第4話
いくつかの依頼を達成し、なにごともなくSランクに戻った。
おかあさんの仕事も決まったし、借家も紹介してもらったし、丸メガネには感謝だな。
ギルドを通じてメルーベからも依頼があったけれど、戦争への参加要請だったので、もちろん断った。しつこい。
メルーベが戦争をしかけようとしている国に住んでいる人間に出す依頼じゃないだろ。頭わいてるな。そもそも不当にランクを下げやがったやつの言うこととか聞く気になるか? 私はならない。
メルーベの国教エイゾル教はおかあさんから聞きかじった話によると一神教で、人間は最高神の創った至高の一品でとてもすごい! 最高! だからその他の種族を亜人と呼び差別している。
だから獣人たちはニュシェムなどの周辺国に逃げ出すのだが、神が祝福を約束している人間様のもとから逃げ出すとはなにごとだ! と逆ギレするのだからどうかしている。
奴隷制度は禁止されているのに、それが獣人たちには当てはまらないというのにも腹がたつ。
どうせ二度と戻る気はないので、腹いせに奴隷小屋をぶっ壊して繋がれていた獣人たちを逃がしてやった。覆面をして匿名希望と名乗っておいたのでだれもわたしとは気付いていないはず。なぜそんなことをしたかって?
奴隷商人がため込んでいた金はその辺にいた浮浪者たちにばらまいたので、再開資金がなくてさぞかし困っていることだろう。
所持金の三分の一を使って腕利きの運び屋にニュシェムへ送り届けてもらった。運び屋もちょうど
のんびりとひと月も旅をしたわたしたちと違って、超特急でニュシェムに行くと言っていたから、今ごろニュシェムでの生活になれたころだろうか。
Sランクに戻ってしばらくして、ギルマスから手紙が届いた。ギルドではなく個人としての手紙だった。
「あいかわらずたいへんそうだなあ。胃薬たりてるといいけど」
「戦争参加の要請依頼はやみませんしね」
「うん。神殿のやつら頭と中身がクソだから。
もしメルーベと戦争になっても私はこの国の味方をしますよ」
「それは頼もしいですね。『炎雷の黒豹』がいるならこの国は安泰だ」
今日は難易度の高い依頼がなかったので休憩スペースでお茶をしている。
やはりこの丸メガネ、茶をいれるのがうまい。
「そういえば国王陛下から謁見のお誘いがきているのですが、どうします?
「なんの用ですか?」
「おそらくあなたの武勇伝を直に聞きたいのだと思いますよ。お若い頃は冒険者をやっていた方ですので。最高ランクはSとか言ってますけどたぶん盛ってますね」
「見栄くらいはったっていいじゃない、王さまだもの。ミツヲ」
「ミツオ?」
「いえ、別に。わたしはだいじょうぶです。さしせまった依頼がないかぎりはギルドで時間をつぶしているだけですし」
「ではそうお伝えしておきますね」
だってギルドの食堂にはおかあさんがいるんだもん。おかあさんの手料理が食べられるなんてすばらしい環境だ。
「あ、そうだ。かしこまった場ならお断りしておいてください。正装とかガラじゃないので」
「おや、お似合いになると思いますが。
ご心配は無用ですよ。陛下もそういった場は苦手なか方なので。今回も非公式の場を用意してくださるそうです。
ああ、ミコトさんのお母様もお連れして欲しいそうですよ」
「……なんで?」
めいっぱい警戒するわたしに対して丸メガネは少し笑った。
「Sランク冒険者の『炎雷の黒豹』様を育てあげた素晴らしいお母様にお礼を述べたいから、だそうです」
「よろこんでむかわせてもらう」
おかあさんのすばらしさがわかるとはなかなかやるな。
***
王さまに会うからとおかあさんに新しい服やアクセサリーを贈ることに成功したわたしはうきうきとギルドの扉を開けた。
「こんにちは」
「こんにちは、いらっしゃいませ。今日もお美しいですね、ミコトさん」
「依頼はありますか?」
「ミコトさん向けのものがありますよ」
「ほうほう。んー~? これは、もしかしてメルーベのギルドから?」
依頼書の何枚かは場所がメルーベとニュシェムの国境ちかくだった。むしろほとんどメルーベ側だ。
「ええそうです。最近は冒険者の流出が続いているので、魔物の討伐が滞っているようなのです」
「あーなるほど。で、その魔物が国境まであふれてきてる、と」
「ええ、そうなんです」
頭をかきながら依頼書に目を通す。
魔物は人家や街に近いところから討伐されていくので、辺境や田舎、人のいない国境ちかくなんかは大量発生しやすい環境ではある。
けれども好きな環境に固執するのか、魔物は生息域を離れることはあまりない。それこそ餌がなくなったり、縄張りから追い出されでもしない限りは。
「王国騎士も出動回数が増えているそうですよ。神殿の武装修道士や武装司祭なんかも討伐に駆り出される回数が上がっているようですが、まあお察しの通り焼け石に水ですね。
十分な実戦経験のない新人修道士なんかが上から難易度の高い魔物討伐を割り振られ、大怪我、もしくは死亡し、戦線離脱、人手が足りなくなるという悪循環に陥っているようです」
「うわあ」
いつもえばりちらかして金集めだけに熱心だったツケがまわってきている。ザマア。
もし志篤い新人さんがいるならかわいそうなことだが、とっとと逃げるか強くなるしかない。がんばれ。
ニュシェムの王さまも流民対策にてんやわんやだと話していたし、ギルマス――……バルおじさんも神殿や冒険者の流出対策で頭と胃が痛いと手紙で嘆いていた。かわいそう。
夜逃げでもしてしまえばいいのに、と思うけれど、ギルドマスターという責任を負う立場だからそう簡単にはいかないのだろう。かわいそう。
「じゃあさくっとひと狩りいってきますか」
「いってらっしゃい。お気をつけて」
ああそうだ、と扉を出がけしな、丸メガネが思い出したように声をあげた。
「宰相様から親展のお手紙が届いてますよ」
それは先に言え。
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