第5話

 国境近くで異常発生して農業被害や通行止めを起こしたり、狂暴化して手が付けられなくなったりした魔獣魔物をひと狩りしてギルドに顔をだすと、いつもどおり丸メガネの歓迎があった。こいつヒマ人だな。


「こんにちはー。ただいま戻りましたー」

「おかえりなさい、お疲れ様でした」

「討伐証と素材を提出したいんですけど、解体所はあいてますか?」

「ええ、空いてますよ。そろそろお帰りになるかと思って、予約しておきました」

「ありがとうございます」

「いえいえ」


 解体所で、神殿に足下見られてぼられたけど意地で買ってやったマジックバックを空にすると、解体者のおじさんたちが泣いてよろこんでくれた。

 やったね、おじさん。三日はぶっとおしで解体できるよ。ヨカッタヨカッタ。オメデトー。


「お疲れ様、ミィちゃん。たいへんだったでしょ~?」

「えへへ、ただいま、おかあさん。そんなことなかったよ」


 食堂でおかあさんと向かいあいながら食べるおかあさん特製のチーズハンバーグは最高ですな!


「ハイモさんがおしえてくれたんだけど、魔物がたくさんだったり、狂暴化してたりしたんでしょう?」


 ハイモ? だれだろう。おかあさんにちかよる悪い虫なら退治しないと。


「だいじょうぶだよ。罠をはって、魔術でちょちょいのちょいだもん。たいへんなことなんかないよ」


 嘘じゃない。

 Bランクぐらいまではそうやって安全に、慎重に、依頼をこなしていた。

 魔力が増えに増えて、度胸もついた今では、身体強化で獲物に近付いて、魔術をぶっぱするお手軽戦法だ。

 ぶっぱするのが炎の魔術で、移動のはやさが雷みたいだから『炎雷の黒豹』なんてふたつ名がついてしまったのだけれど。炎いがいの魔術も使えますけど?

 うーん。調子にのって汚物は消毒だー! とかやってたのがいけなかったのかもしれない。

 最近は遠距離魔術も使うようになったのに。ふたつ名の付けなおしを要求したい。今回の影狼シャドウウルフだって炎の槍を雨とふらせて全滅させたわけだし。

 燃やしてから討伐証どうしよう! って気付いて慌てたけど。焼け残った頭がい骨を拾ってことなきを得た。


「まあ、そうだったのね~。なら安心だわ~。そうよね、もう昔みたいにケガをして帰ってくるなんてことなくなったものね~」

「うんっ」


 おかあさんお手製のデザートを食べながらつくづく思うのは、おかあさんがギルドの食堂につとめることになって本当によかったということだ。

 朝は出勤するおかあさんといっしょにギルドにいけるし、ギルドにいればおかあさんの作った食事を口にできる。帰りも仕事がおわったおかあさんといっしょに帰れる。

 つまりおかあさんに課金をしながらいっしょにいられる。うーん、ここが楽園か。


「お食事中すみません。ミコトさん、預かっていた手紙を持ってきました」

「まあありがとうございます、ハイモさん」

「アリガトウゴザイマス」


 おかあさんによけいなことをふきこんだのは丸メガネだったようだ。おのれ。


「これくらいお安い御用ですよ、お母様」

「まあ、お母様だなんて。そんなにかしこまらないでくださいな。カミラでけっこうですわ」

「ではカミラさんと」

「ええ、ありがとう。

 それじゃミィちゃん。私は休憩がおわるから、戻るわね。ゆっくりしていってね~」


 ひらひらと手をふり、職場にもどっていくおかあさんソゥキュート。女神か。


「宰相様からのお手紙の内容はどのようなものでしたか?」

「イマカラヨムトコデス」


 エエイ。おかあさんとの時間のよいんにひたっていたというのにこの丸メガネは。

 しかしあの良い王様を支えている宰相さまからのお手紙ともなれば、中身が深刻な相談でもおかしくない。依頼で空けた日数の穴埋めははやいほうがいいだろう。


「どれどれ……」


 キレーな字だけれど、草書体だし、時節のあいさつはむずかしくて目がすべる。

 すごしやすい季節ですね、か季節の変わり目だけど体はだいじょうぶ? みたいな内容だとおもう。たぶん。自信はない。

 日本と違って識字率が高くないこの世界では、むしろ読み書きが完璧にできる一般人のほうがめずらしい。

 わたしに字を教えてくれたおかあさんももちろん読み書きがあまり得意ではないので、わたしも読み書きがあまりできないのだ。

 神殿に金を出せば教えてくれるそうだが、だれがあんなやつらに頭を下げるか。代筆人や代読人に金を出すほうがよほど有意義だ。


「よろしければぼくが読みましょうか?」

「お願いします」


 みけんにしわをよせながらのろのろと読みすすめていると、見かねた丸メガネが代読を申し出てくれた。ありがたい。


「ええと……。ざっくり言い現しますと、宰相様がカミラさんに一目惚れをしたのでお近付きになりたい、できればミコトさんには応援してほしい、カミラさんの好みなどを知りたい、と書いてありますね」

「ほうほう」


 がんばって宰相さまを思い出す。おかあさんいがいの人間とか基本、どうでもいーからなー。

 ええと、でっかい犬? 猫? みたいな王さまの横にいて……うーんと、……そう! おかあさをベタボメした人だ! おかあさん談義をしてみたいなあって思った人だ!

 おかあさんも「すてきな人にほめられちゃた~」って喜んでたっけ。

 うん。まずは面接かな!


「ははは。ミコトさん、圧迫面接でもしそうな雰囲気ですね」


 こっちの世界にもあるのか、圧迫面接。

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