第22話

シャルルがロビンと森にいた頃――。


宮殿では、一人の少女が役人からの報告書に目を通していた。


体に合わない豪華な椅子に腰を下ろし、机の上に山のようにある羊皮紙ようひしが、今にも彼女を押し潰しそうだ。


少女はその報告書を一つ一つ手に取り、考え込んでいる。


窓辺にあるカーテンはすべて閉められていて、昼間だというのに部屋の中は薄暗い灯りだけが付いていた。


どんなに明るい性格の者でも、この部屋に足を踏み入れたら、たちまちその表情を曇らしてしまう――そんな雰囲気の場所に少女は一人でいた。


彼女の名はルイ。


このメトロポリテーヌ王国の若き女王であり、まだ王位を継いだばかりの少女だ。


今彼女は自分なりに国の状況を確かめようと、必死で報告書を見ていたのだった。


コンコンコン。


そんな暗い雰囲気の部屋の扉に、三回のノックの音が聞こえる。


「誰だ?」


「ルイ女王、私です。リシュリューでございます」


「入ってよいぞ」


扉を開け、一礼をした白髪の老人――。


彼の名はリシュリュー枢機卿すうききょう


メトロポリティ―ヌ王国の宰相であり、まだ子供であるルイの代わりに、この国の政治や経済すべてを牛耳っている男だ。


「ルイ女王、またこんなに部屋を暗くなさって。今日は晴天なのですから、陽の光を部屋に注ぎましょう」


「よいのだリシュリュー。余はこちらのほうが落ちつく」


「ですが王はその姿を民や臣下に見せてこそですぞ。それなのに陽の光をお嫌いになられていたら、重臣たちも不安に駆られましょう」


「まあ……おまえがそこまで言うのなら……」


それからリシュリューがパンパンと手を二回叩くと、メイドたちが現れて灯りを消すと、すべてのカーテンを開き、窓も開けてしまった。


ルイは口ではリシュリューの言葉を受け入れていたが、本当は嫌だった。


だが、王としての振る舞いの話をされると、どうしても言い返すことができなかった。


仕事を終えたメイドたちは、扉の前で一礼すると、そのまま何も言わずに出て行く。


陽と風が入った部屋を、リシュリューは上機嫌で歩き、そしてルイに拝謁した。


「これで明るくなりましたな」


そして、声を弾ませてそう言った。


ルイはリシュリューに、少し不機嫌そうな様子で、何しに来たのかを訊ねた。


訊ねられたリシュリューは顔を上げると――。


「実は一つ、ルイ女王にお話ししたいことが」


と、礼儀正しい言ってから話を始めた。


昨夜――。


市場の近くにある広場にて、禁止されている決闘が行われているとの通報があった。


それを聞いた近衛騎士団は、すぐにそれを取り締まるべく問題の場所へと向かう。


そこには、かつて銃士隊だったオリヴィア·アトス、イザベラ・ポルトス、ルネ・アラミスが、まだこの街へ来たばかりだと思われる少女と剣を重ね合っていた。


「なに? 三銃士が少女とだと?」


「はい。それで、それを見たロシュフォール団長が訊ねたのです。禁止されている決闘をしていたなと」


「ふむ。して三銃士はなんと?」


リシュリューは、ルイの質問には答えずにその後の話をした。


三銃士はその少女と共に、突然近衛騎士団に向けて斬りかかってきた。


そのせいで多くの者が負傷し、死者が出なかったことが幸いであったと。


「これは国の法を犯した行為でございます。それは、ルイ女王――しいてはメトロポリティ―ヌ王国に逆らうことと同じですぞ」


「そ、それはたしかに放ってはおけぬな……」


リシュリューは、たじろくルイのことを何も言わずにただ見つめた。


その綺麗に整った白い髪も髭も、幼いルイから見れば地獄の使者のように映っていた。


「よ、よし! では、三銃士とその少女を余の前へ連れてまいれ」

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