第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その87
『イルカルラ血盟団』の突撃は開始されていた。帝国兵は衝突の重量に耐えようと身構えている。ゼファーは『イルカルラ血盟団』の上空を通過し、彼らの勢いに乗るようにして翼で空を叩いた。
迫り来る敵の群れを睨みつけながら、オレとゼファーは牙を開く!!
「ゼファー!!歌ええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GAAHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
歌と共に、金色に渦巻く火球が放たれていた!!その火球は『ターゲッティング』に誘導されて、巨大化と高速化を同時に行いながら、空から放たれた竜の歌に驚いている帝国兵のまっただ中に命中していた!!
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンンンンッッッ!!!
「ひぎゃああああ!?」
「ぐはあああああ!!」
砂漠の表面を焼き焦がしながら、灼熱を帯びた爆風が帝国の兵士どもの隊列を破壊していく!!
『イルカルラ血盟団』の突撃に備えて、隊伍を密にしていたことが仇となっていたな。騎兵の総重量が600キロあろうとも700キロあろうとも、『ターゲッティング』の呪印で強化されたゼファーの爆炎を受ければ、容易く吹き飛んでしまうからな。
むしろ、重い方がいい。
宙に吹き飛ばされたそいつらが、敵の隊伍のなかへと落下していくからだ。十メートル近く上空へと吹き飛んでいた馬の、下敷きにされることになる。どんな屈強な兵士であろうとも、そんなものをまともに受ければ死ぬことになるんだよ。
メイウェイが鍛え上げた兵士たちも、例外ではないのさ。
爆撃を果たしつつ、敵の上空を悠々とゼファーは飛び抜けていく。オレたちの姿を見せてやるのさ。隠れることを止めて、目立つことで敵の視線と注意力をこちらに向けさせる。
西北西のガンダラ・チームの攻撃に加えて、上空のゼファーだ。指揮官であるメイウェイにストレスを与えてやれるし、敵兵は頭上のオレたち意識を取られたら、『イルカルラ血盟団』の突撃に対しての対応がわずかながらに鈍ることになる。
無視はさせないぜ。
オレとリエルとミアが、一斉に矢と弾丸を放っていた。狙うのは兜に赤い尾が生えたヤツらだ。帝国軍の指揮系統を担うヤツらだな。十五人から二十人ぐらいの部隊に直接的な指示を与える末端の指揮官たちだ。
組織を動かすための重要な人材に向けて、猟兵の狙撃は実行される。三人ともに獲物に命中させていたよ。
『みんな、じょうずー!!』
「当然だ!リエル、ミア!とにかく撃ちまくれ!!」
「任せろ!!」
「ラジャー!!」
ゼファーは敵兵の上空を比較的ゆっくりと飛び抜け、オレたちはその間、可能な限り射撃を行う。小隊長クラスを狙ってはいるが、外れたとしても近くの敵兵には当たる。それでいい。
殺せなくても、幅広い面積に攻撃を与えてやることで、不安を抱く敵の数を増やすことが出来る。空から狙われているのが、自分じゃないかという恐怖に囚われてくれるのであれば、それでいいんだよ。
敵に恐怖を与えてやる。
それこそが、猟兵の戦い方だ。
ゼファーは、敵の陣形を飛び抜けていた。そのまま、大きく空で弧を描きながら、今度は敵兵を背後から攻撃してやるのさ。プレッシャーを与えるなら、より多くの方向から与えてやるべきだからな!!
旋回しながらも、オレたちは積極的に狙撃を実行していた。オレもまた一人の小隊長クラスを射貫いたし、リエルとミアは、その倍の数は仕留めている。
射撃の腕では、二人には勝てないな。
そんな敗北を認めながらも、負けず嫌いなストラウスの剣鬼の腕は、矢を再び放ち、小隊長クラスの背中に矢を突き刺していた。
オレたちの奇襲攻撃が成功した直後、本命である『イルカルラ血盟団』の突撃がメイウェイの軍勢を襲っていた。
ゼファーの爆撃により、崩された前面の守りに対して、バルガス将軍は少数の騎兵を突撃させていた。崩れた陣形では、騎兵の突撃を受け止めるということは中々に難しい。未だに竜の劫火の残り火に燃える地面を、巨人の戦士を乗せた騎兵が駆け抜ける。
彼らは爆撃が作った敵兵の空白地帯を進むのさ。その周囲にいる敵兵に鋼を振り落としたりしながらも、敵陣深くに突っ込んで行く。
狙っているのは、敵の指揮官であるメイウェイの首だからな。そして、それが成されなかったとしても、騎兵の役目は敵陣を突破して、敵の陣形の連携を断ち切ることにあるもんだ。
戦力というのは集まれば強い。それならば、敵を『分断する』ことが戦術の基礎となるわけさ。バルガス将軍の騎兵たちは、敵陣の突破をはかることで、敵の攻撃が後続部隊に注がれることを予防してもいる。
敵は中央突破を目指し突撃してきた騎兵に対して、防ごうと内側を向いて応戦しようとする。南から雪崩込んでくる敵にだけ集中出来た時に比べて、よほど不利な戦闘を強いられるわけだ。
突破を許した陣形の脆さというのは、陣形の端から総崩れになってしまうということだ。
二つの方向で同時に戦い続けることなど出来ん。食い破られた場所では、その作用が働き、戦力はまたたく間に削り取られていく。
オレたちの爆撃で開けた空白を使い、バルガス将軍たちは、上手く敵陣深くに到達してくれている。しかし、さすがに精強なメイウェイ軍ということか。バルガス将軍たちの捨て身の突撃にも、対応をし始めている。
ならば?
こちらも、もう一押ししてやるだけのことだ。
「ゼファー!歌ええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GAAHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHッッッ!!!』
ゼファーは『炎』のブレスを使う。北風に乗せて、灼熱の劫火で地上を焼き払いにかかっていた。
「ミア、行くぞ!!」
「うん!!『風』よ!!」
リエルとミアが、北風に踊らされながら伸びていく劫火に、『風』を送り込んだ。劫火は二人の呼んだ『風』を得てさらに火力を増しながら、南へと向かって灼熱の津波を延長させた。
北風と魔術を助力にすることで、ゼファーの『炎』は何十人もの帝国兵を劫火の灼熱で炙り殺すことに成功している。地の利を活かすのさ。『ベイゼンハウド』で、白竜ルルーシロアが見せた戦い方を、我々も記憶しているからな。
ルルーシロアほどには上手く環境を使いこなせているとは言えないが、リエルとミアの『風』により、ゼファーはルルーシロア単独では生み出せないほどの威力を作り上げたのさ。
敵陣の南を爆撃し、北側を焼き払った。敵陣の厚みが、局所的にではあるが、ずいぶんと減っている。だからこそ、オレはゼファーの背に立ち、戦場へと向かって飛び降りていくんだ。
オレも敵陣の突破を狙うのさ。北側から単独で、敵を斬り捨てながら南下し、バルガス将軍と合流してやることで、突破のための道をこじ開けてやるんだよ。かなりムチャな策だが、ストラウスの剣鬼には、相応しい仕事だよな、アーレス!!
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