第5話~霧の街~
霧の街。その名の通り、霧に覆われているのかと思ったが、何の変哲もない街だった。山々に囲まれており、街のある場所は平らになっていた。いわゆる盆地だ。その盆地に家々が密集していた。
「霧の…街…。霧に包まれているわけではないんですね。」
ボクの疑問をヤレンが可笑しそうに笑った。
「ふふふ、そうだね。朝起きると窓の外が真っ白ってことはあるけど、常に霧に包まれているわけじゃないよ。でも他の街よりもずっと霧が多いのは確かだ。多分、そこから命名されたんじゃないかな?ねぇ、イズミル、僕の推測は当たってる?」
「ああ、大体合ってると思うぞ。私が生まれるずっと前から、そう呼ばれていたから定かではないけどな。」
ボクはその言葉でヤレンがこの街の生まれではないことを知った。考えてみれば、ヤレンはどこからどう見ても竜の人間だった。今更ながら、どうしてレイト人の味方をしているのか不思議に思った。
ボクが尋ねる前に、イズミルがヤレンに声をかけた。
「ヤレン、そろそろだ。降りるように竜に言ってくれるか。」
「了解。揺れるから、しっかり捕まって。」
ボクは慌てて背中に等間隔に並んでいる突起に捕まった。
ヤレンは竜の首を撫で降りるように命じた。竜は「キュー」と短く鳴き、ゆっくり旋回し始める。身体が遠心力でずんと重くなった。初めての経験に恐怖を感じた。
竜は街外れの広い野原に降り立った。ヤレンがぴょんと飛び降り、竜の顔に手を伸ばす。竜は赤い瞳を細めて、ヤレンの額に己の額を付けた。ボクはそれを見て、胸の奥に不思議な感触が走った。言葉が通じない異種であるのに、互いを信頼し大切にしていた。これは何という名前の関係なんだろうか。
「ほら、少年。降りるんだ。」
ボクがぼんやりとヤレンを見つめているのに気づき、イズミルがボクの背中を押した。ボクはコクリと頷き、地面に降りた。
竜はボクとイズミルをじっと見つめ、一言高く鳴くと羽を広げて飛んで行った。太陽に当たると、神々しいまでに輝く。この世の物とは思えないほど美しい生き物だ。
ボクが竜を目で追っているのに気づき、ヤレンが微笑んだ。
「君、竜が気に入ったみたいだね。気高い生き物だろう?僕の自慢の友達さ。」
「…トモダチ?トモダチというのは、一体、どういう意味の言葉ですか。」
ボクの質問にヤレンが目を見開いて驚いた。
「え、友達を知らないのかい?驚いたなぁ。説明すると、うーん。難しいな。イズミル、説明できる?」
「おいおい、私にふるなよ…。そうだな…。互いに気を許し、相手を尊重することができる、そんな関係のことを指しているかな。」
「気を許して、尊重する…」
ボクは並んで立つ2人を眺めた。この2人の関係も友達というのだろうか。だが、それとは何だか少し違うように感じた。
「さてと、家に帰りますか。」
ヤレンに手をひかれて、ボクは歩き出した。
ヤレンの手は小さく指が細い。背もボクとほとんど変わらず、歳の割に華奢だ。前を歩くヤレンからは良い匂いがした。本当に男性なのか、ボクはほんの少し首を傾げた。
一方、ヤレンの隣を歩くイズミルは、アドニほどではないが背が高く、男らしい体格をしていた。金色の瞳は鋭く太陽に当たると黄金のように輝いた。イズミルはボクをちらりと見たが、すぐに視線を戻した。
遠くに古びた城が見え、その周りに石造りの家々が密集していた。ボクがいる場所は、麦畑だろうか畑になっていた。今は冬なので作物は無く、冷え冷えとしている。自給自足の生活を送っていることが分かった。
王都に比べると、ここは温かい。だが、それでも真冬なだけあって、空気がひんやりとしていた。
街外れから歩いてくるボクたちを、レイト人がじろじろと容赦なく眺めていた。やはり、皆普通の人間とは異なり、赤や紫、緑…、色鮮やかな髪と瞳を持つ者ばかりだ。新しく来たボクを不審そうに見ていた。ボクもヤレンも身塗れだからか、ぎょっとして家に引っ込む者もいた。
ボクは左腰に指している刀に手を置く。もし、襲ってくるようなことがあれば…。
「大丈夫。その手を離して。彼らが君を傷つけることは絶対にないよ。僕を今だけでいい。信じて。」
ヤレンがそっとボクの手に己の手を重ねた。ヤレンの真っ直ぐな瞳を見て、ボクは手を下ろした。
ヤレンが目を細めてボクに微笑んだ。丁度太陽が差し、金髪が淡く輝く。綺麗だ。ボクは初めて人間に見惚れた。
遠慮会釈のない視線を感じながら、ボクたちは城の近くの一軒家にたどり着いた。他の家々と変わらない平凡な家だ。イズミルはレイト人の長と聞いていたので、てっきり城に行くのかと思っていた。
「久しぶりに帰って来れた…!今回は本当に疲れたよ。」
ヤレンが考え深そうに呟くと扉が開き、青年が元気よく飛び出してきた。
「誰かと思えば、ヤレンさんとイズミルさんじゃないすか!おかえりなさい!帰りを今か今かと待ってましたよ!って血塗れじゃないすか。大丈夫ですか?」
「ああ、僕の血じゃないからね。心配ありがとう、ジユル。」
ジユルと呼ばれた青年は癖のある銀色の髪を七三に分け、薄紫色の瞳を持つ若い男だった。満面の笑みで2人を迎えたかと思えば、隣に立つボクに気づき、怪訝な顔になった。
「誰すか、こいつ。人形みたいな奴ですね。真っ黒だし、なんか暗くないですか。」
「ふふふ、人形か。間違ってはいないけど…、この子はベオグラード。新しい仲間だよ。仲良くしてあげてね。」
「へぇ、髪の長い男を見るのは初めてですよ、オレ。まだ子どもっすね。オッケーです。可愛がってやりますよ。」
初見でボクを男と認識したことに、少なからず驚いた。ジユルはボクにニッと笑顔を向けた。
「あんたも災難だね。この人に目を付けられたら、死ぬまで戦うことになるぜ。オレはジユル・スタアク。で、あっちがイジュマ・スタアク。よろしくな。」
ジユルが指さした方向には、ジユルと瓜二つの女性が立っていた。違いは腰にまでとどく長い髪と、静かな雰囲気をまとっていることだけだ。
イジュマは柔らかく微笑んだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。歓迎いたします。みなさんお疲れでしょう。温かい食事と、寝床をご用意しますね。どうぞ、中へ。」
*
ボクは血がついた身体を拭き、イジュマが用意してくれた服に着替えた。清潔な白い服。新しい髪紐まである。今まで使っていた黒い紐を捨て、新しい赤い紐で結んだ。黒い髪に赤い紐がよく映えた。
ボクは鏡に映る自分の姿をじっと眺めた。自分の顔をまじまじと見るのは、実は初めてだ。髪を大雑把に後ろで結んでいるので、横から髪が落ちていた。眠そう、または無気力に見えると言われる瞳には、今は夜空のように青い石が輝いていた。ボクの瞳は真っ黒だったはずなのに不思議だ。
確かに女と思われても仕方がない顔立ちかもしれない。ボクは自分の顔に触れ、それから、アドニを思い浮かべた。あの後、宝石たちに回収されただろうか。ボクがいなくなったと気づいて、どんな顔をしているだろうか。胸の奥がぎゅうと苦しくなって涙が出そうになった。
コンコンと扉を叩く音がして、扉の外からイズミルの声がした。
「少年、着替えたか?食事にするから、終わったらおいで。」
それだけ言うと、足早に去っていた。彼はまだボクに気を許したわけではないのだろう。実際、ボクも同じだ。この人はアドニの家族を殺した。彼の手は血まみれだ。
部屋を出ると、美味しそうな食事の匂いがした。その匂いをたどって1階に降りると、そこにはヤレン以外が揃っていた。
ボクに気づき、ジユルがニッと笑みを浮かべた。
「お、来た来た。丁度、あんたの話をしてたところだったんだ。あんたって何人なの?顔立ちが竜の人間とも、レイト人とも違うなぁって思ってさ。女っぽく見えるのも、そのせいなんじゃないの?」
「…分かりません。孤児ですし、ボク自身気にしたこともなかったので。」
「あー…、そうなんだ…。オレさ、ガキの頃、北の少数民族に会ったことあるんだけど、あんたの顔立ちに似てた気がするんだよねぇ。だから、てっきりそこの出身なのかなって思ったんだけど…。まあ、小さな問題か。何人だろうと、ここじゃ関係ないし。」
そう言って、ボクに温めたミルクを差し出した。ボクは、なんとなく距離を置こうと思っていただけに戸惑った。彼からは悪意が感じられない。ボクは彼の笑顔を突っぱねることができなかった。
「ありがとう…ございます。」
ボクがおずおずとミルクを受け取ると、満足そうに微笑んだ。似ている。アドニに似ている。ボクは目の奥が熱くなった。だが、必死に顔に出ないように踏ん張った。
表情を隠そうとミルクをすすった。その美味しさに目が開いた。ミルクの中に蜂蜜が溶かしてある。甘くて落ち着く。
ボクの表情が緩んだのを見て、安堵したようにジユルが胸を撫で下ろした。
「良かった。あんたにも心がちゃんとあるんだな。あんまり無表情だとさ、正直めちゃめちゃ怖いよ。ヤレンさん、変な奴連れて来たなって、戦々恐々だったんだから。」
「ふふふ、それはごめん。ちゃんと人間でしょ?」
ヤレンが2階から顔を出して、ボクたちを見降ろしていた。ジユルが「しまった」と顔をしかめた。
「いやぁ、ははは、聞かれちゃいましたか…」
「いいよ。急に意味不明な人間を連れて来たら、不安になるのも当たり前だよ。食事をしながら、話そうかな。」
ヤレンがひらりと2階から降りてきた。蝶のように身が軽い。今は髪を几帳面に後ろで結んでいたので顔がよく見えた。よく見ると、顎下から右頬にかけて薄っすら傷が入っていた。剣で切られた傷のようだ。
ヤレンが鼻歌交じりで、皿を並べた。ボクも何もしないわけにはいかないと手伝う。
ややあってテーブルには料理が並び、ボクたちは席に着いた。テーブルは6人がけで、ボクは1番暖炉に近い席に座り、その隣にジユル、イジュマが並ぶ。ボクの斜め前にヤレンが座り、その隣にイズミルが腰かけた。
イズミルが手を組み目を閉じた。すると、皆が同じように真似して目を閉じた。ボクは何が始まるのか、全く分からず固まる。
「今宵、我々の糧となる肉、血、骨、すべてに感謝を。神よ、彼らに救済を与え、新しい生を与え給え。」
イズミルの言葉をジユルとイジュマが繰り返した。ボクは初めて聞く内容に戸惑った。
「その呪文のようなものはなんですか?」
ヤレンが「ああ」と口を開いた。
「これはね、食事への感謝の祈りだよ。レイト人の宗教は転生、いわゆる生まれ変わりを信じていてね。魂が生まれ変われるように、祈っているのさ。」
「生まれ変わり…?」
「うん、そうだよ。僕が死ねば、僕の身体が朽ちて、魂だけが残る。その魂は、新しい肉体を求めてさまようんだ。面白い考え方だよね。死んでも、新しい生があるなんて。」
「僕が死ぬ」という言葉に、イズミルの顔が歪んだ。
「ヤレン、冗談でも、そんなこと言わないでくれ。君が死んでいいわけがないだろ。」
「例え話だよ。それに、いつかは皆、死ぬんだ。遅かれ早かれね。」
ヤレンがニコリともせずに言った。イズミルの言葉には不安が見え隠れしていた。まるで、ヤレンが死ぬのを恐れているかのようだ。こんなに元気そうに見えるのに、ヤレンはどこか悪いのかもしれない。
それ以上誰も何も言わず、食事を始めた。ボクの目の前には赤いスープとパン、それから魚の香草焼きが並んでいた。ボクは恐る恐るスープをすすた。酸味のある味に驚く。だが、温かくてとても美味しい。
ボクがガツガツと食べ始めたので、イジュマが嬉しそうに頬を緩めた。
「お口に合って良かったです。おかわりもありますから、たくさん食べてくださいね。」
「…ありがとうございます。」
ボクはパンを頬張りながら、ペコっと頭を下げる。食べても食べても満たされることがない。自分が腹ペコなことに気づいていなかった。
ジユルがもぐもぐと食べながら口火を切った。
「で、何で今回、その子どもを連れ帰ってきたんすか?野良犬を拾ったとか、そういうノリですかね?」
「まあ、近いっちゃ近いね。この子、宝石なんだ。能力は、おそらく魔術なんかを解く能力。しかも、元々は暗殺なんかを請け負う人形と呼ばれる少年兵だ。この意味、君たちなら分かるよね?」
ヤレンの言葉に皆が持っていたスプーンを置き、ボクに注目した。ボクは急に見つめられて変な汗が出た。
イズミルが真剣な表情で隣に座るヤレンを見た。
「竜の人間に、一矢報いることができるかもしれないんだな?」
「その通り。彼らの力も魔術的なものだ。おそらく、対抗できるんじゃないかな?だけど、ベオグラードはまだ自覚してないみたいなんだ。どうやって、力を使ったか覚えている?」
ボクは尋ねられて首を横に振った。実際、いつ力を使ったか分からない。すると、ヤレンがパンをちぎりながら、ボクに再び質問した。
「じゃあ、君が神に反感ないし、疑問を持ったのはいつ?」
「それは…。」
ボクは言いよどんだ。アドニが刺された時だ。あの時、ボクは神に疑問を持った。そして、自分の涙で景色が霞んでいくを見た。
ボクの表情が変わったので、ヤレンの口角がほんの少しあがった。ボクには己の予想が当たったのを喜んでいるように見えた。
「どうやら、思い当たる節があるみたいだね。それが答えだよ。後は、上手く使いこなせるようになるだけだ。そこで、皆に提案がある。」
その言葉で、次はヤレンに注目が集まった。ボクは注目されると、どうもドキマギしてしまうが、ヤレンは慣れているのか凛としていた。
「おそらく、戦いが再開するのは、2か月後だ。それまでに、ベオグラードをできるだけ、強くしなやかに作り直す。それを、手伝ってほしいんだ。」
「え、でも、少年兵だったんでしょ?十分、強いじゃないすか。」
「強さというのは、肉体的なものだけじゃない。精神的なものも関係している。この子、仲間が刺されて、ただ泣いてたんだ。そんなんじゃ、危なかっしくて使えないだろ?それに、ベオグラードが強くなれば、万が一、僕とイズミルが抜けてしまっても、レイトを導いてくれるかもしれない。そういう保険をかけておくのも、悪くないって思うんだ。」
ボクはヤレンの言葉に驚いた。ボクだけじゃない、その場にいる全員が驚いていた。
「この無表情のお人形さんが、レイトを導く?何の冗談すか、ヤレンさん。本気で言ってるんですか?」
「うん、もちろん、言葉にしたんだから、本気だよ。だけど、これは僕の願望でしかないから、半分に聞いてくれていいよ。でも、考えておいてほしい。これから、この街で暮らして、君の目で真実を探すんだ。それでも、君がやりたくないというなら、僕は諦めるよ。」
ヤレンが真剣な表情で、ボクを見つめた。その挑戦するような視線にボクは頷くしかなかった。
「…考えてみます。でも、ボクはただの道具に過ぎないです。人の上に立つなんて、立てませんよ。」
「今はね、君は生まれたばかりの赤子と同じだよ。これから、大人になるんだ。もっと視野は広がるし、思考も深くなる。道具を使う側になったら、答えは変わってくるよ。」
ボクはヤレンの使う言葉の1つ1つに聞き覚えがあった。アドニと同じことを言っている。あの頃は意味が理解できず、聞き流していたが今回は違う。ボクの心臓に針のように刺さり、簡単には抜けてくれない。
ボクはヤレンの望むような人間になれるだろうか。その不安だけがどうしても拭えない。ただ、強くなるだけではだめだ。もっと人間らしく知性と理性を備えた、まったく新しい自分にならなければ。
ボクはぎゅっと拳を握りしめた。
*
コンコンと扉を叩く音がした。
ボクは自分の部屋でぼうと外を眺めていたので、不審に思い扉を開いた。そこにはイズミルが立っていた。
思いがけない来訪に、ほんの少し目を開いた。
イズミルも髪を下しているボクの姿を見て驚いていた。
「…ああ、君か。一瞬、部屋を間違えたかと思った。」
それだけ言うと、イズミルがボクに毛布を差し出した。
「今日は、よく冷える。これを使ってくれ。」
「…ありがとうございます。」
礼を言って受け取った。イズミルはじっとボクを見つめ、ボソッと呟いた。
「あいつはどうして、君を選んだんだろうな…。」
「…どういう意味ですか。」
ボクの問いに、イズミルが困ったように頬を掻いた。
「いや、大した意味はないんだ。ただ、ヤレンがなぜ君に期待するのか不思議だと思っただけだよ。君自身、迷惑じゃないのか?」
尋ねられてボクは目を伏せた。迷惑かと言われたら…、否定できない。
イズミルの目に同情が浮かんだ。
「急に連れて来られて、あんなこと言われたら、そう思うのも仕方がない。何でもかんでもヤレンの言うこと聞く必要はないんだ。元の場所に戻してやることはできないが、穏やかな生活を送れように、君を逃がすことはできる。考えておいてくれ。」
そんなことを言われると思わず虚につかれた。最初に浮かんだのは疑問。彼はレイト人の長で、竜の国と敵対しているはずだ。自分の一族を守るためには、ボクは必要不可欠だ。それにアドニの家族を殺した犯罪者なのに、彼からは残忍な臭いがしない。
「…あなたはレイト人の長だと聞いています。それに、ボクを逃がす利点はないはずです。なぜ、ボクに同情するんですか。」
ボクの言葉にイズミルが怪訝な顔になった。
「私は長ではないよ。私の祖父の代に、別の一族が台頭して、我々は彼らに長という職務を譲った。もし、私が長なら、確かに君を逃しはしないだろうが…。長でもないし、何より、私はこれ以上、被害者を出したくない。」
被害者という言葉に、ボクは首をほんの少し傾げた。ボクには、一体誰の事を指しているのか分からなかった。
憂いを帯びた顔で、イズミルが話を続けた。
「私たちの戦いに、ヤレンを巻き込んでしまった。あの子は、穏やかに生きることもできたはずなのに…。これ以上、私は誰も巻き込みたくないんだ。君は…、穏やかで静かな生と、苛烈で血生臭い生どちらを選ぶ?」
ボクはその質問に、すぐには答えられなかった。少しの間を挟み答えた。
「ボクは…、ヤレンに仲間を助けてもらった恩があります。それに、ボク自身、やりたくないとは思っていません。だから…今は後者を選びます。」
「…そうか。分かった。長々と引き留めて、悪かった。おやすみ、ベオグラード。」
イズミルは足早に去っていた。
ボクは扉を閉めて、ベッドに横になった。今日は目まぐるしい1日だった。ほんとに疲れた。
ボクは何も考えられず、そのまま目を閉じた。
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