第21話

眼を見れば、その人物がどういう性格をしているのかがわかる――。


ロビンはシャルルを見つめたまま、そう言った。


なんでも、今までの経験からそういうことがわかるのだそうだ。


これまで、自ら正義を名乗る悪者をいくらでも見てきた。


自国――ブリティッシュで、民のためだとか国のためだとか言い、私服を肥やす貴族や商人、さらには王国の主であるはずの王まで、正義の名のもとに自分のことしか考えていない連中ばかりだった。


自分でもよくはわからないが、たぶんそういう者ばかり見てきた影響があるのだろうと。


そう話したロビンから見るに、シャルルの眼はとても透き通っていて、さらには力強さを感じさせるものだと言う。


「それでオレはこう思ったんだ。この娘はきっと悪いことをする奴を許さない人間だとね。ま、ようはオレの人物鑑定によれば、シャルルは正義の味方ってやつさ」


そう言ったときのロビンの顔は、元の軽薄なものへと戻っていた。


シャルルはロビンの言葉を聞いて、正直嬉しく感じていた。


それは亡き父の教えが、自分の頭の中や心に浸透していると思ったからだ。


シャルルの父は、彼女に剣を教えただけではなく、銃士のあるべき姿を説いた。


その心とは、困っている人、弱き者、そして自分よりも強い力によって虐げられている人々を助けるという精神のことだ。


たしかにロビンのやっていることは、父の教えと重なる部分はある。


苦しい生活を強いられ、その日のパンさえも手に入らない者たちへ自らの危険も顧みずに戦っている。


間違いなくこのブリティッシュ出身の盗賊――ロビン·フッドは弱い者たちの英雄だろう。


だが、それでも父の言った銃士の姿――自分が憧れた英雄とは違うのではないか?


本当に民を――国を救うことにはならないのではないか?


シャルルはそう考えると、力強い視線をロビンに返した。


「ロビン……じゃあ、ボクと銃士隊を復活させよう!」


何を返すかと思えば、シャルルはロビンを逆に誘った。


それからシャルルは、目を輝かせて説明を始める。


今自分が住まわせてもらっている場所――下宿先は、かつてメトロポリティ―ヌ王国で英雄と呼ばれていた女三銃士の家であること――。


そして、昨夜彼女たちと共に赤い制服を着た集団――近衛騎士団と闘ったことを、熱っぽくロビンへと伝えた。


「三銃士と義賊ロビン·フッド……うん! 二つの英雄が揃えば、この国を絶対に変えられるよ! だからボクと……いや、ボクたちと一緒に来て! 変な心配はいらない。ロビンのことはボクが責任の持って銃士隊に入れるようにするから。元盗賊だって関係ない。だってロビン·フッドは民の英雄なんだから!


それを聞いたロビンは、俯いたと思ったら急に大笑いした。


そして、呆れた様子で話し始める。


「あの守銭奴と大食らいと色情狂も君と同じことを言っているのか? そいつは笑えるな」


「何がおかしいの?」


「そりゃおかしいよ。でもまあ、今日のところはこの辺で諦めますかね~」


ロビンはそう言うと、持っていた荷物の中からロープを出して、それを高く投げ放った。


今二人と一匹がいるのは森だ。


だから、当然投げられたロープは木の枝に絡む。


それをしっかりと引くと、ロビンはあっという間に上がっていった。


そしてある程度登ると、今度は側にあった木を蹴り、その反動を利用して枝の上へと着地する。


「今日はありがとう。まさか逆に銃士隊へ誘ってもらえるとは思わなかったよ。シャルルの話は面白かったけど、オレの仲間になる話も選択の一つとして考えておいてね」


「ちょっと待ってよロビン!?」


「この国がどうなっているか、君のその眼で見てくるといい。そうすればオレの話したことも、きっと受け入れる気になるさ。それじゃ、またね~」


ロビンはそうにこやかに言うと、またロープを使って木から木へと飛び移り、シャルルとロシナンテの前から姿を消してしまった。


「まだ話は終わってないのに……。それに見てくるといいって、一体なにをどう見ればいいんだよ……」


残されたシャルルがそう呟いていると、ロシナンテは彼女に寄り添うのだった。

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