第49話
「盗賊のロビン·フッド……」
「だから、オレは義賊だってば」
ロビン·フッドはサッと自分の髪を払うとシャルルへと近づいてくる。
シャルルは、そんな彼女の態度に思わず仰け反ってしまう。
ロビンはそのことでショックを受けたのか、少し困った顔をした。
「あら酷い。せっかく君の家族を助けてきてあげたっていうのにさ」
「ロシナンテのことは……ありがとう……でもっ!」
シャルルはなぜロビンから距離を取ろうとしたかを説明した。
前に自分がロビンを逃がす手助けをしたことで、大事な仲間が近衛騎士団に捕らえられてしまった。
そして、今もその仲間は宮殿の側にある監獄に入れられているのだと。
「うん。もちろん知っているよ。だからオレは彼女を助けようとしたんだ」
ロシナンテを連れてきた時点で気がつかなかったのかと、ロビンはからかうようにシャルルへと言った。
その通りだと思ったシャルルだったが、ではなぜオリヴィアも一緒に救いだしてくれなかったのかと叫ぶ。
ロビンはシャルルのあまりの声の大きさに思わず耳を塞いだ。
シャルルはそんな彼女の姿が見えていないほどの興奮状態なのだろう。
ひたすらロビンを捲し立てた。
「おいおい、落ち着いて話を聞いてくれよ。たがらオレもオリヴィアを助けようとはしたんだって」
ロビンはおどけた様子でそう返事をすると、なぜオリヴィアが一緒にいないかを話を始めた。
メトロポリティーヌ王国で最大の監獄と言われていようと、自分にとっては近所へ知人に会いに行くくらいの気楽さ簡単に侵入できた。
だが、誰にも気付かれずに監獄へ入ったまではよかったのだが、救いだそうとしたオリヴィア本人はそれを拒絶したのだ。
「なんで!? どうしてオリヴィアは牢屋に残ったんだよ!?」
叫ぶシャルルにロビンは言葉を続ける。
ロビンの誘いを断固として拒否したオリヴィア。
このままロビンと共に脱走すれば、自分を牢に閉じ込めるための策略が本当のことになってしまう。
それは家名を傷つけることとなり、しいては銃士隊の名誉に泥を塗る行為である。
「ホント頑固でねぇ。さすがのオレも彼女の心にまでは侵入できなかったよ」
そして、オリヴィアは盗賊の仲間に入るくらいなら、死ぬことを選ぶと言ったそうだ。
銃士隊が解散し、今は落ちぶれたとはいえ、この国で英雄と呼ばれていたのだ。
そんな自分をこれ以上辱しめたくない。
そう、言葉を続けて背を向けてしまったそうだ。
話を聞いたシャルルは思った。
そこまで家名や銃士隊のことをと。
「そうか……わかったよロビン。ありがとう……この礼は必ず……」
「いいっていいって。それよりもシャルル。オレの仲間になる話は覚えてるかい?」
ロビンは陽気に訊ねたが、シャルルは心ここにあらずといった様子で、ロシナンテの手綱を引きながらトボトボと歩いていってしまった。
ロビンはシャルルの寂しそうな背中を見てため息をつくと、そんな彼女に声をかけた。
「ルイ女王にでも頼んでみたらどう? あの子は祭りの神輿のようなものだけど、一応この国で一番偉いわけだしさ」
こちらは冷たい態度をとっているというのに最後の最後まで気にかけてくれるロビンに、シャルルは自分が酷く情けなくなってしまっていた。
ロシナンテは、そんなシャルルを慰めようと優しく鳴き、自分の頬を彼女に擦り付ける。
「ありがとう、ロシナンテ」
こうやってロシナンテに慰めてもらえるのも、すべてはロビンのおかげだ。
そして、こうやってメトロポリティーヌ王国で過ごせているのも、オリヴィアたちが家に住まわせてくれるからだ。
やはりこのまま落ち込んでなんていられない。
やっと銃士隊が復活するときなのだ。
なんとかしてオリヴィアを助け出すんだ。
シャルルは表情をキリッさせると、ロビンのほうを振り返った。
「なにからなにまでありがとうロビン! あなたが銃士隊に入る気になったらいつでもボクに言ってね! 歓迎するよ!」
そして、大きく手を振るとニコッと笑みを浮かべた。
ロビンはそんなシャルルを見てまたため息をついたが、なんだが嬉しそうに夜の闇へと消えていったのだった。
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