第七話 『聖なる戦は、鋼の歌を帯びて』 その10


 ギュスターブが、烈火の如く敵へと向かう!!分かるぜ、オレも元気で体力が余っているのなら、そうしてみてえ!!


 敵兵たちの剣も槍も、ドワーフの猛る二刀の剛剣乱舞の前には、粉砕されるのみであった!!いい鋼をもつ剣だね。


 それに、その技巧。体がピクピク動いちまうよ、そのリズムとそのステップ、ああ……オレも、マネして、その剣舞を踊りてえッ!!


「ソルジェ!!左から、槍が!!」


「ああ。知ってた。でも、オレの出番じゃない」


 投げ槍を構えていた大柄な兵士の首が、神速の斬撃によって切り落とされる。ミアだった。ゼファーを攻撃しようと城壁によじ登った者は、誰一人として許さないという覚悟だな。


 さすが、オレの妹!!


 竜を愛する心が、爆発しそうだな!!


 ミアはその究極の身軽さを活かして、城塞の壁を走って横切る。『フェアリー・ステップ』。猫型妖精ケットシー族の能力と、ミアの熟練した技巧が作りあげた、無敵の高速機動だな。


 壁を走り、天井を蹴って襲いかかる神速の暗殺者の前に、彼女の三倍は体重のありそうな槍兵たちが切り刻まれていく。ああ、初見でミアの動きを読むだって?……ムリがあるね。


 サイコーだぜ、ミア。


 ストラウスはそうだよな、返り血の雨を突っ切りながら、敵の顔面に蹴りを入れて、足首と指の技巧で、その首をへし折るのさ!!


 ミアとギュスターブはチラリと視線を合わせた。ライバル認定かね。いいぜ、殺し合え!!ビジネスにも、ゲーム要素を導入した方が、ワクワク出来るってもんさ!!


「はああああああああああああああああッッ!!」


「どりゃああああああああああああああッッ!!」


 野太い声が下から聞こえるぜ。


 ああ、知っている。


 一つがガンダラで、もう一つは、シャナン王だな!!


 王と軍師だもん。彼らは最重要ターゲットだよね、常識的には。だから、大勢の猟兵どもが殺到していた。でも、彼らが組んでいることには、意味があると思うべきだな。


 ガンダラは盾じゃないし、シャナン王も守られるだけの弱き王などではない、ドワーフの王なのだぞッ!!


 二人はその豪腕に『雷』をまとう!!単純にして、最強の魔術とも呼べる『チャージ』だよ!!二人は、威力を増した斧槍と戦槌で、床を叩くのさ!!


 床石が弾け飛んで、その衝撃は猟兵どもが殺到していた床の全てを崩落させてしまう。十数メートルの高さから落ちていくのさ。ああ、生きていられるわけがないよね、鎧を着ているんだ、受け身も取れやしないさ。


『……『どーじぇ』!!うしろに、ゆみへいが!!』


「ああ。彼に任せとけ!!」


 ゼファーの背後を狙おうとした、柱から姿を現した弓兵たちが、蛇のように動く四節棍に頭を打撃されて即死する。紳士は、敵を殺すときでも礼儀正しい。下品な貌にはならず、ただ静かに殺す。


 うん。あこがれるね、そのスマートさ。オレには、多分、一生かけても身につけることは出来なさそうだ。


 四節棍を一本の棒に戻して、また、それで敵を打った。天井に張り付いていた男が、一人、胸を突かれていた。


 心臓の機能を崩壊させられた彼は、意識を喪失して落下してくる。重症だが、生きている。ゆえに、オットー・ノーランの足が、彼の首をへし折って安楽なる死を与えてくれるのさ―――スマートだな、ああいう静かさは、オレは使えないよ。


『おっとー!!ありがとう!!』


「……ええ!ゼファー、今夜は、味方が少ない。気をつけてくださいね!!」


『うん!!』


 オットーはそういいながら、三つの目を開いて、高速で戦場を駆け抜ける。


 彼の目で追われたら、どんなに隠れていても意味はないだろう。全てを見切られて、追いつかれ、一方的に殺されてしまうだけさ。


 これで、隠れているヤツらは彼に狩られていく定めだ。オットーは最も重要な任務を担当しているのさ。『強者』であるオレたちを倒せるとすれば、身を隠した戦士の奇襲だけだからな。


 彼はそういう暗殺者を見逃さない。もしもを無くすために、彼は一人で戦場を走り回っていくのさ。


 さて、魔力の強いヤツは、どこだ―――ほう。いやがったな、あばずれ女!!


「ソルジェちゃん、竜太刀持っているなんて、ズルい!!反則!!」


 アニス・ジオーンだ。


 アイツ、バカだから城の最上部に登っている?


 いいや、バカだが、ハーフ・エルフの魔力を舐めてはいけない。彼女の魔力は、神がかって強い……とくに、今みたいに、腕に何本もドーピングの注射をしているときはな!!


「この薬物中毒者め!!エルフの秘薬に、ムチャな使い方をさせるんじゃない!!」


「あははっ!!リエルちゃんてば、やさしい!!でもねえ、私は、こんな風に、壊れちゃいながら、デカい魔術をぶっ放すのが、大好きなのよおおおおおおおおおおおッッ!!」


 雷の群れが、アニスへと降り注いでいく。


 ああ、あのバカ女、なんていうことを。


 身が焼けて、崩れそうになりながらでも……雷を、『練っていく』ッ!!


『……なに、あれ!?』


「……自分の身を依り代に、雷を集めているのだ!!バカなマネを!!ヒトの身に、許されている威力ではないぞッ!!」


「きゃはははあ!!だから、いいんじゃなあいいッ!?鬼みたいに強い、アンタたちでもさあ?これぐらい、威力を高めた魔術なら!!一匹ぐらい殺せるかも!?」


 アニス・ジオーンの殺意を浴びて、ゼファーが身震いをする。あそこまで必殺の覚悟をゼファーに見せた敵は、初めてかもな。


「誰か、死んじゃったら!?アンタたち、泣いてわめいちゃうわよねえ!?」


「その威力を使えば、貴様まで死ぬぞ!!やめんか、アニス!!」


「うるさいわねえ。さーて、どーの仲良しちゃんに、あったるかなああああッ!!」


『だめだ、あのいりょく、だれかが、ころされる―――』


「いいや。大丈夫だ。うってつけの役回りだぜ、カミラ!!」


「了解っす!!」


 黒い翼が、ゼファーの前に躍り出ていた。カミラだ。吸血鬼の『翼』を出している。他の任務から、戻って来たか。スマンね、その機動力があるから、ついついムリをさせるんだよ、ガンダラくんってば?


 あと……オレもか?今度、何かしてやるから、がんばってくれ。そいつの相手は、お前が一番いいんだよ。


「あらあ?……13番目ちゃーん?アンタも、やっぱり、バケモノちゃんなのねえ!!」


「違います!!自分は、『聖なる呪い』っす!!ソルジェ団長の、三番目の妻!!」


「あははは!!吸血鬼のオモチャだった、アンタみたいな汚れが!!花嫁ちゃんなんかにいい、なれるわけがないだろおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 アニスが叫ぶ!!


 その大いなる魔力は、絶大なる怒りと嫉妬の感情を帯びて、ニコニコ顔のカミラ・ブリーズへと放たれる!!見たことないレベルの巨大な『雷』だなッ!!


 だが。


 カミラはもう迷わんさ。彼女を傷つけようとする言葉などでは、自分自身を見失うことはない。過去など、すでに、彼女は呑み込み、己のものとしてみせた!!


「カミラ!!『力』を使えッ!!」


「はい、ソルジェ団長!!―――『闇の牙よおおおおおおッ!!魔力を、呑み込めえええええええええッッ!!』」


 超特大の『雷』が、カミラへと降り注いだ。常人ならば、肉が一瞬で焼け焦げてしまうほどの威力であっただろう。だが、カミラの身に宿る、第五属性が―――『闇』が、アニスの放った『捨て身』の『雷』さえも呑み込むのさ。


 雷光がおさまったとき、カミラは何事も無かったかのように、空に浮かんでいた。


 アニスが鼻血を垂らしながら文句を言う。


「なによ、それえええええええ!!私ちゃんの、全力突破の雷なのにいいッ!?」


「食べちゃいましたっす!!」


「はあああああ!?ムカつく、ムカつく、ムカつくうううう!!今度は、焼き払ってあげるんだからあああああッ!!」


 アニスが業火を呼び寄せる。なんていう、無尽蔵の魔力だ―――どれだけ、薬を打ったんだ?脳が、溶けるぜ、そんなムチャをしていたらよ。


『あのほのお、ぼくのほのおと、おなじぐらいッ!?』


「そうだ。世の中には、ああいうバケモノもいるのさ。才能の上に、秘薬の限界以上の摂取……それで、あそこまでの力に至る」


「間違っている!!なんでだ、昔は、もっと……もう少しは、マシだったぞ!!」


「……力に溺れているんだよ。もう、アイツ自身にも判断は利かないのかもしれない。ああなることを、望んでいる―――アイツは、世界を破壊したいのかもな」


「うふふふふう!!今度はさあ、どうかなあ、吸血鬼ちゃあああん!?」


「やってみるといいです!!ですが、自分は、アナタに容赦するつもりはない!!」


「きゃははははははっ!!みーんな、こわれちゃええええええええッッ!!」


 壊れている魔術師は、今日も戦いながら笑っている。


 ああ、厄介なヤツの相手をさせてしまって、すまないなあ、カミラよ。だが、あのバカげた魔力を相手にするのは、君の『闇』が最も有効だ。君のそれならば、あらゆる魔術を無効化するからな。


 アニスは、薬を打ちすぎてマトモじゃない。戦況を判断するまでの力も、もうないみたいだな。薬に逃げる人生か。ふむ。そろそろ死なせてやるのも慈悲かもしれんな。魔力を高めすぎて、肉体が破裂しそうだ。


 今日は、特別にヒドくぶっ壊れているぜ……。


 ああまでして、壊したいほど世界が憎かったのかい、アニス・ジオーンよ。


 ……さて。


 アレの恋人さんにも、そろそろ出て来てもらおうじゃないか?


「おいッッ!!ガラハドッッ!!さっさと、出て来いよッッ!!せっかく、オレが貴様なんぞと、一騎討ちしてやろうという気になっているんだ!!オレたちも、殺し合おうぜッッ!!」


 その言葉にウソが無いことが伝わったのかもしれない。


 ガラハドが、王城の上層にある庭園に現れる。魔力を完璧に隠していたな。ジャン・レッドウッドの嗅覚でも使わなければ、あの技術は破れないかもしれない。


 本当に、技能の塊のような男ではあるな。


「ゼファー。あそこに降ろしてくれ」


『りょーかい、『どーじぇ』!!』


「ソルジェ、一騎討ちをしたいというのなら、止めない。だから、勝てよ」


「もちろんだ。あのクズ野郎の首を、落としてくるぜ」


 ゼファーが低空まで飛び、オレはそこから飛び降りた。


 飛び降りた瞬間、ヤツの『飛び大蛇』がオレの首を目掛けて迫っていた。いいねえ。そういうコトするヤツ、殺したいほど嫌いだぜッ!!


 ガキュイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンッッ!!


 竜太刀が、『飛び大蛇』の刃を打ち払う。『飛び大蛇』の隙―――それは、きっと、このタイミングだよな。だから?飛び込まず、見るのさ。ヤツが、どうこの弱点を補っているのかを知りたい。


 ほら、見ろ?


 ナイフを投げつけて来やがるぜ?


 オレはそのナイフを剣で払うことはなく、ステップを刻んで横へと回避する。


 ナイフが背後の壁に刺さり、次の瞬間、込められていた魔術地雷が爆炎を召喚していた。


「―――ほう、よく読んだな?」


「貴様の考えることなど、予想はつくさ」


 オレが『飛び大蛇』を防ぐと想像していたか。ふん。知りたかったのか、この新たな竜太刀が、本物かどうかを。


「……それは、何だ?」


「ん?竜太刀さ。新しいヤツだ」


「砕いてやったのにか?」


「ああ。前の破片と、新たな素材を混ぜて、新しく作ったのさ」


「……誰がだ?グリエリ・カルロか?」


「『奇剣打ち』は、こういうまっすぐな太刀は打てない」


「そうか?」


「……いや、技術的には彼なら作れはする」


「ふむ。オレを裏切ったか、グリエリ?」


「仲間割れをするのは勝手だが、これを打ったのは『奇剣打ち』じゃない。彼は職人ではなく、アーティストだ。己の哲学に合わぬ剣は、打てない」


 そうだ。


 竜太刀は、オレのために作られた、非常にシンプルな霊剣。パワー頼みのオレの技巧に合わせるために作られている。シンプルさが売りだ。ただただ、硬くて壊れない。それを目指した、芸術性に欠くタイプの剣ではあるね。


 職人の剣。だからこそ、芸術家である『奇剣打ち』の趣味ではない。ヤツは至高の剣に、見合った才能を探すスタイルだ、オレに……客に合わすなどということは死んでも出来ない。


 ヤツならば、アーレスを『飛び大蛇』に仕込むかもな。爆炎を呼ぶ伸びる刀?炎を呼んだ瞬間、刀身が破裂しそうだけどな。それでも『それ』を使ってくれるバカを探そうとするのが、グリエリ・カルロだ。剣士のための剣ではなく、剣のための剣士を探すのさ。


 ……あるいは、どんな奇剣でも使いこなせる技量の剣士に、近づくとかね?……そうだ、グリエリ・カルロとガラハド・ジュビアンの関係性とは、そんなものだ。『奇剣打ち』の作品を使いこなせる器用な男と、強くあるために奇剣を求めた猟兵。それだけの関係。


 信頼などは皆無だろうよ。


「……ヤツは自分の芸術に合わないオレのためには、剣は打たんよ。この竜太刀は、アイツの趣味ではない」


「では、誰が打った?」


「……ドワーフたちの王さ」


「なるほど!シャナンとやらか!!」


「気安く王さまを呼び捨てにするなよ?」


「敵の王だ。敬意など払う必要はない。お前も、『ユアンダート陛下』などとは、呼ばないだろう?」


「……たしかにな」

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