第7話
いくたびか丸メガネとの作戦会議を経て、おかあさんと宰相さんの仲はそこそこ進んでいた。
宰相さんがおかあさんにプレゼントを贈り、そのお礼の手紙をおかあさんが送ったのをきっかけに手紙のやり取りが始まり、今では月に何回か二人で会うようになった。おかあさんの話にもぽつぽつ宰相さんの話が混ざるようになってきた。ベツニサミシクナンカナイケドネ。
「きょうは宰相さんとすてきなお菓子屋さんに行ったのよ~」
笑うおかあさんプライスレス。ベツニサミシクナンカナイヨ。
今日も今日とて依頼をこなしてギルドに顔を出すと、なにやら剣呑な空気が漂っていた。いつもわいわいがやがや和気あいあいとしているのに珍しい。
「こんにちはー。依頼達成の報告に来ましたー」
「お疲れ様でした。ご無事でなによりです。それでは討伐証を解体所に収めたのちに依頼達成印を付与しますね」
「わかりましたー」
丸メガネはいつもより事務的で、わたしの名前を呼ぶこともなかった。わたしが誰かを特定されないようにしている。うわあ面倒事の予感。
解体所へ足を向けながらこのピリピリした空気は、冒険者ギルドに似合わない恰好の見慣れない、というか見たことのない男のせいかもしれない。
獣人中心のニュシェム国にいるのに、一目でエイゾル教徒だと判別できる法衣なんて着てればそりゃ周囲から敵視されるわ。
エイゾル教徒が獣人たちになにをしてきたのか知らない訳ないだろうに。
ああ、知っててもどう思われてるか実感してないのか。うわーバカー。愚かー。
「今回も大量だねえ! 依頼表確認するから待っててね。
暴れオーガが五体……はい、
「一番大きいのを買ってやったので」
「さすがミコトちゃんだねえ。ええと、ヘルキャット五頭……」
依頼表とマジックバックから出した中身とを見比べながら
「今回も素材は全部ギルドの買い取りでいいのかい?」
「珍しい色の
「珍しい色ねえ……。全部解体したわけじゃないからまだわからないけど、オーガの魔石は全部普通の色だったねえ。よほど強いか珍しい魔物獣とかでないと見ないって話だよ。あたしも聞いたことがあるだけで見たことはないねえ。
酒の入ったじいちゃんが大昔に勇者の倒した暗黒竜が持ち込まれたときにそりゃあもう真っ赤な、煮えたぎるマグマよりも赤い
「そうですか……」
魔石は魔獣や魔物を倒すと手に入るものだ。生きているときは魔力を発生させる魔力炉に、死ねば魔力を帯びた石になる。
だいたいは倒した対象の持つ属性に染まっている。火属性なら炎の色に、水属性なら水色に。全属性を持ったものだと七色のような、万華鏡のように色が変わる石になるらしい。
なんでわたしが珍しい色の魔石を探しているかというと、もちろんおかあさんにプレゼントしたいからだ。
上質な魔石は宿る力が強い分、護りの力も強い。
珍しい色の魔石は属性防御アップ以外の恩恵も得られると聞いたので、おかあさんにぜひ身につけてほしいのだ。
ちょっと遠出して強いってウワサの氷山竜を狩ってこようかな?
腕っこきの細工師さんが宰相さんの知り合いなんだから、これを利用しない手はないもん。いい細工師にいい魔石を渡せば、良いアクセサリーができるに違いない。
どうにかして珍しい魔石を手に入れたいなあー。金にものを言わせて人工魔石でも作ってもらおうかなー。
腕組みをしながら考えて、受付に戻ってきたら、さっきまでのピリピリとした空気がさらに荒れてギスギスしていた。
なにがあったんだ。
「すいません、ひっどい空気ですけど、なにかあったんですか?」
「ええ、まあ……」
横目でエラソーにふんぞり返ってイスに座っているエイゾル教徒を見ながら依頼達成印を付与してもらう。
丸メガネはうんざりした様子で眼鏡のつるを押し上げた。その視線はやはりエイゾル教徒に向いていた。
「はい、討伐お疲れさまでした。ギルド長からお話があるとのことですので、お時間をいただきます」
「わかりました」
素直に丸メガネのあとについて歩く。
背中にめちゃくちゃエイゾル教徒の視線を感じたがムシした。
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