第11話 春の大会が御厨美冬の場合 その6

「そういえばさ、美冬ちゃん今日ずっと私のこと見張ってたよね?」

 長話に一区切りがつき、午後の部が始まるからと会場に戻ろうとしていた途中、不意に佐々良先輩がそう言った。

 見張ってた、という剣呑な言い回しにアタシは少したじろぐ。

「そういうわけじゃないっすよ。ただ……」

 正直に言っていいのだろうか。何か誤魔化すべきなのかと一瞬迷ったけど、今更無理だ。

 口止めされていたわけでもないし、アタシだって詳しい話は聞かされていない。教えたって別にいいだろう。

「阿僧祇さんに頼まれたんすよ。それとなく佐々良先輩の様子を見ててくれって」

「肇ちゃんが?」

 佐々良先輩は目を丸くしていたが、やがて何かに納得したかのように小さく頷き、そして脱力した。

 品行方正で真面目を絵に描いたような佐々良先輩が、ぐでっとだらしなくその場に座り込む。

「あー、そうか。そういうことかー」

「どうしたんすか急に? これから決勝トーナメントっすよ」

「やる気なくなっちゃった」

「は?」

「いや、冗談。真面目にやるよ。うん」

 あまり冗談には見えない。というか、ガチヘコみしてるように見える。こんな佐々良先輩は初めてかもしれない。

「私なりに頑張ってきたつもりだったけど、いつまでも経っても私は肇ちゃんにとって幼馴染みの沙羅なんだなって思っただけ」

「でも、実際幼馴染みなんすよね? てか、阿僧祇先輩は一体佐々良先輩の何を心配してるんすか?」

「それは私が前に、――――から」

 誤解なんだけどね。私はそんなつもりなかったし、でも客観的に見たらそうとしか見えなかったらしくて――と、佐々良先輩は続ける。

 アタシは自分の耳に入ってきた異質な単語を、すぐには認識できなかった。

 脳内で反芻する。

 聞き間違いではなかった。

 佐々良先輩は自殺未遂、と言ったのだ。

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