第八話 『不屈の誇りを戦槌に込めて、戦場の鬼となれ』 その12
「歌ええええええええええええええッッ!!ゼファーぁああああああああああッッ!!」
『GAAHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHッッ!!』
オレはゼファーに命じて炎のブレスを、第六師団の兵士たちに浴びせかける!!灼熱の歌にヒトは無力だ、焼き尽くされていきながら、彼らは無様に大地へと倒れる。
「黒竜の炎で、敵の群れに穴が開いたぞおおおおッ!!サー・ストラウスと共に、進めえええええええええええッッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
シャナン王の命令が発せられ、ドワーフの戦友たちはその短い足で、風のように走って行く!!まだ竜の残り火が揺らぐ大地の上を、オレたちは並んで走るのさ!!
熱いかって?
死ぬほど熱いが、オレたちの戦闘意欲の方が、もっと灼熱を帯びている!!だから、笑え!!笑いながら、目の前の敵に、暴力を振るうんだ、我が戦友たちよッッ!!
「うおおおおおおおお!!死にさらせええええええッッ!!」
アーレスよ、今日もひとつになって、踊ろうじゃないか?オレと竜太刀の重心が重なって、鎧から解放されたその身は、自由なる剣舞へと至る。そうだ、見ろよ、ドワーフの戦友どもよ!!
これが、オレの剣ッッ!!
これが、ストラウスの嵐だッッ!!
新たな鋭さを宿した竜太刀の『生きた鋼』が、魔力に染まり、漆黒を帯びていた。『魔王』の黒い嵐が狂い、ファリスの豚どもを鎧の鉄ごと切り裂いていくのさ!!
血潮が壊れた生命から噴射していく、悲鳴を耳が聞く、牙を剥いて、戦場の鉄分を帯びた風の味を舐めるのさッ!!
大地は敵と味方の血に呪われて、悲劇的な湿度にぬかるんでいた。だが、『魔王』の『行進』には、この赤い道は相応しいものではないか?
鉄靴の牙みたいスパイクが生えた靴底で大地に噛みつきながら。オレはただひたすら、敵の深奥を目指すのさ―――待っていやがれ、アインウルフよッ!!お前の血を、この刃に吸わせろッッ!!
「うああああああああああああああああッ!?ま、『魔王』だああああああッ!?」
「と、とめろおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「……いいや、君らごときじゃ、ムリだよ」
怯えと防衛本能の混じった色彩を心が放っていたぞ。
だが、君らは運がいい。オレの刃は……いいや、アーレスの刃は慈悲にも等しい鋭さを帯びている。どうだ、剣を打ち払われた音は美しいだろう?これが至高の鋼の放つ音だよ。レクイエムには相応しい音色ではないか!!
返す刀は慈悲を描き、その男の首を深く裂いた。鋭利な傷口から、命は壊れていく。心臓の拍動と律儀に同調して、鮮血の赤が彼から解き放たれてしまうんだ。
ああ、さようなら。
十秒前に出会った男よ。オレは、忙しいから、君のとなりにいた槍を持つ男を襲うぞ。彼はオレに槍を振り下ろしてくる。『恐怖』よりも生存欲求が力を与えたか?その槍の勢いはかなりのものだ。
君はなかなかにいい腕をしている。この地獄の決戦まで、生き延びてこれたのは幼い頃から師について研磨してきた、この槍術のおかげかい?
でも。オレは槍術も収めているし……なによりも、君の数倍の腕をもつ槍使いの女性を妻としている男だ。ああ、我が第二夫人のロロカ・シャーネルよ、よくぞ来てくれた。ユニコーンの魔力を、魔眼に感じるぞ!
君の天才的な槍術を思い出してしまえば―――この男のそれは児戯にも等しい。主治医のマリー・マロウズに怒られるかもしれないけど、この槍を左手で掴んで受け止める。
「な、なにッ!?私の槍を、て、手で掴んで、と、止めたああああ!?」
「……すまんね。君の腕が悪いわけではないぞ。ただ、相手が悪かったのさ」
槍の柄の鋼を握力で曲げながら、オレは驚愕の表情を死に顔に選んだ彼に、死を刻むんだ。横に走らせた竜太刀が、彼の筋肉質な首を横一線に斬り裂いていた。
なあに、すぐに死ねるさ。もう怖い戦場からはサヨナラだぞ。
君の友だちの剣士も待っている。一緒に、地獄でも天国でも、好きな方へ行くといい。オレにはもう、君たちみたいな肉の塊には、まったく興味を持てないんだ。だから、好きなところへと旅立て。
槍を放して、その武器を握りしめたまま死にかけている男に自由を与えた。彼は、そのまま右向きに倒れていきながら絶命するんじゃないかな。
くわしくは知らんよ。
だって、もう、次の獲物に向かって走っていたから―――ああ、素晴らしいな。戦場の密度が濃くなっていくぞ。
さすがはオレのロロカ先生だ。今この戦場に到着したばかりなのに、状況をよく理解してくれているじゃないか?……『ガロリスの鷹』たちとは出逢えたのかな?だとすれば、彼らは君に守られたんだな。
惚れてもいいが、ゲリラどもよ、指一本触れることは許さない。あと、ディアロスの文化は、基本的に触れない方がいいぜ?……その罰は、君の命で支払うことになる。まあ彼女の強さを目の当たりにすれば、悪さをする気も失せるだろうがな。
さて。
『南』のほうも調子が良いな?……ジャスカ姫の『雷』と歌を感じるぞ。ああ、ロジン・ガードナーに真のベヒーモスたちもな。あの重量級たちに襲われたなら、騎馬隊も縮こまってしまうだろうよ。
いい状況だ、『北』からのユニコーン部隊に、おそらく第六師団の兵士は動揺しているはずだ。あれは正確にはロロカとオレのプライベートな部隊だ。第二夫人であるロロカのための部隊だから、オレのモノでもあるんだよ?
オレが傲慢に求めたわけではなく、彼女がそうしてくれたのさ。ロロカはオレの目的を知っているからね。ファリス帝国を打倒して、皇帝ユアンダートを殺す。
そして……ガルーナを再建するぞ。
―――君は、いつかオレがそう言い出すことを知っていてくれたのかな?とても賢いからね、オレのロロカ・シャーネルは。
さあて、『北』と『南』から、強力なプレッシャーと破壊力が襲いかかっているぜ?この圧力の前に、第六師団の新兵たちは怯えて混乱するだろう。そして、戦況を理解しているベテラン兵士やらは、もっと大きな『恐怖』を背負ったはずさ。
『北』から、騎馬隊が増援を引き連れて戻って来たんだぞ?
経験のある兵士や士官たちは、その意味をこう解釈するはずだ―――『ルード王国軍が、接近してきている』。だから、『ガロリスの鷹』はニセモノのルード軍旗を掲げて、『北』へと逃げたのさ。
おそらくアインウルフは、それがニセモノだとしか認識出来なかったのかもね。それは正しいことだが、兵士たちは違う。ベテランたちは予感したはずさ、『南下してきたルード王国軍』の存在をね……。
そして、現実、増援を加えて帰還したかのように、『ガロリスの鷹/偽ルード王国軍』は王国軍旗を振り回しているね。兵士たちは、ルード王国軍の存在に怯えるぞ、間違いなくな。
三方向からの強烈な攻撃だけでなく、大軍の予感にも君らは怯えているということさ。ほうら、身を寄せ合うように密集してきたぞ?……これは、本能的な行動だ。兵士どもが怯えているのさ。仲間を頼り、密集する。
―――このままでは、君らの最強戦術である、『軽装騎馬隊による突撃』。それを味わうことも出来ないのではないだろうか……?『壁』役の歩兵たちが、『避ける場所がない』ぞ。
それだと、君たちの一番つよい戦い方を見ることが出来ない……そいつはつまらないことではあるのだが、そうだとすれば、こちらの兵の消耗も少なくなるというものだよ。オレは、それでも構わんぞ。
将の器の見せ所ではあるぜ、マルケス・アインウルフよ?
お前は、この粘っこくまとわりついてくる不自由なプレッシャーと、どう向き合うんだよ?
南西には抜けられるが、それで馬の脚を使ってしまっては、それからどうすることも出来ないだろう?そちらに『逃げれば』、ユニコーンとの絶望的なレースが始まるぞ?うちのロロカに追い回されながら、溶けるように食い尽くされる。
ディアロスとユニコーンは、最強の騎兵。それらはお互いの内戦の歴史の果てに、対・騎馬戦闘を知り尽くしているという意味だ。
その圧倒的な能力と、深い歴史の前に、アインウルフ、お前だけの努力では埋めようのない実力差があるぞ……奇跡の馬が一頭いたところで、ユニコーンの群れには敵わんのだ。
さて、アインウルフよ。自分の手塩にかけて騎馬隊よりも優れたユニコーンの存在を見せつけられて、どう判断する?突撃を仕掛けても後ろから喰われかねんが?……ああ、もちろん、姫が率いる『聖隷蟲』とベヒーモスの群れも破壊力は抜群だということも忘れるな。
オレは気づいている。さっきから、弓兵の矢がこちらにほとんど飛んで来ない。ユニコーンとベヒーモスらに意識が分散し、矢の弾幕が薄らいでしまっているぞ?
君らの軍勢の上下からザクリと突き刺さった、勝利の女神たちの『牙』。それらにばかり、目を取られているから―――もう、このオレに、歩兵たちの『壁』を貫かれてしまうのだぞ!!くくく!やはり、オレがここを突破する最初のひとりだったな!!
左手から『炎』を放ち、数名の兵士を爆破しながら、オレは兵士の密度の緩い場所に出た。
この空白は混乱の証だ。西と南北、三方向に兵士が向いているからな。適切な隊列が破綻し、このような無意味に兵士の少ない虚ろな空き地を作ったのさ。ここにあるのは死体がもっぱら、わずかな兵士しかいないさ。
「あ、あいつを、と、とめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
赤い服の士官を見つける。新兵の影に隠れて、オレを殺せと命令しているな。ふむ。臆病者が。軍人としての教育を受けた男だろう、君は?
士官学校のお勉強と授業料で買っただけの身分だな。その勇気の程では、戦場の功績だけでは、その身分に至ることは不可能だろう……しかし、君は士官だ、ガルーナ流では騎士の類いだよ。そのような態度に、オレは怒りを覚えるぞ。
「ど、どうした!?い、行け!!こ、殺すんだあ!!」
しかし、その命令はこの空虚な場所で、ただ剣戟と怒号に染まった風に流されるのみだった。
新兵たちは彼の言葉を聞いても、体が震えて動けないようだ。返り血まみれで、全身がストラウスの赤毛と同じ色に染まっているオレが、どうにも怖いのだろう。剣が揺れているぞ。それでは、ハムだって上手に切れないだろうさ。
ああ、いいんだぜ。臆病者どもに生き残るチャンスをやろう。青ざめた君たちはオレに向かう勇気を抱けない―――奪うに値する命でさえないのだ。だから、この職業軍人から若い君たちを解き放ってやろう。
「ひい!?く、くるなあああああああああああああああああああああッッ!!」
赤い服の士官は叫ぶ。追い詰められて、ようやくサーベルを振り上げるが、オレは『雷抜き』をまた試す。間合いを瞬時に飛び抜けて―――竜太刀で彼を貫く。心臓の下三分の一を裂いてるね。横隔膜も切れてる。もちろん、死ぬよ、解剖学的損傷など、説明しなくても明白だな。
さて、時間は割けないからな、指に覚える殺しの余韻にひたる間もなく、乱暴に刃を抜いた。
士官が倒れて、戦場の風景へと化した。赤い土に、沈むように静かで……その命は終わる。
オレは、すっかりと怯え切り戦意を喪失している若い兵士たちに語るのさ。そう、どちらも若い、16かそこらか?……しかも童顔のね。彼らが、この戦を生き抜いてきたことは奇跡?……いいや、周りの兵士らが彼らを守っただけだろう。
そういう善行を享受しなければ、このようなひ弱で臆病なヒナ鳥たちが、今度の地獄を生き延びられたとは思えない。そういうことを分かってしまう年齢になってしまったことが、少し面倒だ。だが、機会だけは与えてやるとしよう。
「……死にたくなければ、武器を捨てて地に伏せていろ―――捕虜としてなら生きられる。選ぶといい。このまま楽に死ぬか、それとも苦しみながらも生きるか」
「し、しにだぐない!!お、おふくろおおお……っ」
「か、かあちゃあああああんん……っ!!」
兵士たちが武器を捨てていた。母のことを呼びながら。そして、そのままゆっくりと大地に伏せた。そうだ、それも悪くない。地に伏せた無害な命までは、奪うような男はこの戦場にはいまい。
「殺されそうになっても、武器には指をかけるな。そうすれば、必ず殺される」
アドバイスを残して、オレは周囲を見回した。動きがない。敵兵どもはただ、オレたちの策に食い破られていくままだ。ふむ、アインウルフの突撃命令が、無い以上、この戦は終わったようなものだ。兵士だけでなく、将軍までもが混乱しているのか?
そうであるのなら、もはや第六師団は機能不全に陥っている。この若者たちもアミリアの人間だ、降伏して捕虜となるのなら、ジャスカ姫の慈悲も受けられるかもしれない。アインウルフよ、あきらめたのならば、さっさと降伏しろ。ムダに死なすな―――ッ!?
体が思わず身構えてしまっていた。
この場所には、いないはずの連中からの殺気を感じる。この深い殺意を、オレは知っているぞ。あの土砂降りの中で、オレたちを睨みつけた視線さ。間違いない!!
……だが。どうしてだ?……まだ、騎馬隊は動いていないはずだ。馬の脚が大地を揺らす感覚もない。進軍のためのラッパも雄叫びも聞こえなかったぞ?
それなのに……?それなのに、何故、『この気配』を感じるのだろうか!?バカな……まだ、ヤツらの居場所までは、いくらか距離があるはずなのに……ッ!?
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
『ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンッッ!!』
疑問の答えが戦場の中央に姿を現していた。考えるよりも見てしまう方が早いな。現実が、ただそこにあるんだ。疑問の余地もなく。
ああ、マルケス・アインウルフと、その愛馬、アレクシスだよッ!!
ヤツらが……100メートル先にいやがったぞ!!そして、ヤツらにとって、味方である帝国兵たちを押しのけるようにしながら―――『単騎』で戦場を駆け上ってきているのかよ!?
「クソッ!!オレと似たようなことを考えやがって!!」
ヤツらがオレに気づいた。ああ、なるほど、いいぜ!!来いよ!!あの土砂降りの中で、睨みつけてくれたお礼を返してやるぜ!!
昂ぶる戦意に貌が笑う!!……だが、ヤツらはオレを目標にしていなかった。視線が外れる。神馬アレクシスが、ユニコーンにも勝るような加速をして、オレのはるか右を駆け抜けていく―――!?
「なに―――っ!!」
思わず間抜けな声を上げてしまったが、オレはちゃんと理解しているぞ!!マルケス・アインウルフめ、将軍直々の単騎駆けで、自分たちだけで特攻し……シャナン王の命だけを狙うつもりだッ!!
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