第七話 『聖なる戦は、鋼の歌を帯びて』 その14
―――『魔王』の笑い声を聞きながら、彼の猟兵たちも勢いを帯びる。
ゼファーは炎の弾丸で、王城を崩す勢いで『ガレオーン猟兵団』を焼いていく。
『まーじぇ』、てきのむれに、つっこんでいい?
リエルは許可をする、ええ、私と一緒ならね!!
―――『魔王』の正妻に相応しい、強気な性格なのさ。
ゼファーが敵の槍兵たちの群れに突撃し、炎と牙で敵を殺した。
リエルはその背から矢の連射だ、彼女の技巧に対応出来る敵はいない。
トドメは『雷』を呼んで、愛しい仔竜の援護をするのさ!
―――その場が片付いてしまうと、ゼファーは手持ちぶさただ。
どうしよう、えものが、たてものに、かくれちゃったよ?
……いいのよ?仕事は、他にもあるのだから。
空へ戻りなさい、皆の援護に回るわよ?
―――うん!『なかま』は、『かぞく』!!
そうよ!だからね、誰も、傷つけさせたりしないわ!!
りょーかい、『まーじぇ』!!
そして、ゼファーは再び空へと舞い上がるのさ。
―――竜の背からリエルは矢を放ち、仲間たちの援護射撃に奔走する。
ゼファーも敵を調子づかせないように、炎で威嚇。
最強の援護だった、だから、猟兵どもは目の前の狩りへと集中できる。
リエルはマジメないい『マージェ』、さすがは『魔王』の正妻さ。
―――ミアは『チェイン・シューター』をも使い、縦横無尽の暗殺仕事。
これで、13人目。
殺した数を数えている、知っているのだ、ミアだって。
ヤツらは100人、10かける10の集団だ。
―――『ガレオーン猟兵団』、たしかに強い。
それでも、『パンジャール猟兵団』には及ばないことを、教えてあげる。
『最強』は、私のお兄ちゃんの『群れ』だ。
猟兵団は、一つでいい。
―――殺戮妖精は技巧を尽くす、爆弾、魔術、ナイフにスリング・ショット。
手甲からは、魔銀の爪が伸びてくる!!
殺人技巧の嵐をもって、彼女はこの戦場で、誰よりもヒトを殺すのさ!
ミア・マルー・ストラウスは、猟兵たちの最高のアイドルさ。
―――エリート戦士・ギュスターブは、口惜しがる、足の速さの差だろうね。
殺した数では、ミアに及ばなかったんだ……だが、その強さは勇者の名にふさわしい。
双刀を振り回す、その荒々しい竜巻は、次から次に敵を切り裂いた。
いい仕事さ、ソルジェとシャナン王と父親にしか、負けたことはない。
―――いつか、ソルジェにリベンジしたい気持ちがあるよ。
若武者は、この戦場でさえも、この国家存亡の戦さえも。
己の技巧の糧にするため、剣と踊る。
ジャスカ姫の『息子』と組んで、『ゼルアガ/侵略神』を狩る日はまだまだ先の物語。
城と城下が燃えていき、傭兵どもは炎に召されて地獄行き。
偽りの猟兵団は、偽りゆえに『恐怖』する。
『魔王』の笑いと、炎に包まれ燃える世界……。
常人の心を狂わすには、十分な衝撃だよね。
―――でも、真の猟兵を相手にするときは?
『恐怖』なんて、捨てるべきさ。
僕たちは、とても残酷になれるよ。
怯んでいては、一方的に殺されるだけ……でも、『恐怖』はその指を縛っていた。
―――どんどん数が減っていく、ああ、僕たちだけの仕事じゃない。
そうだよ、城に残っていたドワーフの戦士たちも有能だった!
戦火をくぐってきた敵兵たちにも、強さで圧倒する。
彼らも近衛の勇士たち、ギュスターブに追いつこうと、研磨を怠らない。
―――ガンダラとシャナン王は名コンビ、無双の怪力たちは敵を群れごと潰すのさ。
知恵ある二人は自分たちで、敵の群れを誘うことさえしてみるよ。
彼らの頭のなかには地図がある、その地図のなかで、敵を動かし予測する。
攻撃的なエリートは、パターンが有効な内は無敵ってことさ。
―――もちろん、ドワーフ王の腕っ節も強いよね?
それに、ガンダラだって、巨人族。
その巨体に、一流の槍術があるのだから……ハルバートを振り回し、敵兵を潰す!
彼も猟兵、軍師稼業も嫌いじゃないけど、本職は戦場の『鬼』なのさ!
―――オットーは暗殺者どもを仕留めていったよ、もうほとんど倒したか?
いいえ、まだ……いますね?
『サージャー』の、魔法の瞳を開眼させて、風をまとった脚で城内を駆ける。
彼から隠れられるわけもない、狭い範囲であれば、その洞察は?
―――人狼の鼻さえも超える、恐るべき探査能力を発揮するのだから。
仲間想いのやさしい彼は、守るためになら、より迅速に動けるのさ。
彼はやさしいし、魔術をも防げる男。
だから、早く敵を倒して、カミラを手伝ってやりたいと考えている。
―――オットーは、昨日の夜もカミラと特訓している。
彼女の強くなりたい気持ちを知っているし、彼女の未熟さも知っている。
サポートが必要だとも、思っていた、カミラは強いが、未熟さが気にかかる。
でもね、オットー?彼女だって、若いから……成長も早いんだ。
―――カミラは強いよ、素質だけならソルジェも超える?
ヒトを超えた身体能力と、大いなる秘術、第五属性『闇』を持つのだから!
カミラは『吸血鬼』としての本性を現して、アニスを圧倒し始めている……。
いかに強力な魔術でさえも、カミラの前では意味をなさない。
―――風を破り、雷を裂き、爆炎を貫いた。
なによりアニスは、薬の打ち過ぎさ、鼻血はもう止まらない。
目を回し始めている、だから、カミラの稚拙な技巧にも遅れを取った。
……なに、いまの!?
―――『コウモリ』に化けて、あなたをすりぬけたっすよ?
驚愕するアニスは、腕を振ってカミラを打とうとした。
でも、腕は動かなかった、薬の影響さ、神経が焼けて、動かなくなっていた。
カミラはその大いなる牙で、アニスの首元に噛みついた……それで、もう決まりだよ。
―――アニスは、もう限界だった、体からは血をあふれさせ、死の定めにあった。
カミラの牙は、慈悲でしかなかったのさ、彼女の牙は、やさしく命を吸ったのさ。
死に行くアニスは、それでも世界を呪う言葉を吐く。
こんな世界、大嫌いちゃんよ?みんな、壊して、やるんだあ……。
―――どんなことをしてあげてもね、だれも、やさしくしてくれないの。
あいしてくれないから、こんなせかいちゃんなんて、ほろびればいいのに。
どうして、そんなことも、させてくれないの?
ねえ、のろわれて、けがれた、じゃあくな、ばけものちゃん?
―――カミラは答えるのだ、それが彼女を看取る者の義務だと信じたから。
あまり良くない頭で考えるんだよ、精一杯にね?
……アニス、自分らは、世界を壊しますよ?
……アニスが望む壊し方ではないと思うっすけど……。
―――それでも、必ず、この世界を壊す。
自分は、ハーフ・エルフの子供たちに、約束したんです!
あの赤毛の『お兄ちゃん』に、力を貸すって。
あの子たちの指先から、ちょっとずつ力をもらいました。
―――自分の『闇』に融けて、あの子たちの願いは力になった。
邪悪な、呪われた力だけれど……こんなことも、出来た、あのアニスを倒せたじゃないですか?
だから……呪われた力でも、誰に祝福されなかった『血』でも。
ソルジェさまといると、価値を帯びる……。
―――だから、アニス……いっしょに、行くっすよ!!
この先の『未来』では、アニスたちは迫害されたりしないから!!
そんな世界を、ソルジェさまと一緒に、『力』で、『恐怖』で、創るんです!!
だから……自分の血に融けて?
―――世界が壊れる様子を、世界が新しくなる過程を、見ていて欲しいっすよ。
……数十秒前に、カミラの腕のなかで、アニスは息絶えていた。
だから、カミラの言葉が通じたのか、分からない。
カミラの言葉が適切だったのか、アニスがそれを理解出来たのかは分からない。
―――それでも、カミラの腕は、アニスを抱くよ。
何も見返りを求めることのない、ただただ聖なる母のような、やさしい祈りで。
……おやすみ、アニス。
泣きながら、カミラはその魂に別れを告げたんだ。
―――ガラハドは、ソルジェとの勝負に全てを捧げすぎていたね。
5000の兵で攻めれば良かった、ソルジェとの勝負など考えずにね……。
『ガレオーン猟兵団』は、静かに砕かれていったのさ。
ガラハドも気づいているよ、戦士としては最高に優秀な男なのだから……。
―――己が死の定めにあるということも、理解しているんだ。
応急処置で傷を焼いて塞いだが、あまりにもあの一瞬の交差は致命的だった。
彼はそれでも死を恐れない、本物の猟兵だからね。
死に化粧を施しているのは、いつかこの瞬間に備えてのことだ。
―――死に際して、思うことなど猟兵にはないのだ。
『狂気』の男に、『恐怖』は効かない。
ただ純粋に、殺意のままに全てを尽くすことを誓っているのさ。
彼は揺らぐことのない鋼……ただひたすらに、ソルジェに殺意する純粋な『狂気』。
―――狂人である彼の心を察するのは、とても難しいことだけど。
彼なりの哲学で、彼は生きて、死のうとはしているのさ。
そういう意味では……運命と使命感に囚われている僕たちよりは……。
ずっと、ガルフの持っていた『自由』に近いと思うんだよね。
―――まあ、そんなことは、どうでもいいんだよ。
自分の生き様を、清算するそのときがやって来たんだぞ、ガラハド?
君は、どんな『死に様』で、猟兵らしさを表現するのかな?
ソルジェの刃で死ねることは、君にとって屈辱なのかな、それとも……?
……さあ、その時が来たよ、ガラハド・ジュビアン。君は、もう十分に生きたのさ。
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