おかあさんがいちばんっ!

結城暁

第1話

 わたし、大茂野おおものミコトは現代日本でどこにでもいるオタクな中学生をやっていたら、いきなり異世界転移などというものを体験し、喜んだのもつかの間、現実を叩きつけられ患っていた中二病は跡形もなく消え去ったという過去を持つ。

 事故だか、手違いだかで異世界に召喚されてしまったわたしは、わたしを呼んだやつらが期待する強大な力がなかったそうで、雑な説明をされて身ひとつで放り出された。

 たしかにその時のわたしは眼帯をして、血のりのついた包帯を巻いて、カラコンなんかもしていたし、異世界召喚と聞いて調子に乗ってポーズをとったり、自分のことを我とか言っちゃったりして、関わりあいになりたくなかった気持ちはわかる。よーくわかる。

 わかるが、そっちの事情でかってに呼び出しといてその扱いはあんまりだと思う。

 わたしだって事前に異世界召喚されることを聞いていれば、ちゃんとまともな装いをしたと思う。たぶん。もしかしたらこれでもかと中二病患者らしさを発揮したかもしれない。だとしたらあの程度ですんでまだよかった……のか?

 とにかく、翻訳の指輪を身に着けていた聖職者以外とは言葉が通じず、どうすればいいのか途方に暮れいていたわたしを拾ってくれたのがおかあさんだった。

 おかあさんは泣いていたわたしを家につれ帰り、身振り手振りで意思疎通を図ったり、あれこれと世話をしてくれた。そのおかげで今のわたしがある。

 おかあさんと話をしたい一心で異世界の言語を覚えたし、おかあさんの暮らしを楽にしたくて冒険者にだってなった。

 言語習得の苦労は今思い出してもうんざりする。くそう通訳機能くらいつけとけよ! サモ〇ナイトを見習え! わたしが言語オタクに片足をつっこんでなかったら心が折れてたかもしれないぞ!

 ちょっとだけ魔術の使えたおかあさんに教えてもらった魔術に磨きをかけ、体を鍛えて、ちまちまと経験をつみ、とうとうわたしはSランク冒険者にまで上り詰めた。

 そんなわたしに協力要請をしてきたのが私を捨てた神殿のやつらだった。

 当然断ったし、笑顔で罵詈雑言を投げつけてやった。日本語だけどな!

 人が苦労しておかあさんのために(ココ重要)Sランク冒険者になったのに、私にした仕打ちを忘れて手のひらクルー、戦争に参加しろだあ? 冗談じゃねーわ!


「というわけでおかあさん。夜逃げしよう」

「あら急ねえ、ミィちゃん。いいわよ~」


 どこに行くの~? なんて笑いながら、おかあさんは手早く荷作りをしている。


「ごめんね、おかあさん。ここはおかあさんの大事な場所なのに」

「あらまあ、いいのよ~。気にすることないわ~」


 おかあさんにお世話になって一年くらいして、言葉をあるていど理解できるようになってから、おかあさんにわたしをつれ帰った理由を聞いた。

 おかあさんは自分の子どもが生きていたらミィちゃんくらいなのよ、とちょっとだけさみしそうに、申し訳なさそうに、そう言った。

 おかあさんの娘さんは四才のときに流行り病で命を落としてしまったそうだ。貧乏だったおかあさんはお医者さんに娘さんをみせることもできず、お墓も共同墓地になってしまったと言っていた。

 共同墓地のほうが賑やかでいいかもしれないわ~、と言っていたけれど、やっぱりどこか申し訳なさそうだった。腹が立ったので、お墓参りのたびに個人墓地よりきれいになるよう掃除してやった。

 そんなおかあさんの大事な家族のお墓がある土地を離れなくちゃいけないなんて。神殿のやつら許すまじ。


「本当にいいのよ、ミィちゃん。家族はいつだって私たちを御空みそらから見守ってくれているんだもの~」

「……うん」


 今まで稼いだ全財産を持って、わたしとおかあさんはメルーベ国から逃げ出した。

 恐竜のラプトルによく似た竜馬りゅうばの引く馬車にゆられながら、わたしとおかあさんは隣国のニュシェム国を目指す。

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