第五話 『狂気の賢者アプリズと失われた禁呪』 その34



『くそがああああああああああああああああああああああああッッッ!!!こおのおおおおお、羽トカゲがああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』


 何とも失礼な言葉を放ちながら、『不浄なる霊帝/レゲイオン』が上空にいるゼファーそ目掛けて『腕』を伸ば


 ゼファーは大忙しに空を翼で叩いて加速するが、『腕』が伸びていく。『腕』は骨の連結に過ぎない。幾らでも、骨を組み替えることによ延長することが可能らしいな。


 ゼファーを目掛けて伸びていくが―――『ドージェ』と『マージェ』がいるんだぜ?そう容易く、ウチの仔に手を出させると想うなよ!!


「リエルッ!!」


「うむ!!『大いなる風の王者よ。荒れ狂う翡翠の一刀となり、我が血族との盟約に応えよ』!!―――『エアル・フォルク・キャリバー』!!」


 エルフの王族の血に宿る叡智と魔力が煌めいて、リエルに古の魔術を使わせる。


 ゼファーを囲むように、翡翠に輝く『風』が集まっていく。それだけで、あの不気味な『腕』の軌道が歪められてしまう。


『な、なんだ、この、魔力はあああッッ!!?風が、風が、踊って狂ってるぞうううううッッッ!!?』


「私の『仔』に、手を出すなあああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 真なる王の血筋にあるリエル・ハーヴェルの怒りの歌が、魔術を完成させるのさ。


 天空に集まった翡翠の輝き。そいつが、爆発するかのように強い光を放ち―――次の瞬間には、ゼファーを追いかけていた『腕』の一つが斬り裂かれていた。


 ……いや。


 違った。リエルの古代魔術は『腕』を斬り裂いただけでなく、『不浄なる霊帝/レゲイオン』の丸っこくなった胴体をも一刀両断に斬り捨てていた。


 冷や汗が吹き出たぜ。知っていたけどさ、再認識を強いられている。オレのヨメ、ウルトラ強いッ!!オレの『ターゲッティング』の力も合わさっていたとはいえ、まさか、これだけの重量物を一発で斬り裂いてしまうとはな……。


『がぎゃがああああああああ!?……な、何の、これしきい!!』


 真っ二つに斬り裂かれて、ゆっくりと上下の断端がズレて行く『不浄なる霊帝/レゲイオン』だったが、無数の骨で作られていることがヤツの強みだったな。


 上下の断端から、それぞれに骨を突き出した。腕の骨、脚の骨、肋骨、背骨、頭骨。アゴを使って噛み合う頭骨までいるな。それぞれが絡み合い、崩壊を防いでいた。


「ぬぐう!?……『風』は、イマイチ利きが悪いかもしれんぞ!」


「え。ミア、攻撃魔術は『風』しかない……」


「大丈夫だ。ミアよ、我らには、射撃の腕もある!!」


「うん!!じゃあ、『虎』のみんなー!!一斉ぃ、射撃ッ!!」


「了解っす、特務……シスター殿おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


「うおらああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


「射殺せええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


「ぶっ壊せえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」


 射手の基本は、『お静かに』なはずだがね。『虎』の射手たちは『不浄なる霊帝/レゲイオン』を完全に包囲していた。だから、もう隠れるもクソもないということだ。


 『特務シスター』、ミア・マルー・ストラウスのかけ声に荒々しくも同調して、あらゆる方向から『不浄なる霊帝/レゲイオン』を目掛けて矢が放たれていた。


 あまりにも巨大過ぎる体。そして、増長し傲慢となった精神。強すぎるから、小さく静かに走る者たちを見落とすこともあるのかもしれん。


 無数の矢が、『不浄なる霊帝/レゲイオン』の体に突き刺さっていく。あれだけ大きな的では外しようがないな。その全てが命中していた。百や二百の数ではない。三百以上は飛んでいる。


 可能な限り、破壊力を持たせた螺旋の軌道。距離は出ないが、刺さってえぐる、威力のある撃ち方だったな。無数のしゃれこうべが射抜かれて、砕け散っていく。


『くくく!!だから、どうしたというのだあああああああああッッッ!!!私が、私が、私があああ!!この程度で、傷を負うとでも、思うなよおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』


 傷。


 ……その概念をコイツに応用するのは難しそうだな。通常の生き物ならば、リエルの魔術で即死しているよ。真っ二つにされたんだからな。


 それなのにピンピンしている。だが……砕かれた頭骨は、そのまま消し炭になるように消えて行く。呪術のおかげで、ヤツの一部となっている間は消滅を免れていないだけか。


 古い骨も多い。


 モルタルに封じ込められていくのだ。表面の骨は新しいが、それより奥に行くほどに、古くなるはずだな。あの爆炎で表面の新しい骨ほど焼き崩されていたはず。


 それに、スケルトンを作った。アレもおそらく比較的に新しい骨だったろう。呪術の哲学は知らないが、ヒトってのは手前にある素材から使うもんさ。奥の骨を取り出してスケルトンにするんじゃない。手前のをスケルトンにして、奥を掘らせていく。


 ……ならば、ヤツを構成する骨の多くが、古い骨と見ていい。爆破とスケルトンの構築で、新たな骨を消費している。


 コイツの骨は古い。


 元から、壊れている骨だ。


 それをアレだけの火力で炙った後で、冷たい強雨に晒されている。呪術から解き放たれたとき、その本性をあらわにし時、古くて壊れた骨は滅び去る。


 倒せるな。


 コイツは不死じゃない。ぶっ壊し続ければ、呪いを編む魔力切れを起こす。己の部品を再生するような力はない。片っ端から壊してしまえば、呪いも消え去るだろうさ……。


 ……ククク!


 ぶっ壊せば倒せるか。


 蛮族の低脳ぶりを晒すような言葉だから、口には出すまい!!


「さあ!!皆、もう一度、一斉射撃!!巨大なモンスターは、コツコツ叩くのが攻略法なんだから!!」


「イエス、特務シスター殿!!」


「ヤツらのたくさんある頭蓋骨を狙って、放てええええええええええええッッッ!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


「特務シスター殿に、勝利を捧げるんだあああああああああああああああッッッ!!!」


「デカいヤツを、ぶっ殺すぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 射撃チームは、特務シスター殿の号令に合わせて、再び一斉射撃を行う。ガンガシャと破壊的な音がして、『不浄なる霊帝/レゲイオン』の骨が飛び散っていく!!


『ムダだと、言っているだろうが、この虫けらどもがあああああああああああああああああああッッッ!!!』


 そうとも限らんさ。


 崩れているぞ?


 気づかないのか?


 オレたち猟兵は気づいているぞ。お前が、わずかながらに小さくなっていることをな。


 だが。


 ヤツはお怒りだ。射撃を浴びることも厭わずに、防御ではなく反撃を選んでくる。『腕』を伸ばして来やがるのさ。長い『腕』を、無数に伸ばす。


 それは、特定な者を狙った動きではなく、四方八方に爆発するように伸ばした攻撃だった。


 ランダムな軌道の攻撃であり、『虎』にも猟兵にも効果は薄い。ノーダメージとは言わない、逃げる時に避けきれずに手傷を負わされる者もいる。


 『腕』に技巧は宿っていなかった。


 ただただ速いだけであったが、それは大きくて速く、何より数が多かった。避ける隙間を見つけられなかった『虎』たちは、その脅威に晒されることとなる。


 しかしね。やられっぱなしで終わる程、『パンジャール猟兵団』の猟兵たちは甘くはないさ。


「でやああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


「はあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 槍の連続突きと、双刀の乱撃が。


 ロロカ・シャーネルの槍と、シアン・ヴァティの双刀が。


 伸びきり地面に突き刺さった『腕』に対し、破壊力にあふれて震える鋼の豪雨となって降り注ぐ!!


 骨で作られた柱みたいな巨大物体ではあるが、ロロカとシアンの強力な攻撃の前には一方的に崩れ去るだけだった。


 いいカウンターになっている。攻撃した『腕』を破壊してしまうんだからな。


 その攻撃が有効だと悟った『虎』たちも、双刀を抜き放つ。自分たち目掛けて降ってきた『腕』に対して、怯むことなく飛びかかっていく!!……無茶な攻撃ではあるが、有効ではある。


 この『腕』の中にもしゃれこうべが多く含まれている。それを壊すほどに、ヤツは限界へと追い込まれていくだろうさ。


『こしゃくなああああああああああああああああああああ!!!蹴散らしてくれるわあああああああああああッッッ!!!』


「ぬ!?いかんぞ、アイツ、脚を増やした!?」


 ……回転でもして『腕』を振り回すのかもしれん。バカみたいな攻撃だが、このサイズでそれをやると強烈だな―――『魔剣』の使い時か……?


 ……いいや。まだ、取っておけるようだな。


「はははははははッ!!このギンドウさんが、働きモンのトコロ、見せてやるっすよ!!駆け抜けろ、ジャンッッ!!」


『がるるるるるるるるるるううううううううううううううううううううううううううううううううううううううッッ!!』


 ジャンの『鞍』に乗っているギンドウが爆笑しながら突撃していく。巨大な脚を増やした『不浄なる霊帝/レゲイオン』に、ギンドウとジャンのコンビが迫る。


『なに!?』


「デカすぎて、予備動作がギンドウさんには見えてるっすよう?……テメーの構造からすると、この脚、壊されちまうと、動けなくなるんすわ!!」


『すごいです、ギンドウさん!!』


「おうよ!!隠れ働き者のギンドウさんを、見せてやるっすよう!!ぶっ壊せ、『三倍・ジゲルフィン』ッッッ!!!」


 ギンドウ・アーヴィングのオリジナル魔術。『雷槍ジゲルフィン』が放たれる。普段の三倍の魔力を込めて、三倍の威力を宿しているらしい―――真偽の方はともかく。


 その紫電に煌めく稲妻の威力は壮絶なものだ。ギンドウが壊せば動けなくなると予見した『脚』を含めて、五つほどの『脚』を『雷槍』が貫きながら破壊していた。


『ばかなああああああああああああああああああああああッッッ!!?』


 『不浄なる霊帝/レゲイオン』の巨体が、大きく傾き崩れて倒れた。大地が揺れる。ヤツの攻撃を封じたようだぜ、隠れ働き者のギンドウさんはよ。



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