第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その12
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンッッッッ!!!!
あらゆるものを力尽くで薙ぎ倒すほどの、爆風が暴力となって戦場に顕現するッ!!衝撃波と灼熱が敵を斬り裂きながら、十数人の傭兵どもを焦げた肉片に変えてしまう。ゼファーは、その威力に喜び、歌を放つことで讃えてくれた。
『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHッッッッ!!!!』
オレの目の前に集まり、突破を妨害しようとしていた傭兵どもの群れ。そこに大穴を開けてやった。
傭兵どもは静まりかえり……いや、それは良いんだが、ドワーフの戦士たちまでも驚き動きを止めてしまっていた。
魔力も体力も注ぎきる、竜騎士の奥義だからな。この威力を前にして、驚いてくれるのは竜騎士冥利に尽きはするのだが、突撃の勢いが失われてしまうのは痛い―――。
「―――ハハハハハッ!!さすがだ、竜に乗ってやって来たソルジェ・ストラウスよ!!お前さんは、超がつくほど一流の戦士だぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
ドワーフの戦士が、戦斧で手近なところにいた傭兵をブン殴りながら、『魔剣』の威力を褒めてくれた。そのおかげで、ドワーフの戦士たちも、オレへの恐怖心を無くしてくれる。
「おおおおおおおおッ!!竜騎士を讃えろッ!!」
「ソルジェ・ストラウス!!ソルジェ・ストラウスッ!!」
「竜騎士に負けずに、突撃するんだあああああああああああああッッ!!」
「襲撃者どもを、蹴散らせえええええええええええええええええええええッッッ!!!」
ドワーフの戦士らしい。仲間のはずのオレとも競走する意欲に駆られている。戦士というのは、そういうものだ。戦場では、誰よりも強い男でありたいという願望を持っているものさ。
……ドワーフの戦士たちの突撃は再び開始されて、オレの開けた隊列の穴から、傭兵どもは崩れ始めていた。
その様子を見て、ゼファーが皆を励ますための応援の歌を放ってくれる。
『みんなー!!てきのたいれつが、くずれたよー!!ぎゃくに、とりかこんで、みんなでなぐっちゃええええッッ!!』
「そうです!ドワーフの皆さん、ソルジェ兄さんの開けた穴から、突っ込んで下さい!!そうすれば、戦力がつながります!!包囲されなくなる!!……ここで攻めることが出来たら、戦況が、大きく変わるんですからーッッ!!」
策士の妹分が、あの長い黒髪を振り乱すほどに体を激しく動かしながら、ゼファーの背の上で叫んでいた。
乙女の美しい声に、野太い合唱が空を揺らすことで応えていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「あそこだなああああああああああああああああああああッ!!」
「突破するんじゃああああああああああああああああああッ!!」
大穴集落の守り手たちは、満身創痍の体に希望の活力をみなぎらせながら、血まみれの体をゆっくりとだが前に進ませる―――ドワーフたちの指揮を執る。もちろん、それも、我が妹分ククル・ストレガの目的ではあったが、それだけではない……。
「……ククル、やるであります。傭兵どもに聞かせて、混乱を広げようとしているでありますな」
「ウフフ。先代のリング・マスターが生きていたら、とっても気に入った教え子になったでしょうね!」
「ククク!そうだなッ!」
間違いない。ガルフ・コルテスは、ククルのように賢く、器用な子にこそ、自分の経験値を伝承させようとしただろうし。ククルの才能と、あのマジメな性格であれば、『白獅子』ガルフの創り上げた、猟兵の妙技と戦術の全てを、継承することが出来たさ。
草葉の陰で、安酒をあおりながら、ガルフは口惜しがっているかもしれない。もっと早くに見つけて来やがれ。そんな理不尽な文句を、眉毛を斜めに曲げながら言って来そうだよ。
なんだか、楽しくなる。
……戦況もククル・ストレガの言葉によって、変えられていた。大穴集落に響いた、傭兵どもにとって悪い知らせだ。ドワーフの戦士たちの包囲が、今にも崩されそうだというのだからな。
仮に、この大穴集落が傭兵どもの住み処だとすれば、ここにヤツらの家族が住んでいたとすれば、その言葉は大いに傭兵どもを奮起させたかもしれない。
多少のムリをしたとしても、力尽くでドワーフたちの勢いを抑え込もうとしたはずだが。ヤツらは所詮は、襲撃者でしかないのだ。
この場所に対して、積極的に攻撃を継続すべきなのか……そのことを疑問に思い始めている。
今は、この戦場の大きなターニングポイントだ。
傭兵どもは、大穴集落で死にたいとは考えていない。ここはヤツらにとって、ただの仕事場でしかなく、命がけで戦うほどの義理など、ヤツらにはありはしないさ。
竜に上空を陣取られ、明らかに凄腕だと分かるオレたちが介入してきた。さらにはかなりの苦心をして創り上げたはずの包囲網を、すでに崩され始めている。ドワーフの戦士たちに包囲を突破されたら?……ヤツらのうち、何十人もが逃げ場を失うことになるんだよ。
そいつらは、ドワーフの戦士たちに許されることはないだろう。確実に死ぬこととなる。たとえ、その壮絶な戦いの果てに、ドワーフたちが滅ぼされたとしても、傭兵どもの一翼は確実に殲滅される。
この大穴集落の地形を理解しているであろう、傭兵どもは、自分たちよりもその地形に詳しいドワーフの戦士を自由にしてしまうリスクを、必要以上に把握している。
命を賭ける理由もない。
このままでは、確実に殺されるかもしれない。
……ドワーフの戦士たちに包囲される可能性がある傭兵どもは、その二つの考えから、非常に合理的な手段を選択することとなるのだ。
「退くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
「退却だあああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
「囲まれる前に、下がるぞおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
……ここらが傭兵団の限界でもある。
叫んだのは、窮地に陥る可能性があった、東の通路に陣取っていた傭兵どもだった。ヤツらは、孤立する可能性に気づきやがった。ベテランらしい勘の良さは褒めてやるべきだが、そこに指揮官はいない。
指揮を執れるヤツは、さっき、キュレネイが『雷』の魔術で仕留めたからな―――叫んだ連中は、自分の命を守りたい一心でそう主張し、可能な限り多くの仲間が自分たちについてくることを期待していた。
……局所的な目で見れば、それは正解ではある。だが、大局的な視線でヤツらの行動を評価すれば、間違いなく最悪の行動だ。
さっきの指揮官が生きていれば、勢いづくドワーフに背を向けることを許しはしなかったさ。そんなことをすれば?……分かりきったことだ。ドワーフの王国から敗走して生き延びた者は、まずいない。ドワーフの本領は、追撃にこそ発揮されるものだからな。
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