第七話 『星の魔女アルテマと天空の都市』 その25
『金羽の鷲獅子/ロイヤル・グリフォン』はその先端に金の風切り羽を持つ大きな翼を広げて、悪霊の欠片が燃え落ちていく夜空を南西へと飛び去っていく……。
『曲がり角の死霊/ホーンド・レイス』どもは、まるで、その王者の従僕であるかのように、ヤツの雄大な飛行に随行して飛び去っていった。
「強打をぶちかまし、出鼻を挫く……どうやら、ハッタリが通じたらしいな」
「うむ。こちらの魔力の、ほとんどを注ぎ込んだ一撃だった。今、あの連中と空戦をするのはキツいところだった。魔術に頼れないからな」
「とはいえ、あの連中を削らないまま雪崩込まれたなら……より大きな被害になっていたところだよ。駆け引きの勝負としては、ドローか……いいや、オレたちの勝利だ」
敵を減らすことが出来たし、今夜は連中、引き上げてくれる。もちろん、日が昇れば『アルテマ』の護衛兵団の一翼として、あの『ロイヤル・グリフォン』と、悪霊の群れもやって来るだろうがな。
『ぐるるる……ッ』
ゼファーは、気が立っている。『ロイヤル・グリフォン』と戦いたくて仕方がないようだ。空の覇者は、誰なのか?……ゼファーだ。その事実を示したいのさ。
なだめるようにゼファーの首のつけ根を撫でてやる。
「……学べたこともある。収穫は少なくはないぞ」
『……う、うん!……あいつには、『かみなり』は、きかない……っ!』
「そうだ。そういう特別な魔物もいるのさ」
属性……そういうものの『象徴』のような立場にいるのが、あの『ロイヤル・グリフォン』なのだろう。
オレは、地上を確認する……敵は、もうほとんど残っていない。オットーの指示が、ククリからククル経由で伝えられたのだろう。ミアとオットーが戦場に飛び出して、数匹だけ残っていた悪霊を蹴散らしていく。
リエルの矢もそれを手助けして、掃討は一瞬で終わったよ。
「……クリアだぞ。『メルカ』に入り込んでいた敵は、全滅した」
「ああ。どうにか、死傷者ゼロで過ごせたようだな」
「うむ。良いことだ」
「だが。しばらくは、空を見張っておくぞ。あのグリフォンは賢そうだ。魔女の眷属とはいえ、無意味に突撃してくるほどの愚かさはないようだ」
「……だろうな。高貴なる存在とは、基本的に愚かではないものだ」
『……『まーじぇ』、あいつ、どういうやつなの……?』
『マージェ』が『ロイヤル・グリフォン』を褒めるような言葉を口にしたから、ゼファーは、ちょっと不機嫌になっているようだな。本当に、『空を飛んでいる敵』に対しては、必要以上の敵対心を抱く。
空の王者。
その称号は、絶対でなくてはガマン出来ないらしいな。
うちの弓姫サンは、そういう気高さを愛している。今、彼女は心の中で、お前のことを誇りに思っているはずだぞ、ゼファー。
「……『金羽の鷲獅子/ロイヤル・グリフォン』は、大型のグリフォンだ。鷲の上半身と獅子の下半身を併せ持つ。特徴的なのは、金色の風切り羽を持つことよ。翼の外側、風を撫でるための羽根が、金色なの」
『……ふーん』
「あの羽根で矢を作ると、驚くほど遠くに飛ぶ。狩りの名手であった、私のじいやは教えてくれた。数本だが……じいやの家にも残っていたな」
「……『雷』を切り裂いたぞ?アレは、つまり……」
「『炎』を宿らせているのだ。爪と、嘴にな。とても純度の高い『炎』をな。そのため、三大属性の法則に縛られてしまう」
「……『炎』は『風』に踊らされ、『風』は『雷』に切り裂かれ、『雷』は『炎』に歪んじまう……まさに、歪めていたな」
「うむ、ヒトの魔力ではありえないな。ゼファーの純粋な『雷』と、ヤツの純粋な『炎』だからこそ、ああなった。『絶対耐性』。そんな言葉が相応しいだろう」
『……『かみなり』は、もう、にどとつかわない!』
「いや。雑魚を葬り去ったんだ。時と場合に応じて使うべきだぜ?」
『う、うん。そうだけど……っ。あいつには、つかわない!』
「そうだな。『雷』は、『ロイヤル・グリフォン』には通じないわ。魔力をムダに消耗してしまう……他の対策を選びなさい、ゼファー」
『やく!!もやすよ!!』
「燃やすか。そうだな。手っ取り早くはありそうだ。『雷』への『絶対耐性』も、爪と嘴にしかないだろう」
「ええ。じいやもそう言っていた。それに、空を飛ぶ魔物は、『炎』で攻めるのがセオリーだとも。とくに、風を抱くための羽毛は、燃えやすい。有効な戦術のはずね」
『うん!!』
「……まあ、対応されたとしても……ゼファー。戦い方は、魔力だけじゃないぜ?」
『……っ!そうか……あいつの、つめも、くちばしも……かんけいない。ぼくのきばのほうが、ぜったいに、つよい!!』
ガギイイイイイイイイイイイイイイイインンンンッッッ!!!
ミスリルの鋼さえも噛み砕く、竜の牙を叩き合わせながら、ゼファーはその白銀の牙に報復の音を奏でさせていたよ。
そうだ。
魔力など、戦いのなかでは、ただの一要素にしかすぎない。
全てを使うのだ。
知略も、技巧も、魔力も……そして、時には、己の肉体そのものの、じつに原始的な要素さえもな。
「お前の祖父、アーレスも悪神の喉笛を噛み千切った。その牙に、殺せぬ敵など、この世には存在しない……それを忘れるな」
『うん!!』
ギギギギギギギイイイイイッッ!!と金属質な音で歯ぎしりしながら、ゼファーは『金羽の鷲獅子/ロイヤル・グリフォン』の飛び去った空を睨みつけていた。
『……つぎあったら、ぜったいに……しとめる……ッッ』
「……その意気だ」
「うむ。楽しみだが……今は、戻るとしようではないか?……『メルカ』の防衛は成功したのだから。あの連中も、戻って来そうな気配はない、ソルジェに悟られた時点で、奇襲をするタイミングも逸した」
『うん。『どーじぇ』、すごいね!』
「ガルフのおかげだよ。前団長の口癖が、聞こえたもんでね」
知恵や経験ってのは、スゴいものだな。見えないモノさえも、見抜いてしまう。上手く行きすぎる戦場など、存在しない……あるとすれば、『罠』の一部か。
「……とにかく、今は、明日に備えて、休息に入るべきだ。私たちは傷は負わなくて済んだが、体力も魔力も、かなり使ってしまったぞ」
「……そうだな。ゼファー、戻るぞ!!『ロイヤル・グリフォン』対策も、作戦に組み込まなくてはならない」
『うん!!』
「……アレに対応出来るのは、お前だけだ。おそらく、ヤツも、お前を狙ってくる。強さは、お前の方が上だ。竜とは、頂点。だが、ヤツはお前よりも明らかに長く生きている。駆け引きを覚えているぞ、気を抜くな」
『わかったよ、『どーじぇ』!!でも……たのしみ!!』
「くくく!そうだな。強い敵と、戦場で相まみえる……それこそが、戦士の歓喜を誘うものだ―――だが」
『だけど……?』
「ルクレツィアの前では、言わないようにな。不謹慎と言われてしまう。強敵は、多くを殺すこともある……彼女は、『メルカ』の皆を守りたいという気持ちが強いのだ。強敵を喜ぶのは、この場だけにしておけ」
『そうする!』
「……さてと。戻るか」
ゼファーは空のなかで翼と長い尻尾を踊らせて、『メルカ』へと向けて進路を取り直す。それからは風に乗りながら翼で空を叩き、すみやかな帰還の軌跡を星空へと残していたよ。
「お兄ちゃん!!」
「ソルジェさまっ!!」
ミアとカミラが手を振りながら、オレたちの帰還を出迎えてくれたよ。地上には、猟兵と『メルカ・コルン』たちが出て来ていた。『コルン』たちは敵の全滅を知り、次の行動を取り始めている。
『メルカ・クイン』であるルクレツィアが、指揮を執っていたな。
「さて。負傷者はいないのね!?なら、敵の痕跡を回収して!!粉々になっているでしょうけれど、スコップでも何でもいいから、拾い集めるのよ!!……分析し、魔力的な組成を調べるわよ!!弱点を発見出来れば、それを狙った『毒』を製作するわ!!」
さすがは今度の戦の総大将だな。
素晴らしい指揮能力と、リーダーシップだよ。率先して陣頭指揮ってのは、時間が無いときはありがたい。判断を質問出来る人物が、現場にいてくれるってのは効率がよくもあるよ。
まあ、何事もケース・バイ・ケースだが……ルクレツィアの頭脳と、『クイン』という特殊な立場は、おそらくこういう戦況に適しているはずだ。『クイン』は戦闘のための指揮官として、『アルテマ』に設計された存在でもあるのだからな。
『メルカ・コルン』たちは、素早く『ホーンド・レイス』の残した灰を回収している。ルクレツィアに分析されたなら、ヤツらの弱点もすぐに見つかるだろうさ。
ゼファーが、あちこち破壊された三つの施設の中央に降り立つ。
仲間たちが集まって来るよ、猟兵たちに、双子の『コルン』、ゾーイとガントリーもね。それに……コーレット・カーデナも『集会場』から飛び出して来たよ。
「ストラウスさああああああああああああああああああああんんんんんッッッ!!!」
「どうした?」
「ロビンのバカでも死んじまったのか?」
あいかわらず、ドワーフの毒舌は切れ味がある。
「コナーズ先生は、ちゃんと生きてますよう!!」
「なんだ、怖かったか?」
「そ、そりゃあ乙女としては、モンスターが壁をガジガジゴリゴリやってる音が聞こえていたりする環境にいたら、こ、怖いに決まっていますけど……そ、それだけじゃなくてですね!?」
「なんだ?」
「あ、あの!!例の薬、完成しましたよ!!つまり、『対アルテマ薬』が!!」
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