おっさん登場

今まで全然気づかなかったけど、私の肩には学生鞄が掛かっていた。そろり、と中を覗くと端末とパンフレットが入ってて‥‥ん?パンフレット?


悩みながらもパンフレット片手に、私は『雛丘学園』へとお邪魔している。妖精–ナノが言うには、私はここの生徒らしい。が、なんでパンフレット?


え?どゆこと?


学校見学、とか?いやいや、私、ここの生徒、だよね?


そう聞きたいのにナノが居ない。正確に言うには《じゃ、ファイトォ!あ、それと見た目は10代だから問題ないよっ、まったねぇ》なんて言いながら、光に包まれて消えた。もうさ、もうさ?既にキャパ超えなんですけど!?


普通置いてく?私を置いてく?側に居てよぉっ


と、泣きたい気持ちと見知らぬ土地?世界でルンルンな気持ちが半々で、忙しなく辺りをキョロキョロと見渡した。


外からでも充分に分かったが、無駄に広い校舎

廊下がやたら広くて車二台すれ違ってもぶつからないほどだ。壁にはポスターが何枚も貼ってあり、交通安全とか、歯科衛生などというイラスト付き


あー‥そう言えば私、昔、虫歯になったら痛いよ。みたいなポスター描いたなぁ。なつかしいわ


『昔の事過ぎて忘れてたなぁ』


教科担、美術の先生がやたらあの絵を気に入ってコンテストに出したとか。まぁ、結果、準優勝。

優勝した絵を見て、すごく悔しかったっけ。だって、1位を取った絵はとても–––––、



「おい、」


『っ!?』

ビクッ、と肩が揺れたのは掛けられた声があまりにも不意打ちで。同時に肩を掴まれた時には口から心臓が落ちかけた。


びっ‥‥びっくりしたぁああ


バクバクする胸を手で押さえながら、恐る恐る振り返る。目尻に涙が溜まっているのは、この際スルーして頂きたい。


本当にほんっとーに、不意打ちやめて


お化け屋敷も、ホラー映画も私の敵でしかない


あれの何を楽しめと言うのか、





「‥‥あぁ、お前か、転校生って奴は」

そう声を発したのは、只今、私の肩を掴んでいる男。外見年齢は20代後半。まぁ、見た目年齢ほど当てにはならない。だってその人が童顔もしくは老け顔なら、基準から少し外れるわけで。


特に初対面でその人が標準の顔か、なんて分かる筈もない。


というか、


『校内は禁煙でしょ』


やる気がないのか、清潔感がないのか。ヨレヨレのジャージに500円で売ってそうなサンダル。


というか、センスっ


なに、そのサンダル。なんかキャラクターの顔が、控え目に言ってヤバイ。白目だよ、三白眼かよ


間違っても履きたい、なんて思えない


「おー、やべぇやべぇ校内禁煙だったわ。いやぁうっかりうっかり」


無精髭をボリボリ掻く様はまさに中年親父おやじ

伸ばしっぱなしな前髪は、目が隠れていらっしゃる。果たしてちゃんと前は見えているのか、



『あの、もしかして、学校の先生‥‥ですか』


「おー、正解、ついでに言うとお前の担任なんだわ。よろしくな」



清掃するおじさんだったらどうしよう、なんて思いながら問う私の声は緊張で声が掠れ、ちょっと恥ずかしい。


トイレ掃除や廊下掃除、


校舎広げれば広いほど、雇っているところは少なくない。中には気さくな人もいて、仲良くなればお菓子をくれる人もいたりいなかったり


だから、この目の前にいるおっさんが先生なのか清掃する人か迷いに迷って、ダメ元で聞いてみた


うん、聞いてみたんだよ。内心、いやぁこんな教師いないっしょー。なんて思っていた私は、


その男の返事に目を丸くした。




『担任!?‥‥えぇっ』


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