第四話 『パシィ・イバルの氷剣』 その20
「ロロカ、ジャン!オレに続け!!ミアとカーリーは、通路から敵が漏れてきたら、攻撃しろ!!出入口は一つだが、ここに至る道は、複数あるからな!!」
「ラジャー!」
「任せなさい、コイツら、ただの雑魚!!5人までなら、わらわ一人でも相手出来るけれど、ちゃんとミアとも連携するし、伯父上とも連携する!」
「ああ。そうしろ。他のものは、ゼファーの爆撃に備えつつ、可能な限り北天騎士たちの鎖を断ち斬っておけ!!壁は爆裂する、近づくんじゃないぞ!!上階の者たちも、可能な限り、下に降りてこい!!脱出にそなえるんだ!!……ここは任せたぞ、ジグムント!!」
「任せろ!!……オレも、敵を狩りに向かいたいところだが……」
「ここを指揮する者がいる。アンタは、適任だ」
「……わかった」
「じゃあ、行くぞ、二人とも!!」
「はい!」
『イエス・サー・ストラウスッ!!』
猟兵三人で突撃する。通路を駆け抜けるのさ。ああ、迷うことはない。よく曲がりくねっている道ではあるが―――ホフマン・モドリーから得た情報が頭のなかにある。
彼の予想と異なることはない。
あちこちの改築は、繰り返し行われていたようだが……ホフマン・モドリーの設計の邪魔をしない程度のものだったらしい。ホフマン・モドリーは建築家としての才能を示しているようだな。
彼にとって、この収容所は悪夢の原因ではあるだろうが、施設としての出来はとんでもなく優秀であったようだよ。
……少数で守るために、とても有効な場所。
そいつは、オレたちを守ることにもつながる。おかげで、230対3という戦いで、敵を釘付けにすることも出来るわけだからな。
通路を駆け抜ける。
そして、敵の気配を悟って、足を止める。ロロカもジャンもオレの動きに連動してくれる。
敵がいる……予想の通りだ。
細長くて狭い通路は、あと5メートルほど先で90度に右折している。そこから先は、やや開けた空間なんだよ。
『外』への出口さ……そこは開けた空間となっていて、大勢の兵士が武装して待ち構えることが出来ている。弓を装備している者もいるだろうし、かがり火が用意されているから、炎の揺れる赤い色が、石材で造られた、5メートル先の壁を赤く照らしている。
不用意にあと5メートル進めば、矢の雨か、あるいは槍が投げつけられて来るわけだよ。何十発の矢が、同時に降り注げば……?いくらオレたち猟兵だって死んでしまうかもしれない。
まあ、戦い方ってのは、色々とあるもんだがね。
オレは索敵用の『風』を使う。
5メートル先の通路にそれは跳ね返り、その通路の先にある空間を探ってくれる。反響してくる音を聞くのさ。竜騎士は、『風』と音を使いこなす、空の生き物だからな。分かるぜ、大まかな配置がな。
「……左右に弓兵。中央には槍兵だ」
「突撃しても槍隊の伸ばした槍にぶつかりますね」
「そうだ。単純だが、それだけにいい陣形だな。ここさえ突破されなければ、囚人は外に逃げることは出来んからな。何十人も殺せば、死体で道が詰まっちまうだろう」
『……それに、団長。油の臭いもします』
ジャンを連れて来ていて、本当に良かったよ。油の臭いや、その場所までは『風』を使っても分からないところがあるからな。
「どこにある?」
『……向かって右手側ですね。きっと、脱獄してくる人たちの勢いが止められそうにないときは、その油を使って、通路ごと焼くんですね』
「そうみたいですね。この通路、傾斜があります。油を注ぐことも、可能です」
色々と細かな仕組みを考えているもんだ。
さすがは天才ホフマン・モドリーじゃあるよ。
だが、彼からもらった図面、そして、『風』による探索、そしてジャンの嗅覚による情報に、魔眼での透視―――それらを合わせることで、オレは作戦を組み立てることに成功する。
……どんな状況でも、やはり戦い方というものはあるもんだ。
オレは壁を照らす、炎の色を見る。揺れ方をみている。どこに、かがり火があるのかを予測する……100%とは言わないが、99%ぐらいの確率で、そのかがり火がどこにあるのかを、オレは予測することが出来るはずだ。
色々な情報を鑑みることでね、角度や位置、そして敵の戦術が読めれば、そういう配置だって分かるもんだよ。まず、油の樽の近くでは燃やさないだろうな。オトナはそういう行為をしたがらない。そして、炎の光が、ここに注ぐように配置する。
なおかつ、射撃者の邪魔をしないようにしなければならないな。ということは、ちょっと高い位置にあるってことさ。
……さーて。そのかがり火を、ぶっ壊してやるとしようじゃないか。暗黒を作り、動揺を呼ぶ……そして、あとは暴力の切れ味を試すことになるな。ほんの少しの、『詐欺』も使うことにはなるが、200人以上の戦力さなのだから、汚い手を使うのも許されよう。
「ロロカ。手投げ弾を」
「はい、ソルジェさん」
ロロカが雑嚢のなかから、その爆薬のカタマリを、オレの手に渡してくれる。コイツはいつもの『こけおどし爆弾』とは異なる、本当の爆弾だ。
シンプルな爆弾であり、シャーロン・ドーチェの発明ではなく、ガルフ・コルテスの発明さ。それをギンドウ・アーヴィングが改良したもの。
強力な火力を持っただけの、シンプルなシロモノだ。殺傷性はそれなりに高いが、何十人も殺すことは出来ない。そして、強い爆風を起こすことは、可能。オレが欲しいのは、その強い爆風だ。
どうしてか?
まあ、見てれば分かる。
オレは5メートルを無言で歩いた。そして、壁に背中を当てたまま、言葉を使う。
「おい、帝国人よ!!」
「……ッ!?」
「……来やがったか!!」
「……家畜人種どもがッ!!増長しやがって!!」
家畜人種と来たか、帝国人の性格も、いよいよ悪くなって来やがった。悪意を素直にさらすようになって来ている……建前を取り繕うことも、なくなりつつあるわけだ。
いいさ。
反りの合わんヤツと戦う方が、気楽なもんだよ。
「出て来やがれ!!」
「そうだ、さっさと、こっちに来い!!」
「……そうすれば、矢で射殺すだけだろう?……お前たちは、オレたち北天騎士に、腕っ節じゃ、敵にもなれないことを知っている。卑劣な罠で、誘うことしか、貴様らのような臆病者にしか、出来やしないんだ」
「わ、我らを愚弄するか!!」
「処罰対象だぞ、人間族を愚弄する言葉を使うことは!!」
「ククク!!……ならば、行動で示してみればどうだ?オレたちは、北天騎士の剣を持たないんだ。そんなこと、お前たちは百も承知のはず。もしも、自分たちが勇敢であることを示したいのならば、やって来たらどうだ?」
「……っ」
「……ッ」
「おいおい!!本物の勇者は、そこに一人もいないのか!!臆病なのは知っていたがな、これほどまでとは!!貴様ら、男としてお袋の腹から生まれて来たというのに、なんて情けないんだよ!!」
プライドを刺激してやろう。
敵サンにも、これで引っかかってくる勇敢な男がいるかもしれない。それならば、相手してやろう。
「……来ないのか?」
「……な、舐められっぱなしでは、示しがつかん!!オレが行く!!」
「……本気か……?北天騎士だぞ……?」
「餓死寸前のヨロついているような連中に、オレが負けるとでも言うのかよ!?」
大きな声だな。
魔力も多い。
いい戦士が、一人ぐらいいるらしい。感動したよ。敬意を表したい。だから、オレは真実も混ぜておく。勇者に嘘だけをつくことは、大きな恥であると知っているからだ。
近づいてくる勇者の足音に、オレは語りかける。
「……一つだけ忠告をしておく。オレも武器を持っている。北天騎士の剣ではないが、大きな剣だよ」
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