第46話

オリヴィアとロシナンテが近衛騎士団に連行されてから――。


シャルルは、仕事が終わって帰ってきたイザベラとルネに、事情を説明した。


オリヴィアがロビン·フッドを逃がす手助けをした少女を操っていた黒幕だと思われていること。


しかも、そのロビン·フッドを助けた少女は自分であることも。


「シャルルお前っ!? ロビン·フッドの奴が逃げる手助けをしたのか!?」


話を聞いたイザベラは激昂。


激しく怒鳴りながらなぜロビン·フッドを助けたのを訊ねた。


その小さな体からは想像もできないほどの大声で。


イザベラはロビン·フッドのことを気に入ってはいた。


だが、それとこれは話が別。


今一番街を騒がせている盗賊を助けるなんて言語道断であると――。


イザベラはシャルルに突っ掛かったのであった。


「剣を突きつけられて……それでしょうがなく……」


「らしくねえじゃねえかよ!? いつものお前ならそんなことで怯まねぇだろ!?」


お前にも隙があったのではないか?


イザベラは、そう言ってそのまま怒鳴り訊ねた。


シャルルはそんなイザベラの勢いにすっかり萎縮してしまう。


そんなシャルルを見かねてか、ルネが二人の間に入った。


「イザベラ。今はシャルルを攻めている場合ではありませんよ。それよりもオリヴィアのことを考えないと」


「アタシだってわかってんよ! ならよぉ、どうしてオリヴィアが捕まるんだ!? ロビン·フッドを助けたのたはシャルルだろ!?」


今度はシャルルを庇うよう会話に入ってきたルネに怒鳴り散らすイザベラ。


オリヴィアが連れて行かれたこと余程ショックだったのだろうか。


普段のやる気なさそうにしている彼女とは思えない姿だ。


そんなイザベラの気性を知っているルネはシャルルとは違い、怯むことなく対応していた。


おそらく二人の付き合いが長いのもあるだろう。


ルネには、イザベラが憎悪に駆られて今のような態度になっているわけではないことを理解しているのだ。


「たぶんだけど、銃士隊の再結成の噂と関係があるじゃないかな」


ルネは少し間をおいてから口を開くと、ある仮説を立て始めた。


それは銃士隊が復活したときに、誰が隊を率いる役目に選ばれるかというものだった。


三銃士をよく知っている者ならば、間違いなくオリヴィアを隊長に選ぶだろう。


ならば、銃士隊の復活を阻止する方法は、オリヴィアが再結成に参加できなくすればよいのではないかと。


イザベラは、ルネのその言葉を聞いて両目を見開いた。


「じゃあ、オリヴィアはこじつけで捕まったってことか!?」


「ええ。おそらくはリシュリュー……いや、このやり方はミレディかも……」


ミレディの名を聞いたイザベラは表情をさらに歪め、それ以上怒鳴らなくなった。


そしてルネも自分の予想する考えを話し終えると、そのまま黙ってしまう。


ずっとイザベラとルネの会話を聞いていたシャルルは、そんな二人へ何か言わなければと自分のこと奮い立たせようした。


だが、かける言葉が見つからない。


何を言っていいのかわからない。


オリヴィアを救うにはどうすれば良いのだろう。


シャルルは、彼女とロシナンテが連れていかれてからずっと考えていたが、何も思い付かなかった。


「ボクは……ボクは………オリヴィアとロシナンテのこと……」


ポツリポツリと呟くシャルル。


その目には涙が流れている。


俯き、震えながら泣いているシャルルを見たイザベラとルネは、さらに何も言えなくなっていた。


銃士隊の再結成の噂が流れてから、剣技を磨き日々訓練積んで強くなったつもりでいた。


しかし、今は自分の無力さに押し潰されそうだ。


「わりぃシャルル……少し言い過ぎた。……ごめん」


「ともかく明日宮殿へ行ってみましょう」


さすがのイザベラも悪いと思い頭を下げると、ルネが穏やかな声をかける。


シャルルはそんな二人に優しくされ、なおいっそう自分のことが情けなくなった。


涙が今までよりも溢れてしまう。


自分のせいで仲間が辛い目に遭うのがここまで苦しいことだったのか。


シャルルはそう思いながら顔を上げて、イザベラとルネに向かってコクッと頷くのであった。

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