第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その11


 ドワーフの戦士たちが反応してくれる。戦いというのは、敵をいかに包囲し拘束するかということで、勝敗が左右されるものだ。


 大穴集落のあちこちで、ドワーフたちは孤軍奮闘に追い込まれていた。切れ切れにされた戦力を、傭兵どもは道を封鎖することで、彼らが合流することが叶わないようにしていやがったのさ。


 オレがしていたことは、その包囲の一角に大穴を開けることだ。ドワーフたちはその意図に気がついてくれて、突撃を始めてくれた。疲れ果てた体に鞭を打ち、残存するわずかな体力を消費しながら、ドワーフの戦士たちが戦場を駆け抜ける!!


「突破しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


「賊どもを潰せえええええええええええええええええええええッッッ!!!」


「我々の誇りを、戦斧に込めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 雪崩込んで来るドワーフの戦士たちに、傭兵どもは対応しようとするが、オレとドワーフの戦士の群れに挟まれているんだぜ?……そんな状態で、どれだけのことがやれるというのだ!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 無呼吸での戦いは、終わりを告げる!!敵を威嚇し、そして、より多くの息を吸い込むために、ノドと全身を震わせて、戦場にガルーナの野蛮な歌を放つ!!


「ば、蛮族があああああああッ!!?」


「調子に乗るなよ、亜人種びいきの裏切り者があああああッ!!!」


「ソルジェ兄さんへの無礼は、許しません!!」


 ククルがオレの背中に回り込もうとしていた傭兵の頭を射貫く、いい援護射撃だ。リエル並みとは言いすぎだが、ククル・ストレガは弓使いとしての超一流だよ。


 だからこそ、前に集中することが出来る!!


 竜太刀を振り回し、歩幅を短くしながらも、突撃し続ける。攻撃の全てを躱すことも出来ないが、そこは竜鱗の鎧が活躍するところじゃある。


 何度か、手痛い打撃をもらうが、それでもガマンだ。ただただ、前進あるのみ。技巧ではなく、もはやただの体力任せになりながらも、竜太刀と全身を無理やりに敵の群れへと押し込んでいく。


 斬り裂き。


 斬り伏せ。


 斬り捨てて。


 ときおり、斬られて、打撃も浴びるが……鎧とガルーナ人の体格に頼り、敵を押し倒すように、魔王の行進は続くのだ。


 膝を屈することなく、ただただ前に進み続ける。それが、この泥臭くてしかたがない混戦状態のコツだ。止まらなきゃ、いつか突破は叶うもんだよ。


 背中はククルの矢が守ってくれる。目の前の敵には、キュレネイの矢が死を与えてくれているんだ。この戦いは、とんでもなく恵まれている方じゃあるのさ!!


「はああああああああああああッッッ!!!」


「ぐほううううう――――」


 竜太刀を叩き込み、また一人の傭兵を殺した。死に行くそいつを蹴り倒した直後、オレは短躯の友人どもと出会うのだ。


 『メイガーロフ・ドワーフ族』とは初対面ではあるが、やはりドワーフ族らしい短躯に野太い体格をしていた。オレは、ニヤリと笑う。オレと同じぐらい、敵と己の返り血にまみれているドワーフの戦士は、大きく強そうな牙を剥き出しにして笑ったよ。


「いい戦いだったな、人間族の兄ちゃん……ガルーナ人ってのは、みんな、アンタみてえに強いのか?」


「……ああ。オレみたいなヤツらが、昔はいっぱいいたさ。今は……国ごと消えちまったが、オレが、そのうち……元通り以上の強い国にして、再建してやるんだよ」


「ほう。そいつは、楽しみだ。野蛮人の国は、多い方が面白い」


「いい国だぜ。どんな人種が、生きていてもいい国なんだからな」


「……気の利いた国だぜ!!」


 戦斧を担いだそのドワーフ族は、オレの右隣に位置取ってくれる。彼は、仲間のために単騎で突撃を敢行したのだ。彼が開けた道と、オレが開いた道はつながる。血路と呼ぶに相応しい死屍累々が転ぶ、赤に染まった道であったよ。


「もうちょい、粘れよ、赤毛のソルジェ・ストラウス!!」


「おうよ!!まだまだ、暴れ足りんところじゃあるんだよッッ!!」


 戦場で、肩を並べる戦士が隣りにいてくれることの心強さというものはない。名前も聞いていないドワーフの戦士と共に、オレは怯んでいる傭兵どもに対して、ほとんど同時に飛びかかっていた!!


 アーレスも歓喜しているよ。


 竜太刀が炎のような熱を帯びて、敵を斬り裂きながら、その血を焼き払っているぜ。分かりやすいほどに、はしゃいでいる。気骨のある戦士に、戦場で出会うことが出来たからだ。


「ハーハハッ!!いい鋼だな!!何とも、高貴で、どこまでも偉そうだ!!」


 戦斧で傭兵を叩きつぶしながら、ドワーフの戦士は語る。


 ドワーフ族は鋼の声を聞けるのだ。竜太刀に融けて宿る、古竜アーレスの存在にも、当然ながらドワーフ族は気がつける。


 その感覚が、少しながら羨ましくなるよ。


 オレもアーレスの声を聞いてみたいもんだ。まあ、想像はついているがな。どこまでも傲慢で、どこまでも偉そうにしていて、今は……ドワーフの戦士たちがあきらめずに戦いの意志を示したことに狂喜し歌でも唄っているころだろう。


「……アーレスよ……それほどに、嬉しいのであれば……お前の力を貸しやがれッ!!」


「ハハハ!!ガルーナ人のソルジェ・ストラウス!!分かった、だってよ!!お前の竜も暴れたりないらしいぞッ!!」


「そうだろうな!!分かっていたぜ、アーレスよッ!!」


 竜太刀で風を斬るように大振りして、傭兵を一人、斬り捨てる!!


「ククルは上空からの援護を続行……レイチェル、行くであります」


 キュレネイ・ザトーがそんな言葉と共に、ゼファーの背から飛び降りて来る。弓を捨てて、『戦鎌』を持っていた。


「露払いと行くでありますよ」


 着地すると同時に、キュレネイはその細くて長い腕と脚を強く使い、『戦鎌』の旋風でオレの右にいる敵を斬り捨てる!!


「了解ですわ!リング・マスターとアーレスさまに、時間を作りましょう!」


 壁を蹴りつけて、大きな跳躍を見せつけながら、レイチェル・ミルラもオレの側へと舞い降りる。呪いの鋼を振り回し、傭兵どもを寄せ付けない。


「ほー。どっちも、かなりの細身だが、べっぴんさんで強い姉ちゃんたちだなあ!!」


 ドワーフの戦士が、オレの背後に背中を合わせるように位置取った。四人で四つの方向を守っている。敵の群れと戦う時には、なかなかいいポジションだ。


「くそ、コイツら、強い……ッ」


「戦局を、変えられるというのか……『自由同盟』の傭兵ごときにッ!!」


 傭兵どもの屈辱に震える声を浴びて、竜太刀の中でアーレスは金色の瞳を細める。


 ―――我が力を、絶望の震えと共に讃えるがいい!!


 ククク!!……どーせ、そんなことでも言っているのさ。


 竜太刀に、竜が背負う煉獄の焔が発生する。金色に輝く灼熱が、竜太刀の深奥から湧き出てくる。黄金色の焔は螺旋に奔り、竜太刀に絡むように宿りながら、その熱量を解き放っていく。


 金色の灼熱の波動が、周囲を焦がすほどに熱くする―――オレは、怯える敵の群れを睨みつけていた。まだまだ、敵はいるもんだぜ。だが、この一撃で、流れを確実に変えてみせる。


 ……行くぜ、アーレスよ!!


「『魔剣』ッ!!『バースト・ザッパー』ああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!」




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