第48話
宮殿でミレディと会ってから――。
イザベラは毎日のようにオリヴィアとの面会を頼みに宮殿へと通う日々。
だが、当然最初に断られたように、けして聞き入れてはもらえなかった。
「なんでだよ!? 会わせろよ!? オリヴィアはロビン·フッドの仲間なんかじゃないって言っているだろうがっ!?」
毎日怒鳴り込んでくるため、役人のほうも辟易していた。
だが、変わらずに事務的な対処をイザベラへし続けていた。
一方ルネは、街の住民たちへオリヴィアが無罪であることを呼び掛け、彼女の罪が冤罪であることを調べようとした。
しかし、いくら聞き込みを続けてもルネの求めるような話は聞けず、そこで次の手――。
彼女はアンヌ姫に面会を求めた。
オリヴィアがこのまま牢屋に入れられた状態では、銃士隊を復活できない。
それで一番困るのはアンヌ姫だったからだ。
元々はアンヌ姫がリシュリューとの権力争いために出てきた話だ。
きっと力になってくれるはず。
ルネはそう考えた後――。
アンヌ姫の侍女をやっているというミレディのことは気になっていたが、他に手がないと宮殿へと向かうことに。
「アンヌ姫! ワタシです! 元銃士隊のルネ·アラミスでございます! 実はオリヴィア·アトスのことでお話があるのですが!」
しかし、アンヌ姫は体の調子を理由して、ルネとはけして会おうとはしなかった。
それでもめげずにアンヌ姫の元へ通うルネ。
だがそんな努力も、宮殿に暮らす者たちから見てしまえば、ただの騒音であった。
ルネは元銃士隊――しかも英雄と呼ばれた三銃士のメンバーだ。
そのため、銃士隊解散後も宮殿での出入りは自由に許されている。
それでも、会いたがらないアンヌ姫の気持ちを察しないルネの態度は、宮殿内にいる誰がどう見ても滑稽でしかなかった。
「ほら、また来てますわよ」
「まったく、今日も酒の臭いを漂わせて。かの英雄と呼ばれた三銃士も落ちぶれたものですね」
「いい加減にアンヌ姫がお会いになりたくないことがわからないのかしら?」
さすがのルネもこれには耐えきれなかったのか、彼女はアンヌ姫との面会を諦めてしまう。
そして、ルネがアンヌ姫のところへ通うのを止めると、イザベラもオリヴィアとの面会を諦めてしまった。
あの頭の良いルネがダメだと思ったのだ。
ならばこれ以上は無駄。
イザベラは長い付き合いからか、ルネが諦めたときはもうどうしようもないことを理解していた。
それからのイザベラとルネは、まるで抜け殻のようだった。
役人の仕事すらも辞め、ただベッドから起きては食事をし、酒を飲んで眠るだけ――。
シャルルは、そんな状態の二人に何も声を掛けれなかったが、それでも彼女だけは諦めていなかった。
とはいっても、シャルルは元銃士隊ではなくただの住民だ。
当然個人的な理由で宮殿内へ入ることは許されない。
そこでシャルルは、前にルネがやっていたように、街の住民たちへ呼び掛けることにしたのだが――。
「オリヴィアがロビン·フッドの仲間だったなんて素晴らしいじゃないか」
「やはりあの人は民の味方。いつかこうなるとは思っていました」
住民たちはオリヴィアがロビン·フッドの仲間だということを信じ、それどころか彼女はやはり正義の味方だと大喜びしていた。
「いや、そういうことじゃなくて……ボクはオリヴィアの無実をみんなに訴えてほしくて……」
シャルルはルネがやろうとしたように、オリヴィアを牢屋から出すため、皆の力を借りようとした。
だが住民たちは全員、そのうちロビン·フッドがオリヴィアを助ける来ると言って何もしてはくれなかった。
「来るわけないよぉ……だって、オリヴィアはロビン·フッドの仲間じゃないもん」
シャルルは、オリヴィアがロビン·フッドの仲間だと疑わない住民たちそう言った。
だが、彼女の言葉など誰も信じなかった。
人間は都合の良いほうに物事を受けとるものだ。
シャルルは夜の帰り道で一人、亡き父が生前に言っていたことを思い出していた。
「父さんの言う通りだったなぁ。はぁ……これからどうすればいいんだろう……」
街灯はすでに消え、今夜の空に月はなく、星の光を頼りに歩くシャルルはなんとも心細くなっていた。
そのとき――。
聞き慣れたひづめの足音が響いた。
しかもそれは次第に近づいてくる。
「ロシナンテ!? どうしてお前がこんなところに!?」
シャルルは現れた小さな馬――ロシナンテを見るなりに抱きついた。
ロシナンテも嬉しそうに鳴き返し、シャルルの体に自分の頭を擦り付けている。
「オレが助けてきてあげたんだよ♪」
シャルルとロシナンテが再会を喜んでいると、夜の暗闇からロビン·フッドが現れた。
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