第3話 魔法使いの場合。
私は魔法使い。学院を飛び級して首席で卒業した。
だったら、その天才が勇者の仲間として魔王を倒して名声を得るのは当たり前よね。
私が合流した時にはこんな綺麗な人が勇者なんてビジュアル的に映えると思ったわ。お付きのおじさんは邪魔だけど。………と思ったらおじさんが勇者だったわ。
前衛と後衛の両方をやってるって話だったから手合わせをしてみたら私の圧勝だったわ。ゴミね。使える魔法の数は少ないし、魔力が無さすぎてすぐに力尽きる。
生まれつきの膨大な魔力と多くの属性への適性。優れた頭脳を持つ私の足元にも及ばない。
両親が魔法使いだった私はすぐれた才能を見出されて他の子より早く学院に入った。他の子から羨ましいと言われたのは気持ちが良かった。魔力任せにどんどん強い難しい魔法を使えるようになると全能感が湧いてきた。オリジナルでいくつかの魔法を考えたりもしたわ。
羨望はいつしか嫉妬へと変わり、陰で悪口を言う人間がいたのも知っていたけど、それを黙らせれるくらいの実力をつけた。
一つ、二つと学年を飛び越えて行き、年上相手に完勝して先生達を唸らせて首席になった。
ゆくゆくは設備の整っている学院で魔法の研究をして後世に名を残してやろうとしていた。
魔法の実験で大事故を起こすまでは。
今までにない新しい魔法を生み出そうとした時に、天狗になっていた私は気の緩みから制御に失敗してしまった。被害は甚大で学院の一部が吹き飛んだ。死者はいなかったが怪我人は多数。責任を問われた私は学院から追い出されてしまった。
手持ちのお金だけじゃ弁償できなくて両親も多額の借金を背負った。
あんなに私に期待してくれていた親に呆れられ、居心地が悪くなった。他の魔法使いに会えば嫌味や嘲笑を受けた。
見返してやるためにはお金と名声が必要だったから勇者のパーティに入った。
「おじさんも剣士も戦わなくていいわよ。私の魔法で全部蹴散らしてあげる」
モンスターとの命の奪い合いは最初は慣れなかったけど、私の魔法を使えば遠くからでも倒せた。
火起こしや飲み水の確保、ちょっとした怪我の治療も私にかかれば些事。
剣士は盾として使えるけど、剣も魔法もどっちつかずの勇者は荷物持ちくらいにしか見てなかった。
だからこそ、私はまた似たような過ちを犯しかけた。
「…………なによ。文句あるの？」
旅の途中でダンジョンを探索中に罠にかかった。罠自体はダンジョンの別の部屋にワープさせるだけだったけど、その場所が最悪だった。
魔法使い殺し。その部屋はやってきた人間の魔力を全部吸い取る仕掛けがあったのだ。
「魔法使いが魔力なくなったらただのお荷物よ」
ワープの対象は魔力を持つ者だったから剣士は部屋にはいない。あの戦闘力特化の化け物みたいな女なら単身でダンジョンからの脱出も可能だろう。
同じ場所にワープされてきた勇者も、ダンジョン攻略の経験は豊富で一人ででも抜け出せるはず。
「私のことなんて置いてさっさと行きなさいよ。足手纏いなんて捨てて。………そうね、大口叩いて間抜けにも罠に嵌った魔法使いっていい土産話じゃない。学院のみんなも私がいなくなって喜ぶわよ」
自分でも自暴自棄になってるのは感じてた。
このままここにいれば餓死するかモンスターの餌か苗床にされるだけ。魔力の回復を待っても戦えるようになるには半日はかかる。
「手持ちの食料だと二人で一日分ってところだ。まずは隠れられる場所を探して魔力の回復を待とう」
ごく当たり前のようにおじさんがそう言った。
「あんた馬鹿？そんなことしてたら助かる命も助からないでしょ。今の私じゃその辺の雑魚モンスターにも負けるのよ？そんなのと行動してたら魔力が回復する前に襲われて二人仲良く死ぬわよ」
「だから、俺が君を背負って進む。戦闘は最小限。時間を稼いで二人で地上に戻るぞ」
わけがわからない。
出来ないことをやろうっていうの？
共倒れする確率があるならどちらか成功率が高い方を選ぶべきでしょ。
「私を見殺しにすればあんたは助かるのよ？」
「俺は仲間は見捨てない。………勇者になる前にモンスター狩りやダンジョン攻略で成功してた頃、俺がトラップにかかって仲間全員で死にかけた。その時に怪我してた俺を庇いながら仲間が外まで連れ出してくれたんだ。今度は俺が誰かを助ける番だ」
青臭いセリフだけどな、と言っておじさんは私の手を引いた。
そこからは死にものぐるいだった。
息を殺してモンスターをやり過ごし、戦闘になったらおじさんの背中に隠れて半泣きで丸まる。魔力の回復を早めるために食料は私が多く食べた。
少し回復した魔力を使っては進み、休んでまた移動する。
剣士が他のダンジョンにいる人達と一緒に迎えに来てくれなかったら途中で死んでたかもしれない。
地上に出た時は安堵して大泣きした。私よりおじさんの方が泣いてたのが情けなかったけど。
「おじさん。私、やりたいことがあるの」
「メシ？それとも風呂？」
「その二つも勿論だけど、見返してやるの。私を笑ったり馬鹿にした連中を。そのために魔王を倒してお金をがんがん稼ぐの」
「なんの為に見返すんだい？」
「決まってるじゃない。私が地獄の底からでも這い上がってくる天才の偉大な魔法使いだって歴史に名を残して自慢してやるためよ！」
万が一、ダンジョンでの一件みたいな状態になっても大丈夫なように私は勇者に魔法を教えるようになった。
代わりに私は魔力がなくなっても時間を稼いだり、逃げたりできる技術を教わった。木の枝くらいだった魔法の杖も、杖だけでも戦えるように長い物にして棒術も習った。
勇者は多芸で色々なことができた。駆け出し時代に手当たり次第に試したと言ってる。
剣士も私に稽古をつけてやると意気込んでいたけど、勇者が断った。私の体力や筋力だと稽古で殺されてしまうと庇ってくれたのだ。
頭より先に体で動く剣士とは違って多方面から物事を捉える勇者の在り方は私の魔法の開発に大いに役立ってくれた。
お礼に体の一部に触れるだけでいい魔力のコントロールの時に両手をしっかりと握ってあげた。
水浴びから上がった時もちょっと際どい姿を見せるとチラッと胸元を見ていた。……悔しがる剣士の顔が面白い。
魔王城に突撃する直前の野営。
あれから随分と長い時間が経った。神官ちゃんが勇者と最初に出会った頃の私くらいになっている。
剣士が妙に肌ツヤがいい理由は魔法で盗み聞きしていたから知っている。
年下二人には話してない。……ってか、世界の命運がかかってるのに乳繰りあったの勇者と剣士。危機意識が足りないんじゃないの。
野営の時はテントを二つ建てる。男性、女性でわけるため。そして一人づつ交代で火の番をする。
私のいるテントでは剣士と神官ちゃんが寝てる。今の火の番は戦士、そろそろ私の番だ。
「今しかないわね！」
いつもより多めにボタンを外して身だしなみを整えて焚き火に近づく。
「あっ、魔法使いの姉ちゃ……」
「戦士。あんた今から私がすること黙ってなさいよ」
私の格好を見て赤い顔して絶句する戦士。
最近は色男に成長したみたいだけど、悪ガキ時代からの付き合いだから弟くらいにしか思ってない。
念のために魔法で催眠と暗示をかけてもう数時間ほど火の番をしてもらっとく。
若いんだから大丈夫よ。お礼に今度、神官ちゃんの欲しがってるもの教えてあげるから。
ふらふらしてる戦士に内心謝りながら男性用テントに侵入。
魔法でテント周りに結界を張る。
「起きなさい勇者」
「………なんで同じテントに魔法使いが」
「決まってるでしょ？いい歳した男女の夜遊びよ！」
「なんか最近もこんな感じでっ⁉︎」
魔王城での決戦は危なかった。
剣士に魔王の右腕を任せて先に進むと魔王の使い魔の群れがいたの。
勇者、戦士、神官ちゃんに魔王を任せて、私が相手をしたんだけどあと少しで魔力切れで食べられるところだった。
トドメは杖で力一杯殴って勝てた。……魔法以外も鍛えててよかった。
これで名声も沢山のお金も手に入るわけだし、いっそのこと学院よりも凄い魔法使いの育成機関を作るのもありじゃないかしら。
子供ができたら英才教育して私より凄い魔法使いに育てるっていうのもありかも！
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