第一話 『イラーヴァの森の魔獣たち』 その17


 ―――14頭の巨大なる魔象たちを、猟兵たちは狩っていく!ゼファーの翼は速さを増したよ!!


 ゼファーには一度避け方を覚えた攻撃は効かないからね、岩石の雨を避けてみせる。


 リエルはゼファーの背中から、無慈悲な矢を撃ちまくるのさ。


 空のコンビは王者の威風、高速の翼の軌跡は曇天の戦場を、漆黒の閃きで切り裂いた。




 ―――シアンも『虎姫』の名の通り、激しく勇猛に戦っている。


 暴れ回る魔象のステップの中にさえ飛び込んでいき、刀で脚を切りつけた!!


 隙を見つければ?彼女はすぐに魔象の背中へ、登っていくのさ。


 牙を伝うだけではない、魔象の後ろ脚を無理やりにも這い上がる!!




 ―――野性を放つそのしなやかな肉体は、よどむことなく魔象への狩猟を実行する!!


 まさに、『虎』であった、恐怖を感じることもなく、暴れる魔象の脚に登るなんて!!


 殺戮の衝動は、その狂暴なる琥珀の両目に煌めいている。


 彼女は獲物の背中を奪うんだ、そして、その赤熱に輝く双刀の牙が、獲物を刻む!!




 ―――ミアも負けてはいなかった、密かに目標としているシアンを真似ていく。


 魔象の背に乗り、その皮を切り、爆弾を仕掛けては次に向かう。


 だが、それだけでは、ストラウスの名が泣くというものさ!!


 ミア・マルー・ストラウスは、ソルジェと血の繋がりこそないが、彼の本当の『妹』だよ。




 ―――猟兵女子のプライドが、『マネ』だけでは耐えられない!


 仲間のスタイルのマネをするなんて、女子の本能としてもイヤでしょう?


 この『ラミア』には分かります、ミアちゃんは、オリジナルの技巧で殺したいのです!!


 『私だけの技』で、名誉を獲るために飛びました!!




 ―――猟兵ミアは殺しのプロさ、脊髄断裂、肺腑焼却、動脈破壊……。


 それ以外でも、殺せるんだ!!


 目ざとい瞳は悟っているのさ、戦いの時間が進むにつれて、魔象の体温が上がっている。


 異常なほどの高温さ、それはそうだ、このモンスターは巨大すぎるからね。




 ―――呼吸が荒れているよ、そして、それゆえに『口』が大きく開いている。


 酸素を求めて、開いている……ならば?ミアの唇が、殺意に歪む。


 そんなに風を食べたいのなら、たくさんの死の風をプレゼント!


 全身に風をまとわせて、ミアは魔象の背を駆け抜けた!!




 ―――『フェアリー・ムーブ』が向かったのは、その魔象の曲がった巨大な牙の上。


 魔象は己の視界に飛び込んできた、小さな死神に脅威を抱く。


 頭を振り、その小さな脅威を投げ飛ばそうとするが……その運動は長くは続かない。


 体が疲れすぎているんだよね?だから、すぐに止まるし……息切れし、口を開くよね?




 ―――ミアの読みが的中する……首のスイングは長続きせずに、魔象は動きを止める。


 口が開く、酸素を求めて、その巨大な口が開き―――ミアは『風』を呼ぶのさ。


 ミアが牙を足蹴にして空中に舞う、右手に『風』を圧縮させた『空気の爆弾』。


 左手には『火薬式の爆弾』だよ、宙にいる彼女は、それらを魔象の口に投げ込んだ。




 ―――魔術と火薬の爆弾が、同時に炸裂していくのさ。


 鉄の破片がノドを内側から裂き、魔象は苦しみのあまりに体ごと首を反らす。


 反対側の牙に取りついたミアは、勝利を確信しながら……更なるチャンスに躍動する。


 おじいちゃんとお兄ちゃんに習わなかったの?小さく素早い敵に、首を見せるなって?




 ―――ミアが体術と魔術を融合させるのさ、その巨大な牙の上で側転しながら?


 『風』をまとわせた脚を、風車のように回すのさ!!


 『風』に愛されたケットシー族、そのミアの『フェアリー・ムーブ』とは?


 高密度の『風』の魔力さ、足音を消し去り、神速を与え―――。




 ―――時には、『風の斬撃』をその舞踏から繰り出すことさえ可能とするのさ!!


 ミアの脚が、『風の斬撃』を放っていたよ、音速を超える、真空の刃だ!!


 土から摂った金属で形成された鋼の皮膚も、全ての場所は覆っていない。


 魔象ののど元もそうだった、あるのはゴムのような皮と脂肪ばかり。




 ―――残酷な死の風が、慈悲も容赦も含まれることなく、ただただ威力を刻むのさ。


 四百年生きた大樹のように太い『ギラア・バトゥ』の首さえも、死の風は深く裂いた!


 皮と肉が切り裂かれ……内側からの爆破の傷とも繋がっていた。


 致命的な破壊となって、『ギラア・バトゥ』の首からは大量の血潮が噴き上がる!!




 ―――魔象の首切りさ、妖精ならではの軽業と、猟兵ゆえの殺戮技巧。


 未来で『最速の竜騎士』の称号を得る彼女は、この日も殺戮の風と共に空で踊った。


 ああ、死を確信した巨獣は、まるで空へと逃げたいかのように後ろ足で立ち上がる!!


 まるで、塔のような高さであった、後ろ脚で立ち上がった魔象の巨体は!!




 ―――ミアは死に行く巨獣を、やさしい瞳で見つめている。


 殺したモノへの憎しみを、抱くことはないのがストラウスさ。


 巨獣の古い瞳は、ミアを見つめながら―――魂を血潮といっしょに体から解き放つ。


 ゆっくりと……大地に、それは倒れていった……ミアは勝利を歌うのさ!!




 ―――ソルジェとカミラも、『カウントレス・バイト』作戦で魔象を喰らっていく。


 ソルジェはカミラへ特訓させてもいるのさ、血管を狙うことの価値を教え込む。


 カミラは2年前まで普通の女の子だったから、戦いへの覚悟は猟兵の水準じゃない。


 最強の才能を受け継ごうとも、彼女はまだまだルーキーさ。




 ―――だから、ソルジェは彼女と融け合いながら、殺していく。


 カミラは吸血鬼だから、ソルジェとの血にまみれた共同作業に徐々に快楽を感じていく。


 殺すことへの快楽と、ソルジェと融け合うことの愛が由来の快楽が混じっていく。


 背徳的な感情に、その身を震わしながらも、カミラは戦士としての階段を登るのさ。




 ―――魔象どもの数は減らされていき、僕らの群の『強さ』は証明されていく。


 岩山のような巨獣であろうとも?とくに、このメンバーの『速さ』の前には敵わない!


 『パンジャール猟兵団』は、大陸最強さ!!


 勝利と殲滅は確定し、もはやこの狩りの待つ価値は……名誉の行方のみであった。




 ―――好戦的ではないカミラ以外は、望んでいるよ?


 今日、『最強』だったのは……自分でありたいと。


 その強さへの欲求こそが、猟兵たちの誇りであり、強さへの動機でもある。


 『最強』、その名誉を求めて、獣よりも激しい猟兵たちが、殺意を燃やしたッ!!




「ゼファー!!貴方の『力』を、示しなさいッッ!!」


『わかったよ!!『まーじぇ』えええッッ!!』


 ああ、上空でリエルが命じていた。ゼファーは戦闘本能を爆発させながら、その巨大な『ギラア・バトゥ』に正面から飛びかかっていくぜ!!


 リエルめ、すっかりと女竜騎士じゃないか……。


 しかし、いいカードだぜ。ゼファーと『ギラア・バトゥ』が衝突するぞッ!!こいつは、見物だなッ!!


『GAAHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHッッ!!』


『BAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHッッ!!』


 巨獣たちの歌と誇りがぶつかり合いながら、ゼファーの左右の脚爪と、曲刀のように反り返った巨象の『牙』が衝突するのさッ!!


 ガギギギギギギギググググググギギギギギギギギギギイイイイイッッ!!


 ……『牙』と『爪』が、力に溢れた音を立てていく。


 クソ、羨ましい。リエルめ、最高のポジションで、あの決闘を見ている……いい顔してるよ、うちの弓姫エルフさんってば?……まったく、どこまでも楽しいことをしてやがるぜッ!!


 リエル・ハーヴェルが、食事と発声とオレを楽しめるために存在している、あの小さな唇に、猟兵のための笑みを浮かべた。


 そうさ、こんな楽しい時間には?戦いをどこまでも楽しめる、そんなオレたちの獣じみた本能を隠すことはない。


 歌えよ、リエル。それが竜の背にいる猟兵の義務だろう?


「ゼファーぁああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 リエルの歌を力に変えたのか、ゼファーが羽ばたきながら身を捻ることで、その力比べに剛力を与えていた。


 狂ったように激しく羽ばたきながら、両脚の筋肉が爆発しそうな勢いで膨らんで、とにかく荒々しい力を暴れさせるのさ!!


 オレは見たぞ。


 あの『ギラア・バトゥ』の巨大で曲がった大牙が、破滅の音を立てた瞬間を。亀裂が入っているぜ、右の大牙だよ。左の牙よりデカいのに?―――いいや、おかしなことじゃないさ。


 より大きいと言うことは、より古いということでもある。


 耐久性において、右の牙は左に劣っている可能性もあるわけだ。


 そこに、オレのゼファーも気がついている。折るべき牙を、選んだぞ。荒々しさの中に、技巧が宿る瞬間、それを感じ取ったオレの背筋はゾワリと感動の電流を走らせた。


 いいぜ、ゼファー!!


 へし折ってやれッッ!!


『GAAHHHHOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHッッ!!』


 ゼファーの闘志が歌へと化けた。翼が空を掴んで、叩く!!長い首を振り回し、尻尾が空を切り裂くように走り抜ける!!爪が、『牙』を、圧倒するぞッ!!


 バギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンッッ!!


 『牙』がへし折られて、『ギラア・バトゥ』がその身を大きく傾ける。力で負けるという意味は、致命的なまでに深刻さ。生命は他者に圧倒されてしまったとき、心を挫かれてしまうのだ。


 殺されることを悟らされる。


 それは、ヒトであろうがモンスターであろうが、同じことだよ。


 ああ、ゼファー、殺してやれ。


 牙が折られた時、その獣の誇りも折れてしまった。


 それだけじゃない、ヤツの牙の破壊は、ヤツの牙を生やしていた頭蓋骨にもその衝撃が伝わっている。頭蓋骨に亀裂が入っているぞ?重傷だよ、ゆっくりと死に至る崩壊を、そいつは身に抱えたのさ。


 ならば?


 戦士としての慈悲をくれてやれ。


 ゼファーの爪が『ギラア・バトゥ』の頭蓋骨に飛びついた。そして、『牙』を折った瞬間と同じか……いや、それ以上の力で爪に力を込めていく。ゴゴゴゴオと骨が軋みながら亀裂を広げていく音が曇天の風に混じる。遠雷みたいな音楽さ。


 慈悲深きゼファーは羽ばたきながら爪に力を与えたよ、『ギラア・バトゥ』の頭蓋骨が、大きく粉砕されていく―――そのまま、『ギラア・バトゥ』は悲鳴を上げることもなく、その場にゆっくりと身を横たわらせていった……。


「あはは!よくやったわよ、ゼファー!!」


『うん!!『まーじぇ』、みてた!?ぼくの、かちだよ!!』


 リエルとゼファーってば、楽しそう。


 ああ……なんか。羨ましい。ちょっとさみしい。オレが、竜騎士なんだけどな!?


「ソルジェ団長!!デカいのが、こっちに来るっす!!」


 オレ、拗ねそうになっていたけど―――カミラの声で、前方からの『ギラア・バトゥ』へと意識を集中させられる。おお、本当だ。デカい!!この日、一番の大物が、残っていたのだなッ!!


 そうだ。


 竜が力を見せつけたなら?


 竜騎士さんだって、そうするべきだろうがよ!?


 ストラウスさん家の連中は、オレも含めて全員、負けず嫌いなんだよッ!!


「……カミラ、下がってろ。大勢は決した、君は緊急事態に備えて待機。アレは、オレに任せてくれ」


「ソルジェさま?」


「連携はナシだ!!あの、一番デカいヤツは、オレだけでぶっ殺すッッ!!」


「りょ、了解です!!……男心っすね!?」


「おうよ!!そんなカンジだッ!!『パンジャール猟兵団』の『団長』として、負けてられるか!!おい、そこの、『ギラア・バトゥ』ッ!!勝負だッッ!!」


 アーレスの竜太刀を抜くぜ。この露骨なまでの敵意を浴びて、その一際巨大な古き『ギラア・バトゥ』も、オレとの戦いを望む。


 古強者の瞳が、オレを見下ろし、睨みつけているのが分かる。ヤツがオレだけを目掛けて歩き始めてくれたのさ!!歓迎するために、オレは竜太刀を掲げる!!戦場の伝統として、貴様に名乗りを聞かせてやるぞ!!


「我が名は、ソルジェ・ストラウス!!『パンジャール猟兵団』の『団長/最強』だよッ!!かかって来いやああああああああああああああッッ!!」


『BAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHッッ!!』


 『ギラア・バトゥ』の行進が加速する。オレの殺気を評価してくれたらしい。ああ、デカいね?この群の中で一番デカい。だからこそ、オレと正面から戦う相手に相応しいというものだ。


 魔眼の力を解放し、アーレスから譲り受けた劫火を竜太刀に宿らせていく。そうさ。オレの持つ『最強の一撃』……『バースト・ザッパー』だよ。力比べをするには、コイツしかないだろう?


 新しい竜太刀になってから―――火力の抑制装置に使っていた『氷の魔石』を、シャナン王に外してもらってから……全力で撃つのは初めてだ。火力が上がりまくっているはずだ。コントロールが、かつてよりも難しいのは百も承知。


 だからこそ。


 実戦でやるのさ。これは極限まで集中力を高めて、命懸けで覚えてこそ価値のある力。練習ごときで?手ぬるく手加減した威力で覚える?……下らん、腕を鈍らせちまうぜ。


 こいつは、命懸けで磨くべき必殺の刃だぞ―――なあ、アーレス?


 竜太刀の刃に、逆巻く劫火が発生する。オレの問いかけに古竜が応えたのさ。


 ああ、もうこの時点で顔が燃え出しそうなぐらい熱いぜ。目玉の水分が蒸発しちまいそうだ。一瞬でも気を抜けば?オレが焼き殺されるだろうな。いいぜ。竜の炎とは、こうでなくてはな!!


『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNッッ!!』


 くくく、大きく首を振り上げてやがるぜ?……なるほどね、あの『牙』の一撃かよ。しかし、そいつはシアンが破るのを見たな。


 牙を大地にぶつけるのが癖だね。そうやって、土砂をも弾き、敵へと浴びせてくるのだろう?だから?牙が大地にぶつかった瞬間に起きる、『減速』。それに向かってシアンは飛び移った。


 身軽さゆえの動き?


 いいや、オレにも出来るね。グラーセスで覚えた『雷抜き』がある。あの牙に疾風迅雷の神速で飛びつくことは、まあ、難しくはない。


 だが、それはシアンの技だ。彼女の戦いの物語が築いた、彼女のオリジナル。


 模倣することでは、シアンよ……君を満足させる『長』とは言えないだろう?


 オレは、オレの生き様で、コイツを破らせてもらうよ。


 さあ。


 この群れの『長』よ、始めようぜ?


『BAAAHHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHッッ!!』


 巨大な牙が殺意の歌と共に、オレ目掛けて肉薄する。かつて、その牙でどれだけ大地を削り、この原初の森林にいる闘争本能に狂った巨獣どもを屠ってきたのか?百年ぐらいは生きているのかな?


 君らの物語で、知っていることは少ないが、そのフォームから繰り出される『牙』の一撃が、君らの誇りであり、強さの証明の技だということは理解している。その威力が、君らの序列を決めたのではないか?


 シンプルであり、それゆえに『最強』。相応しい技だ。お互いの『最強』をぶつけ合うことで君らは強さを証明して、群れから栄誉と交尾権を手に入れたのか?


 くくく、だとしたら、オレとどこか似ているのかな?まあ、オレの恋愛は、愛情に裏打ちされてはいるが……強くなければ、生き抜くことも出来ぬ道に在るからな。トータルすれば、同じようなもんだろ?


 さて。


 ―――君の力を、超えさせてもらうぞッ!!かつてのオレ自身の限界、それを突破することでなッ!!


 オレさまの覚悟と決意を喰らって、竜太刀に逆巻くアーレスの劫火が勢いを増していく!!まったく、指が弾け飛びそうなほどの波動を感じるよッ!!髪が燃えそうだ!!だからこそ、笑えるッッ!!


「魔剣ッ!!『バースト・ザッパー』ぁあああああああああああああああああッッ!!」


 迫り来る大牙に向けて、オレは怒りに狂うアーレスの劫火を、斬撃に宿してぶっ放すのさ!!獣の貌で牙を開いて、オレの全てをこの一撃に捧げてやるぜッ!!


 狙ったのは、いつもみたいに大地じゃない!!


 フルスイングで迫り来る、風車みたいに大きなその大牙さ!!直接、ぶつけてやるよ!!


 ガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!


 力と、力が衝突する!!劫火が爆裂し、爆音を轟かせ、灼熱の風を解き放つッ!!くくく、やはり……今まで以上の、大火力だッ!!全身が焼けるように熱いッ!!


 だからこそ―――御する甲斐があるというものだッ!!


「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」


 歌えッ!!殺意と、力を心からあふれさせるためにッ!!アーレスよ、オレの力を見ろ!!オレの力を信じろ!!オレに全力を寄越せッ!!


 もっとだ!!


 もっと、火力を上げやがれえええッッッ!!!


 牙と競り合う劫火の螺旋が、閃光を放ちながら暴走する!!


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!


 大地が灼熱に沸騰を強いられて、泡立ちながら爆ぜていく!!余波だけで、それだった。ヤツの大牙が微塵に砕かれて、オレとアーレスは『強さ』を証明する。


 そうだ、かつての技量では、かつての竜太刀の鋼では……この『故意の暴発』の威力に耐えられなかった。


 オレも爆死し、竜太刀も砕けていただろう。


 だが……力は、至った。


 オレの体は破壊の熱量にも耐えて、技巧は超音速の衝撃波が与える反動さえも制御した。そして、アーレスの刀身は欠けることさえなく、破壊の全てを受け止めてみせるのだ。オレたちの強さが、真なる『バースト・ザッパー』の威力を受容したのさ。


『―――ガア、あああ………………っ』


 世界を灼熱の爆風が駆け抜けて―――大牙を砕かれた、『ギラア・バトゥ』たちの『長』。彼の頭蓋骨にも、あの亀裂が走っていたのさ。そして、彼は意識に虚無を混濁させながら、大地へと沈んで行く。


 さて、戦士の義務さ。死に往く勇者よ。せめて、安らかに眠れ。


「……じゃあな」


 別れの言葉を告げながら、竜太刀を振り抜いていた。『生きた鋼』は魔力を呑んで、黒き刃へと変わる?いいや……この時は、さらに研いだ鋭さを帯びる。『一瞬の赤熱/ピンポイント・シャープネス』さ。


 黒の剛刃が刹那の赤に染まり……大地に倒れ込む寸前に、『ギラア・バトゥ』の『長』の太い首が切断される。瞬間の断頭だよ、苦しみも痛みも、最小限だったはずだぜ?


 ああ、鉄臭い赤い雨だ。


 『長』の首から爆ぜた血の雨さ。


 戦場が静かになる。他の『ギラア・バトゥ』たちも、オレたち『パンジャール猟兵団』に狩り尽くされた。


 『イラーヴァの森』の開けた地面は、巨獣たちの命を動かしてきた赤へと染まり、曇天の空からはオレたちの返り血を洗い落とせそうなほどのスコールが降り始める。


 うむ。悪くないぞ、この雨が、激しくとも構わない。


 これは、戦いの熱を冷ましてくれる、安らぎを宿す、いい雨だから。


 ……きっと、この森の王者であった『ギラア・バトゥ』たちにとっても、この雨音は癒やしの歌となるのではないだろうか?戦いのために帯びた熱は、魂と共に消え去るのさ。この雨に打たれて、全ては冷めていく。


 熱狂は消えて、残るのは、オレたち勝者と、いつものように静かな『イラーヴァの森』だけさ。オレは鎮魂のために微笑むよ。勝利を喜びつつも、敗者への悼みを込めた口元で、舌に浴びる雨の味を知りながら。


「……いい雨だ」


 相応しいと思う言葉を、空と戦場に残すのさ。


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