第17話

完全に包囲されているというのに、その緑の装束の人物はなぜ余裕いられるのだろう?


シャルルは、もう後がない状況で高笑う人物を見ながら首を傾げていると――。


「かかっ! こんなことくらいでオレを捕まえたつもりか!」


声とその屋根から見える姿を見るに、緑の装束の人物は女性だった。


それから緑の装束の女性はその自分の長い髪を結うと、赤い制服を着た集団――周りを包囲している近衛騎士団へと叫ぶ。


「それじゃあ、仕事の仕上げていくかね!」


「何が仕事だ! この盗賊が!」


「なに、トウゾクだって? オレのことは義賊と言ってくれよ、ケツ丸出し副団長さん」


緑の装束の女性は叫び返すジュサに笑みを向けると、背負っていた荷物に手を突っ込んで、屋根の上から辺りにばら撒き始めた。


何か小さくて丸いものだ。


それが地面に落ちると、チャリーンという金属音が鳴った。


シャルルは、それを手に取ってみる。


「これって……お金?」


緑の装束の人物が辺りに投げていたのは、金貨、銀貨、銅貨と、この国で使われているコインだった。


それを見た近衛騎士団の副団長であるジュサは、表情を強張らせて騎士団に指示を出す。


「何をしている!? さっさと屋根に上ってあいつを捕まえろ!」


その言葉を聞いた騎士たちは、慌てて建物を上っていく。


緑の装束の女性は、そのことを当然わかっていたのだろう。


屋根から屋根へと飛び、金をばら撒きながら走って行った。


シャルルが拾った金貨を持ってその場に呆然と立ち尽くしていると、周りにあった多く家の中から人が出て来る。


その者たちは皆痩せこけ、着ている服を見る限り、とても生活に困っているように見えた。


「ああ……ロビン·フッド様。これで子供にパンを与えてやれます」


中年の男性が――。


「かあちゃん! ロビンフッドさまがまたお金をたくさんを置いて行ってくれたよ!」


「そうだね。あの人は本当に神さまの使い――天使さまだよ」


子連れの女性が――。


「お前、これでまた生き延びられるなぁ」


「ありがたやありがたや」


老人の夫婦が――。


その周辺の住んでいる者たちが、歓喜しながら頭を下げ、中には涙を流す者までいた。


「あの緑の女性ひと……この人たちにお金をあげているんだ……」


シャルルはそれを見て理解した。


緑の装束の女性――ロビンフッドと呼ばれていたあの人物が追われていた理由は、おそらくどこからかこのばら撒かれた金を盗んだためだ。


そして、彼女はそのお金を貧しい者や老人、さらに病気で働けなくなった者へと与えているのだ。


そんな彼女は、このメトロポリティ―ヌ王国の弱者たちに、まるで英雄や神――いや、それら以上に愛されていた。


それは当然のことだ。


現在この国には、我が物顔で威張り散らす騎士団と、堕落した元銃士隊しかいない。


神は、毎日祈りを捧げても直接は救ってはくれない。


しかし、ロビン·フッドは違う。


自らの危険を顧みずに弱き者たちを救っているのだ。


だが、シャルルは思う。


たとえ、それが弱き者を救うためにしたことであっても盗みは盗みだ。


ロビン·フッドは彼ら彼女らにとって救世主で、英雄や神以上の存在なのかもしれない。


それでもこのやり方には間違っているのではないか?


そんなことを考えて難しい顔をしているシャルルに、ロシナンテが鳴いて声をかけた。


「そうだよねロシナンテ……。ボク……あの人と話してみたい……。それならまずは行動だ!」


大声を返してきたシャルルに、ロシナンテは嬉しそうに鳴き返した。


そしてシャルルは、拾った金貨を近くにいた子供に渡すと、ロシナンテに跨ってロビン·フッドと近衛騎士団を追った。

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