第二章 『墨子』に見られる城郭観

第一節 『墨子』の成立時期

 墨家の始祖墨翟の活動期は大体前四三二年~前三九五年の間のこととされる。その活動地域は斉、宋、魯などの東方に求められ、弟子たちは楚、越などでも活動したようであるが、その活動は前四世紀後半には中山や秦などの北方西方にまで拡大する。しかし、その一方で『荘子』『韓非子』などの前三世紀の文献には墨家分裂の状況が伝えられるようになる。こうした分裂の危機に対応して、正当な教説を確認する必要から『墨子』諸篇が誕生したとされ、その内容は渡辺卓氏による思想的分析によると墨家活動初期の前五世紀末にまで遡れるが(注17)、吉本道雅氏による歴史言語学的な分析によれば前三世紀中(前三一二年~前二二一年)に成書されたものと考えられている(注18)。どちらの説を採用するにせよ、『墨子』は『孟子』とは異なって、その全体の成立時期と内容を戦国時代のどの時期のものと特定できるものではない。そのため『墨子』には、各篇の成立時期を考慮に入れた検討が必要である。(注19)


(注17) 渡辺卓『古代中国思想の研究』(創文社 一九七三)

(注18) 吉本道雅「墨子小考」(『立命館文学』五七七 二〇〇二)

(注19) 『墨子』に関しては孫詒譲『墨子閒詁』(諸子集成)を参照した。

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