嫌いな花

一子

第1話

湿った土や草の匂い

生暖かい風がなぶる

眠りから冷めてまだ五分

太陽は眩しかった

木々が日傘になってくれた

木漏れ日は優しかった

てんとう虫が肩から飛び立った

淡い黄色のワンピースの少女がいた

ひまわりの精だった

「もうすぐ夏が来るね」

彼女はそう微笑んで走り去った

淡いピンクや紫、水色の花が咲いている

他の精もいるのだろう

遠くの方で少女が三人、駆け回っているのが見えた

白い肌に薄紅色の頬、ベージュの柔らかそうな髪に長いまつ毛、この世のものとは思えないほど、美しい精霊たち

白い綿毛が飛んできた

木の上でたんぽぽの精が綿毛に息を吹きかけていた

白い髪に白いまつ毛、色素の薄い、透き通った瞳

一瞬目を離した隙に消えてしまった

歩き進むと、嫌なものが目に入った

垂れ頭の白い花

可愛い顔をして毒を持った花

近くに俯いてしゃがみこんでいる少女がいた

どこか憎めなかった

「どこに行けばあなたに会わずに済むの?」

尋ねると少女は北を指さした

そこには冬の国がある

彼女と出会わず過ごすには

私の嫌いな冬へ行くしかないのだ

なんて惨い世界なんだ

彼女に毒をくれないかと頼んだ

青酸カリの15倍の毒

彼女は分けてはくれなかった

私は助からない

楽になることは許されない

少女がくれないなら仕方がない

生えているその花を引きちぎった

見つけてしまったからには

やはりこうするしかない

ずっと前から決めていた

見つけたらこうするのだと

少女はやっと顔をあげて、私を止めた

お構い無しに口に入れた

次々にその、俯いた可憐な花を頬張った

少女は泣き始めた

それは自分の花を食べられたからではない、自分の毒で誰かが死ぬからである

私は、可哀想とも申し訳ないとも思いたくなかった

毒が回るまでここにいて

ちゃんと死んでやりたいと思った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嫌いな花 一子 @aaaaaaaaaaaaaaaaaa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る