第八話 『不屈の誇りを戦槌に込めて、戦場の鬼となれ』 その8
『雷抜き』……なるほどな。初めてコレを思いついた男は、腰に差した刀で『抜き打ち』を放ちながら使ったんだろうな。だから、『雷抜き』ということか。やはり、すり足で放つ技なのさ、元々ね。
「……奥義の仕掛けは、秘密だぞ?技の名前も、出来れば使うな」
「それは、いいんですがね?……しかし、何故?」
「ふん。ギュスターブあたりが、推理でこれを使えるようになると……慢心するからな」
「……くくく。たしかに、彼ならば『雷抜き』という名前から、この技巧の正体に気づけるかもしれないな。なるほど、分かった。王よ、彼には絶対に教えない」
これも一種の愛情とか期待だよなあ?……エリート戦士、勇者ギュスターブくんよ。君は、この鬼神のような強さのシャナン王から期待されているぞ?
オレもシャナン王も、この秘密は教えない。
だから?
自分で気づいて、使えるようになれ。君なら、そのうち出来る。視野を広げて、既成概念を崩せるようになれば、ドワーフ族の君なら、オレよりもはるかに有能な『雷抜き』を身につけられるだろうさ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
そんなギュスターブくんが双刀を振り回して、敵を斬り殺しながら、王の護衛に駆けつけてきた。
そうだ、戦は始まった。ドワーフ族の戦士たちも突撃を始めている。彼らは皆、王の言葉と、そして示された実力により、戦意を爆発させているぞ。
ただでさえ頑強な彼らが、今、心の強さを帯びて、ただ一つの意志の元に動いていた。勝利だ。勝利だけを目指して、勇猛なる突撃は開始されていた。
侵略者を打ち破れ!!
この戦槌に、全てを込めて、振り抜くのだッ!!
……熱い闘志が、それらの言葉をオレに物語ってくれる。ああ、熱いぜ、まったくよう。これだから、ドワーフの戦士どもは―――ウルトラ大好きだッッ!!
武器の鋼がぶつかり合い、ドワーフたちはその技巧を示していく。『牛飼い鍋』がくれたカロリーと郷土愛、そしてシャナン王が与えたドワーフ戦士の『強さ』。それらが融け合った彼らは、最強の戦士であることを疑えない。
「シャナン陛下あああああああッ!!サー・ストラウスうううううッッ!!」
年下の若き青年ドワーフ、ギュスターブくんが、オレと王の名前を叫んでいた。なぜか?まあ、何となく理由はつくけどね。
やはり知りたいのさ、オレの使った『雷抜き』についてね。彼はとにかく強くなろうと必死にあがく、マジメな男だからな。
「さすがですッ!!陛下、貴方はやはり、ドワーフ族最強の戦士だああああッ!!」
「ああ。そうだ。行くぞ!!」
「は、はい!!」
ドワーフ王は感涙を流す部下のことを、少々ウザがったのか?……まあ、ドワーフ族のトップ戦士二人が、こんなところでしゃべっている場合ではないな。敵は倍いるのだ。殺しまくらなければ、活路は見えん!!
「オレたちも行くぞ!!ガンダラ、つづけ!!」
「了解です、団長!!」
ハルバートを構えたガンダラと並び、オレたち猟兵は戦場を駆けて、獲物である敵兵目掛けて武器を振り落とすのさ。ああ、シャナン王の迫力と威力の前に、帝国歩兵たちは怯んでしまっているな。
殺意に反射するように、不安げな顔で叫び、オレとガンダラに向かって来るが―――引けた腰では何にもならない。
だが。精神面の問題だけではないな。やはり……彼らも疲れているのだ。騎馬兵たちと違い、彼らは走り、歩いてきた。軽装は、機動力を保つためのコンセプトだな。この第六師団に、鈍足の兵種はいらないのだ。
軍団の哲学は『スピード重視』だね、一言で表せば。
高速で戦場を移動して、歩兵で相手を削り、最強にして最速の騎馬隊で襲いかかる。彼らはマルケス・アインウルフ将軍の指揮の下で、ずっと、そうやって戦って来たのだ。敵より速く動くことで?……敵に考えさせるヒマを与えないのさ。
悪くない攻撃性だな。
だが……これまでは、すぐに敵を仕留めていたんだろう?
何度も襲撃されて、これだけ広い戦場を『泳がされた』ことは無かったのではないか?君たちは、このグラーセス王国に乗り込む際、西の『忘れられた砦』の道を高速で駆け上がってきたのだろう?
おそらく、軽装騎馬隊を中心にした早業だったのだろう。エリート部隊で、そこを手早く襲撃して陣取り、後続の歩兵たちを待った。
そして、すぐさまあの平野でグラーセス王国軍と最初の一戦を交えたのだ。そして丸一日休みたがったが……オレとジャスカ姫が組んだ土砂降りのなかの夜襲があった。
その直後に、ぬかるむ大地を走破して、レイド・サリードンを追いかけ回した……。
その後、王城まで無駄足を運ばされ―――早朝からの強行軍で、この『ボルガノンの砦』にまでやって来たわけだ。
かなり、走り抜いたな、異国の土地を。
だからこそ、君らは最初から弱っているんだぞ?……もちろん、そいつはオレたちも同じことなんだが、わずかながらに君らの方が、体力の消耗は深刻なのだよ。
そして……『砦』という存在がある場所を、よく考えるべきだな。何故、ここに『ボルガノンの砦』があるのか?景色や経済的理由で選ばれたわけではないぞ。
この土地は、北から来た軍勢との白兵戦闘に有利な理由というものがある。
気づいているかは分からないが―――ゆるやかに傾斜していてね。『ボルガノンの砦』に向かおうとすれば、ほんのわずかな、ほとんど気づかれぬ程度の坂道を登らされるのさ。
つまり、君たちは疲れやすく、そして、こちらの打撃は勢いを帯びるんだよ。突撃ばかりやって来た、ドワーフたちの文化を考えれば?……竜騎士並みの地形把握能力が無かったとしても……気づけたはずだがな。賢さを使えば。
マルケス・アインウルフよ。
大貴族であることが、災いしているな。
歩兵から始まった叩き上げの戦士であるのならば、『砦』についても深く考察をしたかもしれないね。
そして、君は大貴族で将軍だから、歩兵たちも君に文句を言うことはなかった。意見を聞くとは有効なことだぞ?自分では、気づけない事実に気がつけるのだからな。
だが。
残念だったな。副官のアッカーマン氏もいない今では、君はその群れのなかで孤独であっただろう。あの素晴らしい白馬は、君と心で繋がっているかもしれないが、現状の不満を報告してくれることはなかろうしな。
まあ、その白馬とだけの旅であれば?馬の脚の疲れから、色々な情報を得たかもしれないがね……。
だが、今の君は軍団の長だ。
第六師団の将軍として、強く有能なリーダーとしてあろうと振る舞い、部下に不安を与えまいとしたのかもしれないが……そうやって、『カリスマ性』を出そうとすればするほどに、兵士は君に近寄りがたかったはずだぞ?
お前は無能な男ではないだろうから、歩兵たちの言葉を聞ければ、自分の歩兵たちの疲弊に気づけたはずなのだがな……大貴族さまよ?二等兵という名前のヒトはいないのだぞ。
ヒトは道具やチェスの駒などではないのだ。君は、エリートすぎて、歩兵の気持ちを知れなかったから、この『砦』への『坂道』を突撃させてしまったのさ。
世界に無意味なことなどない。
とくに、軍事面についてのそれらは、洗練はされているものだぞ。人類とは誕生以来、その歴史の大半を戦ばかりして過ごしてきたのだからな……。
さあて。
それらのことがオレたちの追い風となり、君の歩兵たちを抑止しているんだよ。数で勝るはずの君たちの前進を完全に止めているね……オレたちはこの『坂』を降りずに戦うつもりだ。有利だからね?
このまま、動きが無ければ、オレたちとしては楽なのだが―――さすがに、そうは甘くないだろう?
―――アインウルフは丘にいて、白馬の背から戦場を見守っていた。
歩兵たちの進捗は悪かった、今回のドワーフたちは闇雲に突撃をしてこない。
壁のように、待ち受けて、そこで歩兵たちを殺しまくっている……。
それはそうだ、ドワーフたちは前回のことを覚えている。
―――ムリに突破して、左右から矢の雨を撃ち込まれたのだ。
その後に、騎馬隊で蹴散らされたことを、忘れているはずがない。
警戒して、ムダな突破は試みず、歩兵をじっくりと削るように殺している。
ドワーフたちは、アインウルフの『鎧』をゆっくりと壊しているのさ。
―――アインウルフは、ソルジェの思惑の通りに焦れてきていた。
アインウルフには、警戒すべきことが多い。
最大の警戒は、『聖なる洪水』や『終わりが沼』だ。
数千、数万を屠る罠があるのではないか……その警戒は未だに解けない。
―――だが、シャナン王が最前線に踊り出たことで、彼の疑いは弱くなる。
少なくとも、あの王がいる場所は、大規模な『罠』に巻き込まれはしないだろう?
ならば、もう桁外れの威力の『罠』はないのか……?
確信など抱けぬことではあるが、もう考えないことにしよう。
―――アインウルフはそう判断する、そうさ、彼は正解している。
グラーセス王国軍には、古代の遺産の大いなる『罠』は、もうないのさ。
……戦闘開始から10分、アインウルフはその脅威のことは忘れることを選んだよ。
だから、もう一つの脅威にだけ意識を集中させるのさ。
―――竜は、どこだ?
弓兵隊以外では、どうにもならぬ、あの狂暴な飛竜はどこにいる?
弓兵を警戒しているのだとしても、まだ出て来ないのか?
……なるほど、姿を隠すことで、こちらの陣形を固定しているのだな……。
―――アインウルフは、この消耗戦を嫌う。
彼は勝てばいいだけではない、消耗を抑えなければならない。
北方から、いつ本物のルード王国軍が南下してくるか分からないのだから。
それは明日や明後日かもしれないが、近い将来に有り得る驚異だ。
―――なにより、ソルジェ・ストラウスがルード王国の傭兵だと彼は知っている。
ソルジェがグラーセス王国軍と第六師団の、『共倒れ』を狙っているのでは?
そんなことも考える、彼はソルジェとドワーフたちの友情を知らないからね。
……ああ、もちろんクラリスはともかく、ソルジェは狙っていないよ。
―――だから、アインウルフは決断するしかなかった。
竜の脅威に晒されることになったとしても、行かなければならない。
アインウルフは『東の丘』を取る気になったよ、騎馬隊を引き連れて自分自身がね。
あの偽ルード軍が、自分の馬を奪っていることも気にくわないから。
神馬アレクシスを駆り、彼はあの忌々しい偽騎士団を仕留めるつもりになったのさ。
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