第七話 『戦場の焔演』 その8
オレは竜太刀で、オレたちの迫力に圧倒されていた兵士たちに斬りつける!!
そして、嵐に化ける!!
ストラウスの嵐に、魔力はいらない!!ただの、鍛えられた肉体と、磨き上げられた技と、竜太刀があれば、成るッ!!
『ガアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
ゼファーが吼えながら、敵の群れに突っ込んで行く!!
脚で踏み、爪で切り裂き、尻尾で敵をなぎ倒していく。
魔力が尽きているせいで、炎は、もう吐けない!!
だが、それでも構わん!!まだ、心臓が脈打ち、命を宿した赤い血が全身を巡っているだろう!!だから、ゼファーよ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!
怖いところを、見せつけてやれ!!
いいか、ゼファー、ヒトは臆病だ!!
あまりに強くて、恐ろしいモノを見せつければ、動けなくなる!!
それなのに。
ヒトはな、不思議と『怖いモノが、見たいのさ』。
どうしても、見てしまうんだよ、本能がそれを求めるから!!
ほら?見ろよ、ヤツらの瞳が、オレたちを追っているのが、分かるな!!
敵をオレたちに引きつけるぞ!!
オレたちは、ヤツらにとって、もっとも怖い存在になるぜ、ゼファー!!
それなら、誰もリエルやミアやシャーロンを襲わない!!
オレたちにだけ、ヤツらの恐怖と殺意は集まってくるんだ!!
暴れる。
暴れまくった。
剣を振り、斬り捨てては、次へと向かう。顔は、笑っている。
返り血を浴びながら、オレは笑うんだ。
なあ、キツいけどよ……楽しくもあるだろう、ゼファー?
お前は、竜で、ストラウスは剣鬼さ。このコンビには、どんな軍勢も敵わない。戦いのなかでも、死にながらでも、楽しめるんだから。
オレたちは、こういう狂った生き物なんだ。戦いでしか、癒やせない飢えを宿している。
ヒトを殺して、自分の優秀さを証明することが、たまらなく好きなのさ。
それを否定するな。オレたちは、戦士なんだ。この世界の誰よりも、この世界の『何』よりも戦士でなくてはならない!!
それが、竜と竜騎士ってもんだッ!!
『ガルルルルルルウウウウウウウウウウウウウウッ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
ハハハハ!!……ふたりして、大暴れだぜ!!
殺して、殺して、殺しまくる!!
斬って、斬って、斬りまくる!
ゼファーが暴れて、ヒトの叫びと、血の雨が、空を汚していく。
オレの剣舞が、大地に死を刻む―――っ。
ざくり!
「……痛えな」
「……ひ、ひいっ」
……クソが。槍で腹を突かれちまった。でも、構うか、それを途中で叩き折り、腹のケガなど気にせず、オレに一撃入れた敵の首を刎ねた。
横っ腹から出血が始まる。おいおい、魔力切れに加えて、貧血かよ?ふらつくぜ。
ああ、ゼファーも血まみれだ。そりゃそうだ、だってよ、ふたりして敵の大群に特攻しかけてるんだからよ!!
苦しいさ、疲れているぜ。
あちこち、痛くて、バラバラになりそうだ。
だが……だが、オレは笑っているぞ。
ゼファーも、楽しそうだった。
竜が狂ったように暴れる。そして、敵兵のひとりに噛みついていた。
そうだ、食っちまえ!!ヒトを食い千切り、その血を帝国の豚どもに浴びせてやれ!!
血の臭いを嗅ぎ、オレも復活する。何人も続けざまに切り裂いて、そして、ひときわ体格のいいヤツの腰骨に竜太刀が食い込んで、外れなかった。
「む?」
「……あいつ、槍が刺さって、弱ってるぞ!!」
「こ、殺せる!!今なら、殺せるぞッ!!」
心外なことを言うぜ。オレが弱っているだと?
ちげーよ……しかし。そうか……血と脂が飛び散ってきたせいか。それで柄が、すべって、上手く握れないのか?……フン。なんだよ、弱っているじゃないか。
「死ねえええ!!」
「うるせええ、豚があああああああッ!!」
オレは竜太刀から手を離して、オレに斬りかかって来ていた兵士の顔面をブン殴る。地面に沈んだそいつに馬乗りになって、やたらめったらと顔面に拳を入れていく。すぐに血まみれになったそいつは、死ぬ。
頭の骨が割れすぎたからな。頭の中が壊れちまって死ぬのさ。
オレは、死んだそいつの手から剣を奪うと、怯えている男を何人か斬り殺す。
「ば、ばけものめえええッ!!」
ぐ!?……くそ、背中に矢が刺さっちまったな。
痛むぞ……でも、怯むかよ……っ。
オレは背後の敵をムシして、目の前にいる兵士どもを襲い、そいつら全員を切り裂いていた。だが。ちくしょうめ。なまくらが、パキリと折れやがった。
かまうか。オレ目掛けて突き放たれた槍を、身を捻りながら躱して、右の拳でカウンターをぶち込んでやる。そいつの首の骨が折れて、そのまま倒れていく。折れたなまくら剣を捨てて、死者の腕から槍を奪う。
背後から放たれていた矢を、振り向きざまに、オレは左手で受けた。『頭狙い』ね。頭でも潰さなきゃストラウスさん家のガキは、死なねえって悟ったか?……その通りだよ!!
しかし、コレ、手のひらを貫通しやがったな。クソ痛い。でも、そのお返しはヒデえぞ!!
「ひいいいい!?こ、ころさな―――」
ぶん回した槍で、そいつの頭を打撃する。死んだか?いや、ちょっと浅いかもな。だが、いい。しばらくは起きられないだろう。
牙で噛んでつかみ、矢を手から引きずり出すと、オレは少しだけ気分が良くなる。
グーとパーをしながら、指が動くかどうかを確かめる。くくく。中指の動きが悪いが、腱は切れちゃいねえな。他は、まずまず。
痛みを気にしなければ、握力、75%は出せるかな?……さーて、槍を回して、戦場で遊んでみるかね。
そういえば、いちばん上の兄貴から、これを習ったな。
踊りながら、槍を回す。『竜舞』。本来なら、竜槍ですべき技だが、まあ、このさい、文句なんて言ってはいられないだろう。
槍を回す。高速で、遠心力と腕力頼みに、何人かをぶちのめしていく。
ぶちのめした後で、槍を投げて、一人、串刺しにしてやったぜ。
素手になったオレは、笑う。
「ハハハハハハハハアッ!!」
「こ、こいつ、ど、どーしたんだ!?」
「く、狂ったのか、血まみれで、死にかけているのに……」
「し、死にかけてる……よな?」
「で、でも……笑い声に、力が、みなぎって来てねえか……?」
そうだ。我ながら、恐ろしいことに、魔力が回復してきている。
それに、呼応して生命力が、体の奥から芽吹いてくるぞ?オレは、調子に乗って腹に刺さっていた槍を引き抜いちまう。
大きな傷だ、こんなバカな『治療』したら、傷の穴が開いちまって、血がドバドバあふれてくるが……すーぐに、止まっちまった。
「う、うそだああ……な、なおってるッ!?」
「僧侶の祝福無しに、あんな、傷がかよ?」
「……ば、ばかな……ありえねえ……っ」
なるほど。ゼファーだ。疲れ果てたゼファーが、『兵士を食いまくっている』。美味そうに人間を頭から食い千切って、貪っていやがるぜ。
何人も、何人も、急いで腹に詰めてやがる。それらを消化して、『魔力を取り出し、自分を癒やしている』んだな。いや……オレにも、その魔力を分けてくれているのさ。うちのゼファーは、『ドージェ』想いのいい竜だ。
オレは、アーレスの瞳でゼファーと『つながっている』からな。オレの肉体にも魔力が注がれて来ている。
なんていうか、乾き果てた荒野に、豪雨でも降ってるカンジ?……魔力が満ちて、あふれてくるぞ。そのあふれるほどの魔力は血と混じり、意のままに傷口を固めちまう。
まあ、彼らの言うように『治っちまった』わけじゃないが?急ごしらえのカサブタで、傷口をふさいだってトコロだな。でも、ドバドバ血が出ねえんなら、問題ねえ。
おかげで、まだまだ動けるぜ?さすがに、ゼファーから送られてくるのは『ヒトの魔力』だからな、ヒトであるオレにはよく合うみたいだ。
血に乗った魔力が全身に運ばれていく、オレは鉄臭い戦場の空気を吸って呼吸も整えていく。酸素と魔力が、壊れかけていた肉体を満たしてくれるのさ。だから、オレはもう少しのあいだ戦えそうだよ……。
「……アーレスよ!!……来いッ!!」
オレはアーレスを呼ぶ!!
天に掲げた手に、竜太刀がどこからか飛んでくる。アーレスを、オレの指が掴んだ。ん。イイ感じだな。力も戻っているぞ。そうだ、もう離してなるか、アーレスを!!
「ま、魔術で、剣を、よ、呼んだアア!?」
「ま、『魔王』だ……コイツ、もう、ヒトじゃねえよおおおッッ!!」
「……くくく!嬉しいこと、言ってくれやがるぜ!!」
そーだな。
君らが、『魔王/それ』を最も恐れるのなら、オレは『それ』になるのもいいね。
オレの知る、『魔王』さまはなあ……おっかなくて、鬼みたいに強くて……。
……そうだな。
……オレは、大好きだったな、陛下のつくった国が……。
エルフのババアの薬屋があって、若くて下手なドワーフの鍛冶屋がいて、いたずらに命賭けてる妖精たちが遊んでて、人間もたくさん住んでて……空には竜が、鳥といっしょに並んで飛んでいたな。
風車があって、段々畑を降りる風が、その大きな羽根を回していた。
夕暮れには、遠くの山に沈んでいく太陽が、とても綺麗で……その小さな山奥の里を、包み込んでくれるように赤く染めて……その赤い景色のなかに、みんなが、いたよな……。
あー……いい国だったなあ。
オレは……そうか。
そんなのが、いいんだ。
ベリウス陛下みたいに、『色んなヤツがいていい場所』を、守りたいのか。
「……そうか……それなら……まだまだ、ぶっ殺さないと、いけねえなああ」
「ひいッ!!」
「目、目が、目が……金色に、ひ、光ってるううううッ!?」
「……ああ。これが、『魔王』の目の色さ」
オレのなかで、アーレスの魔力が高まっていく。失われていた左目の視界が回復する。昏い闇は消え去って、世界が再びクリアに見えた。魔眼、完全復活だぜ。
ゼファーも、『栄養補給』は完了ってところだな。十数人分の肉を胃袋に詰めて、腹が膨れあがっている。たくさん食っちまったな。大きく育てよ?
『ガルルルルルルルルルウルルルルウウウウウウウウッッ!!』
ゼファーが血まみれの口で唸り、帝国の豚どもをにらみつける。
オレと同じ金色に光り輝く瞳でな!!
「行くぞおおおおおおおおおおおおおッ!!」
竜騎士のつとめだ。竜が歌っているんなら、オレだって歌うさ。
突撃が再開される。
アーレスの竜太刀を振り回して、見境無くして斬りまくる。左腕に魔力を満たして、オレは戦場に巨大な雷を呼んで、兵士どもを感電させてやった。
ゼファーがオレのそばで暴れ回るのさ。爪と牙で兵士を砕き、たまってきた魔力を炎に変えて、消化途中の人肉といっしょに、ブレスを吐いた。
炎と血の混ざった濁流が、ユアンダートの兵士どもを消し炭に変えていく。
それを魔眼で確認しながら、オレは敵の群れへと飛び込んでいった。
追い詰められた敵は、手強い。もはや常識的な臆病は、恐怖と生存欲求に塗りつぶされて、オレへの攻撃となって襲いかかって来やがるんだよ。
剣戟がこだまし、お互いの肉体に傷が入る。
痛いし、苦しいし、さすがに、そろそろ限界じゃある。
それでも、体を動かし、敵を押し倒す。
『ぎゃるうッ!?』
「……ゼファーっ!!」
竜の悲鳴に反応し、オレは走っていた。何人かの敵をムシして、空中に跳び、ゼファーに槍を突き刺していた兵士を頭から叩き切ってやる。そして、ゼファーに刺さったままの槍に手を伸ばした。
「じっとしてろ!!すぐに、抜いてやるぞ!!」
『……『どーじぇ』、うしろだッ!!』
ゼファーは、オレの背後を狙ってきた数人の兵士たちを頭突きで吹き飛ばしていた。そうだ。『守れ』、お互いを、守りながら、敵を殺すぞ?
いい加減、オレたちは限界なんだから……なッ。
「……抜けた!!」
槍が抜けた。でも、傷口は深いな。オレはゼファーの目を見る。ゼファーには伝わる。
「……『炎』よ」
そうだ。魔術で炎を呼んで、ゼファーの傷口を焼いて塞いだ。すまん。治癒の術でもつかえれば良いのだが、血に呪われ過ぎた竜騎士は、そういう術は不得手でな。
『ありがとう。『ち』がとまった、だから、まだ』
「おうよ!戦えるぜ!!」
ゼファーとオレは背中合わせになるように位置を取り、視界にあふれかえる敵に向かって、それぞれがブレスと爆炎で敵を吹き飛ばす……。
―――しかし。
『……ほのおが、つきた』
「こっちもだ!!あとは、肉体のみに頼るぞ、ゼファー!!」
『ガルルルルルルルルウウウウウウウッッ!!』
魔力が、さすがに切れちまっていた。血に宿ったそれは、出血と共に失われていくからだ。止めた傷もあるが、新たにつけられた傷もあるわけだからね……ッ。
あとは、もう野蛮な殴り合いだ。
型も崩れて、ただ剣を振り回し。蹴りを入れ、殴った。
拳の骨にヒビが入るし、手首も痛む。
鎧に敵の斬撃が当たる。鎧が歪む、クソが!!また金がかかっちまうぜ!!
もたれかかるように敵を圧す。呼吸が荒くなっているな、自分でも情けねえ気持ちになるが、それでも、まだ、戦うぞッ!!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
ガン!ガン!ガキュン!!
力任せに竜太刀を打ち込み、三度目の打撃で敵の兜に命中させる。強敵の頭がつぶれたトマトみたいに赤をまき散らす。
終わりがない。四方から、剣やら槍やらが飛んでくる。剣で打ち破り、前進し、体で押し倒す。止めを刺す余裕もなく、次の敵と打ち合っていく。
何度も、刃がオレとゼファーの体を傷つけていった。
赤いぜ。赤い血が、オレたちからも抜けていくんだ。オレも、ゼファーも、そろそろマズい。しんどいだろう?ゼファー……?
―――……うん。
そっか。そうだなあ、オレもそうだ。でも、がんばれ。わかるよな。
―――うん。『くろいなみ』が、きてる。
ああ。だから、オレたちは、まだまだ戦える!!
「うおおおおらあああああああああああああああああああああッッ!!」
『GHAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOHHHHHッッ!!』
オレたちが、笑いながら歌い、それぞれが帝国兵士どもに斬撃と牙で死を与えたその直後、『彼ら』は、ついにオレたちのところにたどり着く。
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