第50話
ロビンがロシナンテを救出し、オリヴィアのことを聞かされたシャルルは、家に戻ると慌てて家の中を駆け出していく。
ソファーでだらしなく横になっていたイザベラとルネは、そんなシャルルのことなど気にも止めずに肉を食らい、ワインの瓶を飲み干していた。
その二人の姿はもはや生きる屍。
とてもかつて英雄と呼ばれていたように見えない酷いものだった。
後から家に入ってきたロシナンテは、そんなイザベラとルネへ大きく鳴いた。
「ロシナンテ……?」
「どうしてあなたがここに……?」
これにはさすがの二人も反応せずにはいられない。
監獄に囚われているはずのロシナンテが目の前にいるのだ。
イザベラとルネは自分たちの目を疑い、今さらながら慌て始める。
「なんでだよ!? なんでお前がここにいんだよ!?」
「ああ……ちょっと今夜は飲み過ぎたかなぁ……って、そんなことない! どうしてロシナンテがいるのっ!? 」
そのときのイザベラとルネの顔は、鳩が豆鉄砲を食ったようになっていた。
そんな二人を見たロシナンテは嬉しそうに鳴き返した。
その間、シャルルはオリヴィアの部屋を漁っていた。
それは彼女の使っていた剣――ブロードソードを見つけるためだ。
長く使い込んだ愛刀。
これまでのオリヴィアを支え、共に戦ってきた紛れもない相棒である。
これを見ればオリヴィアの心を少しでも動かせるかもしれない。
シャルルはそう思ったのだった。
「それにしても……オリヴィアの部屋って、ちょっと散らかり過ぎだなぁ」
周りを見渡したシャルルは手を止め、怪訝な顔をした。
いつも整理整頓しろと言い、だらしのない格好を注意してくるくせに自分の部屋は汚い――。
そんなオリヴィアに呆れてしまう。
「ふふ、もう一度会ったら言ってやろ」
だが、シャルルはすぐに笑顔になった。
必ずまたオリヴィアと会うんだと思い、改めて彼女の剣を探し始める。
しばらくオリヴィアの部屋を漁っていると、丸められた羊皮紙の束が見つかった。
この時代で羊皮紙はとても高価なものだ。
それを、あのお金にうるさいオリヴィアが束で持っていることに違和感を覚えたシャルルは、その丸まった羊皮紙の束を広げ、中に何が書かれてあるかを見る。
〇月×日――。
今日の午後。
母上が亡くなった。
母は息を引き取るときまで私と、そしてあのミレディのことを気にかけていた。
けして彼女を憎まないでおくれ。
それが母の最後の言葉だった。
正直、私は母との約束を守れる自信がない。
シャルルは読んでみて気がついた。
これはオリヴィアの日記だ。
シャルルは、彼女の母が死ぬ間際までミレディのことを気にかけていたということが気になったが、続きを読んでいく。
●月△日――。
先月に私とイザベル、ルネ三人の後見人だったトレヴィル隊長が殺された。
ロシュフォールと銃士隊の解散を賭けた決闘でだ。
それ以来、イザベラは何事にもやる気をみせなくなってしまった。
ルネのほうも飲むワインの量が日に日に増えている。
皆、隊長を失って悲しいのだ。
それは、トレヴィル隊長は私たちの父親のような存在だったからだ。
生まれたときから父がいない私――。
気が狂った父親を自らの手で殺したイザベル――。
両親に疎まれて家を追い出されたルネ――。
そんな私たちにあの人はずっと優しくしてくれた。
だが、これは決闘だ。
トレヴィル隊長は剣での試合で負けて命を失ったのだ。
ロシュフォールを恨むのは間違っている。
だが、それでも私はあいつを恨まずにはいられない。
「これってホントは読んじゃダメなやつだよね……」
シャルルはオリヴィアの日記を読みながら、今さらそう思った。
だが、その手を止めることができない。
次々に羊皮紙の束を開いて読み進めていく。
シャルルがオリヴィアの日記に夢中になっていたとき――。
イザベルとルネはようやく落ち着きを取り戻していた。
「なんだかわかんねえけど。無事に戻って来れてよかったなぁ」
「本当ですねぇ。じゃあ、ゆっくりと牢屋での疲れを癒すために休んでね。干し草ならその辺に転がっていますから」
二人は現れたロシナンテの頭を撫でると、またソファーへと寝っ転がった。
イザベルが側に置いていた肉を、ルネは持っていたワイン瓶を、それぞれ再び口にした。
ロシナンテはイザベルとルネに何か言いたいのだろう。
必死に鳴いているが、二人の耳には届いていなさそうだった。
そのとき――。
オリヴィアの部屋の扉が開き、シャルルが飛び出してきた。
いつも落ち着きがないが、今回は特に慌てている。
「二人とも! これを見てよっ!」
それからシャルルは、手に持った羊皮紙を無理矢理にイザベルとルネへ見せるのだった。
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