第18話

建物の屋根から屋根へと飛び移り、走って行くロビン·フッド。


彼女は荷物の中に入れていたすべての硬貨を投げ切ると、背負っていた短弓――ショートボウを手に取った。


そして、矢を手にすると走りながら追いかけて来ている近衛騎士団を向かって放っていく。


その腕は、走りながらという不安定な状態でも百発百中。


それだけでロビンが、とんでもない弓の名手であることがわかるものだった。


射抜かれた騎士団員たちは、バランスを崩して次々に屋根から落ちていく。


ロシナンテに乗って追いかけていたシャルルは、落ちてきた騎士団員を避けながら、あることに気がついた。


それは、落ちてきた騎士団員たちが誰も死んでいないということだった。


走りながら追いかけてくる相手に矢を当てれるほどの実力があるのなら、当然胸や喉、さらには額を狙うこともできるだろう。


だが、ロビンが放った矢は彼らの腕や足などに当たっていて、騎士団員たちの誰もが大したケガを負っていなかった(さすがに屋根から落ちて骨ぐらいは折っているかもしれないが)。


「自分が捕まったら首吊り台へ送られて殺されちゃうのに……どうして……?」


シャルルはそう呟くと、ますます彼女と話をしてみたくなった。


それから近衛騎士団の追跡は続き、ついにロビンの矢が尽きてしまう。


そして、もう街の外付近まで来たため、飛び移れる屋根も無くなっていた。


「さあ、観念しろロビン·フッド。もう逃げ道はないぞ」


ずっと後方のほうにいたジュサが、近衛騎士団をかき分けて前へと出てきた。


ジュサはサーベルをロビンへと向けると、彼女はニヤッと笑みを浮かべた。


その笑顔は喜びや嬉しさというよりは、ジュサのことを呆れているように見える。


「やれやれ、ここまで追ってくるなんて。相変わらずジュサは諦めが悪いね」


「盗賊風情が馴れ馴れしく私の名を呼ぶな!」


「だから、オレは義賊だってば」


ロビンは、眉間に皺を寄せて怒鳴り返すジュサに、まるで昔からの友人のように声をかけた。


シャルルは、その様子を屋根の下から見ている。


「ど、どうしようロシナンテ!? あの人と話したいからここまで来ちゃったけど! このままじゃあの人が捕まっちゃうよ! そしたら話しなんてできないよね!?」


シャルルは一人慌てていた。


ここでロビンが捕まったら、一体何のためにここまで追ってきたのかわからなくなる。


だが助けようにも、近衛騎士団は盗みを働いた盗賊を捕まえようとしているわけで、ここで彼女に手を貸したら、自分も盗賊の仲間だと思われてしまうのだ。


どうする?


どうすればいい?


シャルルがそう考えていると――。


「それじゃ仕事も済んだし、オレはもう帰るよ。次はいつ会えるかな~」


ロビンがジュサにそう声をかけていた。


対するジュサは、先ほどのロビンのように呆れた笑みを浮かべた。


「何をバカなことを。お前にはもう逃げ道がないことがわからないのか?」


「ジュサ、お前の悪い癖だ。物事ってのは終わってみないとわからないんだよ」


ロビンはそう言うと、腰に下げた剣――ショートソードを手に取った。


最後の悪あがきでもするつもりか?


一人でこの人数を突破できると思っているのか、愚か者め。


ジュサはそう思ってサーベルを構えた。


「お前とはいろいろと因縁がある。ここは正々堂々と一騎打ちで決着をつけてやるよ」


「そいつは嬉しいんだけどさぁ。さっきも言ったけど、もう帰るから。じゃあジュサ、またね~」


ロビンがそう言った瞬間に、ジュサのサーベルでの突きが繰り出された。


かつてロビンの矢でズボンの尻の部分を射抜かれたせいで、ケツ丸出し副団長と呼ばれ、陰で笑われている彼女ではあるが、やはりその実力は本物だ。


閃光のような刺突がロビンの心臓を狙う。


だが、それは避けられた。


剣を躱されたジュサが内心で「まさか飛び降りたのか?」と思っていた。


しかし、ここは屋根の上。


さらに、下には衝撃を受け止めるようなものはなかったことは確認済みだ。


この高さから落ちたらまず地面に着いた箇所の骨は折れるだろう。


そうなれば、もはや逃げることは絶望的だ。


と、ジュサは考えていたのだが――。


「うわぁ!? な、なんでボクのところに!?」


ロビンが飛び降りた先は、シャルルの後ろ――馬のロシナンテの上だった。


ロシナンテの小さいながら屈強な体は、ロビンの落ちてきた衝撃を受け止め、彼女は無傷でジュサたち近衛騎士団から逃げおおす。


それからロビンは、慌てているシャルルの喉にショートソードを当て、耳元で呟くように言う。


「ねえ君、ずっと追いかけて来てたよね? オレに何か用があるなら、ちょっと付き合ってもらうよ」

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