第2話
メルーベ国の王都エスフォアからひと月ほどでニュシェム国に入った。
驚くことにしっかりとした関所があり、役人がきちんと仕事をしていた。メルーベとはエライ違いだ。あっちは賄賂さえ渡せばすんなり通れたもんなあ。
「こんにちは、ようこそニュシェムへ。身分証の提示とこちらにお名前の記入をお願いします。入国目的はなんですか?」
「クソ神殿から戦争で捨て駒になってね☆(意訳)と言われたのでおかあさんと逃げてきました」
「ええと、移住目的です~」
役人はわたしたちの話を聞いているのかいないのか、わたしの提示したギルドカードを見てぷるぷると震えている。お腹でも痛いのかな?
ギルドカードといえば、神殿からの戦争参加要請を断ってメルーベからニュシェムに移住することで、なんらかのペナルティが発生しているはずだ。もしかしたらランクが下がっているかもしれない。
ふつうならそんなことは起こらないのだが、なにせメルーベはエイゾル教の影響が強い。
冒険者ギルドに限らず、世界中の国に様々なギルドがあり、所在国に関わらず独立性を保ち、ギルド同士の横の繋がりがあるのだけれど、メルーベのギルドは国教ということで調子に乗っている神殿からの圧力があり、上層部も神殿に媚びたり賄賂を送っているようなのだ。
むちゃぶりされたり、賄賂を要求されたりして散々だと冒険者ギルドのギルマスがぐちっていた。
なんにせよランクが下がってもやることはひとつ。ダンジョンに潜ってお金を稼ぎ、おかあさんに楽をしてもらうんだ!
「至急王都に連絡しろー! 『炎雷の黒豹』様がおいでだー!」
今までずっとぷるぷるしていた役人が叫んだ内容にムッとしながら、自分の髪の毛をつまんだ。確かにわたしは黒髪だけれど、中二病はとっくの昔に卒業しているのでもっとさわやかなふたつ名で呼んでほしい。
「まあ。ミィちゃんはニュシェムでも有名なのねえ。すごいわ~」
「えへへ、そうかなあ。それほどでも。えへへ」
「どうぞこちらへ!」
興奮した様子の役人に客間へ通され、お茶とお菓子を出された。美味しい。
「ん、おいしい。毒はないから食べても大丈夫だよ、おかあさん」
「ありがとう、ミィちゃん。それじゃあいただくわね~」
おかあさんと楽しいティータイムをすごしていると、偉いらしい人がきてニュシェム国はわたしを歓迎するし、主なダンジョンは探索自由だし、他にも何か要望があれば融通すると言ってきた。
集めた噂にたがわず有能な人物を集めている様だ。ニュシェムに来てよかった。
わたしはともかく、おかあさんの生活を保障してくれるというなら文句はない。そのことを伝えると偉い人は任せてください! と宣言した。
「あの有名な『炎雷の黒豹』とその母君を粗末に扱う者などこの国にはおりませんよ!」
メルーベにはけっこういたけどな。両親がいないとか、父なし子を産んだとか、捨て子を拾ったとかいう理由で。
あとそのふたつ名はやめてほしい。
「ねえ、ミィちゃん。私のことはいいのよ? もっと自分のことを考えてちょうだい? お母さん、心配よ~」
「ありがとうおかあさん。大丈夫。わたしこれでもSランクだし、勝てない魔物に遭っても逃げに徹するから。なにがあってもぜったいにおかあさんのところに帰るから」
「ミィちゃん……。無理しないでね~?」
「うん!」
おかあさんはいつだってやさしい。もっと親孝行したいなあ。
「あの、冒険者ランクのことなんですけど、下がりましたよね?」
「ええ、メルーベ国のギルドから通達が届いています。ええと……」
「Cですか? Dですか?」
「………Fです」
「わあ」
「あら~? Fってたしかミィちゃんが登録したての時のランクだったような……」
おかあさんの言うとおりだ。
冒険者ギルドの設定しているランクは上からS、A、B、C、D、E、Fの七階級で、受けた依頼を放棄したり、失敗し続けたり、他にもギルドのルールに反した行動をとったりするとランクが下がることがある、が、最高ランクのSから最低ランクのFに降格される冒険者は初めて聞いた。
「理由は……想像がつくので言わなくていいです」
「ははは……。おそらくご想像の通りだと思いますよ」
神殿からの依頼を断ったものだから、ギルドに圧力がかかったのだろう。その辺は出てくるまえにギルマスと話し合っておいたので神殿からの要請通り遠慮なくランクを落としたのだと思う。
ギルマスは大丈夫だろうか。また胃薬が増えていないといいけれど。
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