第11話 春の大会が御厨美冬の場合 その1

『私、失敗しちゃった』


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 自分が出場しない大会にわざわざ着いていくのもおかしな感じだけど、布留川を焚きつけたのは他でもないアタシなので、流石に応援くらいはしてやらないと不義理というものだろう。

 義理なんて、アタシが言えた言葉じゃないけれど。

 だったらもう行く気のない奨励会なんてさっさと退会してしまえという話で。

 御厨美冬が何を思っても、何を言っても、結局はこの問題に帰結する。

 将棋部にいると時間が止まっているような気がしてくるけど、冬も終わってもうすっかり春になった。もう二度と将棋なんか指すものかと思った五月から十ヶ月ほど経ってみて、少しだけ心境に変化が生まれた。

 もうすぐアタシは投了する。

 だけどその前に、今度こそちゃんと形作りをしようと、そう思ったのだ。


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 布留川が阿僧祇さんに告白したらしい。

 大会で勝ったら告白すると言っていたのに、どこをどうしてかフライングしてしまったようだ。将棋と恋愛は関係ないわけで、それはそれでいいんじゃないかと思ったのだけど、布留川は失敗してしまったと思い込んでいる。

 さりとて振られたわけでもないらしい。

 布留川が返事を待たなかったのか、阿僧祇さんが保留したのかよく分からないが、なかなか要領を得ない布留川のLINEのやりとりでようやく聞き出せたのがここまで。

 即答は出来ないというのは有り得ることだとは思うけど、それにしては布留川の方が失敗したと強く思い込んでいるのが気になる。

 ともかく、今日会えるのだから本人に直接聞けばいいだろう。

 そう思って集合場所に来たアタシだったけど、布留川も阿僧祇さんもまだ来てなかった。

 意外、というか一番乗りは白樺あんずだった。

「あー、白樺もう来てたんすね」

「え、えへへ……。お父さんに送って貰ったから……」

「ふうん……」

 白樺が無理矢理な感じの笑みを浮かべる。アタシの外見が気の弱い人間の恐怖心を煽るのは自覚しているけど、白樺は特に酷い。

 気の毒なので早く布留川か誰か来て欲しいなと思った。

「そ、そういえば部室にあるハローキティのマグカップ、可愛いよね。御厨さんに似合ってるっていうか」

「……? あれは佐々良先輩のっすけど」

「え、ええ? そうなんだ。てっきり御厨さんのかと……えへへ……」

「………」

「………」

「み、御厨さんは休日とか、どう過ごしてるの?」

「休日っすか? 別に普通っすけど」

「や、やっぱり、ドンキに通ったりしてる感じ……?」

「は?」

「ひいい! ごめんなさいごめんなさい!」

 怖がられると思っていたけど、意外と向こうから話しかけてくる。気を遣わせているのだろうか。話の内容はさっぱり分からないけど。

 うーん、白樺は布留川と阿僧祇さんのことを聞いたりしてるだろうか?

「そういえば白樺」

「ひぃん!」

「あー……昨日帰ってから布留川とLINEしたりしたっすか?」

「え? し、してないけど……」

「そうっすか」

 それはそうか。

 正直なところ、告白さえしてしまえばあの二人は簡単にくっつくと思っていたので、こういう状況になるのはあまり想定していなかった。

 何か歯車が噛み合わない理由があるのだろうか。

 そうだとすると、アタシは余計なことをしてしまったことになる。

「御厨さん、今日は頑張ろうね……!」

「え?」

 あー、そうか。白樺はアタシが大会出られないって知らないのか。

「アタシは指さないっすよ。エントリーもしないっす」

「ええ……」

 何しに来たんだこいつって顔してるな。

 それはそうなのだけど、今回に限ってはアタシにもやることがあるのだ。


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