作ってるから優先的にりっちゃんに教えてもらえるのよね~。毎日りっちゃんの手料理を食べられるおかげでグルメになっちゃったわあ~。
他の子達も美味しいものが食べたいって言いだし始めてるし~。アルバンさんが人界料理を作れる料理人を雇うか検討してるらしいわ~。
でも難しいでしょうね~。
魔界は人界人からの人気が低いのよね~。
魔獣がうろちょろしてるから当たり前なんだけど、観光できる場所もないし~。人界人の料理人は望み薄よね~。
だからって魔界人の料理人で人界料理が作れるなら人界にいるでしょうし~。アルバンさんが料理人やった方が早いわよ~、ぜった~い。
魔界の食材は物騒なのが多いみたいなのよね~。りっちゃんちょうびっくりしてたもの~。
人界料理に向かないのか最初は失敗ばかりでね~。料理長を名乗っていたくせ、料理の事も食材の事もなーんにも知らないって思い知ったわ~。
図書室でりっちゃんと一緒にいろいろ調べてようやくまともに料理できるようになったのよね~。
マンドラゴラの灰汁抜きやベラドンナの毒抜きがうまくいったときの感動ったらなかったわ~。毒味役のアルバンさんも大喜びだったわね~。
そこからアルバンさんも料理にはまったのよね~。
毎月大量の食材と料理本を人界から取り寄せるようになったし、人界の食材を栽培し始めて、魔界植物の無毒化や無害化やらの研究も始めたみたいだし、いつ休んでるのかしら~? さすが、最長老ね~。
アルバンさんばっかりりっちゃんと菓子作りするのはずるいって魔王様が拗ねるもんだから、魔王様でも入れる専用厨房と扱える料理器具も作ってるらしいし、魔王様に厨房への立ち入り禁止令を出した人とは思えないわ~。
美味しい料理は人を変えるのね~。りっちゃんにお菓子の作り方を習ってるアルバンさん、輝いてるもの~。
さて、アルラウネにわけてもらったルーネはよく洗って、それから強火でアク抜きよ~。
ポイントは消し炭になる一歩手前の強さで三秒炙るトコロね~。口を大きく開けて、いち、にい、さん!
これもりっちゃんと試行錯誤して見つけたのよ~。ウフフ。ちなみに炎を上に向けて吐くと周囲の物を焼かなくてすむからオススメよ~。
「りっちゃーん。ルーネのアク抜き完了よ~。次はみじん切りでいいのよね~?」
「はい。みじん切りのあとは炒めてサラダの上にのせてください」
「はいは~い。了解よ~。油は適量適量~っと。
りっちゃんのおかげで毎日美味しいご飯が食べられる魔王様は幸せ者ね~。今日もお弁当作ってあげたんでしょう~?」
「は、はい。そうですか? 喜んでもらえてるなら嬉しいんですけど」
「うふふ。大喜びよ~。デザートも気に入ってるし~。アルバンさんなんてデザート作りの腕をめきめき上げてるじゃな~い? そうとう気に入ってる証拠よ~」
「すごいですよね」
すごいはすごいけど、それはりっちゃんからの好感度を上げるためが六割だったりするのよね~。りっちゃんは鈍いから気付いてないけど~。
その方がりっちゃんに気を使わせなくていいってアルバンさんも思ってるから構わないんだけどね~。
ああ、魔王様のお帰りね~。
ふふ。よっぽどりっちゃんにはやく会いたいのね~。空気を裂いて跳んでくる音がここまで聞こえてくるわ~。
うっかり弾き飛ばされちゃった幽鬼はご愁傷様。
「あとは私がやっておくから、りっちゃんは急いで部屋に戻って着替えてらっしゃい~。
そろそろ魔王様もお帰りになるでしょうから~」
「はい、お言葉に甘えさせてもらいますね。お願いします」
赤くなって照れるりっちゃん、やっぱりかわいいわあ~。
こうやってからかうと遠慮を忘れてくれるのよね~。やりすぎないように気をつけなくちゃ~。
「それじゃ失礼します」
「は~い。魔王様によろしくね~?」
あらあら耳まで真っ赤よ、りっちゃん。
小さな背中が扉の向こうへ消えてしまうと、厨房がとたんに静かになった気がするわ~。
「入ってきてちょうだい。
ちゃっちゃと盛り付けしちゃいましょ~」
隣部屋で待機してた料理人がぞろぞろ位置に付く。
盛り付けだけならりっちゃんがいなくてもできるようになったのよね~。魔界人は不器用なのが多いから仕方ないけど~。
「毎回言ってるけどつまみ食いはダメよ~。
したら生きたまま焼き殺すわ」
「味見ならいいですか!」
「もうしたわよ~。味見したいならせめて皮むきをマスターしてから立候補なさいな~」
「ちぇー」
今まで料理番の誰も味なんて気にしなかったのにね~。前と比べたら格段に扱いやすくなったわ~。
なにせ料理の腕を上げなけりゃ、りっちゃんの料理を食べられないんですもの。アルバンさん、策士だわ~。
この子達全員が腕を上げたなら魔界の食事事情も改善できるかもしれないわね~。かなり時間がかかりそうだけど。
それにしてもむさくるしいわあ~。厨房にいるのはでかくてごつい男共ばっかりなんだもの~。
………こうなったら、人界から攫ってこようかしら。魔界(こっち)は保護者がいないとほとんどすぐに死んじゃうけど、人界は孤児とかその辺にいそうじゃない?
そういった子なら攫ってもばれないし、料理人を探すより育てたほうが早いと思うの。昔はけっこう頻繁にあったことだし、ね?
りっちゃんみたいに小さくてかわいらしい女の子がいいわ~。やる気に係わってくるから花があるってとっても大事よね~。
アルバンさんに相談してみようかしら~。
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