第七話 『戦場の焔演』 その7
「ゼファー!!低く飛べ!!猟兵団で、『あそこ』に殴り込むぞ!!真ん中だ!!」
『りょーかい!!』
「ば、ばか!!たった、これだけの数で、あんな大勢のところに突っ込むのか!?」
「そうだ!!全方位、殺し放題だなッ!!」
「うん、お兄ちゃん!!ミアも、ぶっ殺しまくるね!!」
ゼファーの背中からのスリングショットによる『遠距離狙撃』に飽きたのだろう。ミアは、手甲からミスリル製の『爪』を生やしながら笑う。
そうだよな、やっぱり、手に握った武器で仕留めてこそ、戦ったという実感がともなう!!
「僕も!!久しぶりに、大暴れしたーい!!」
ラミアはポニーテールに髪をまとめながら、双剣を構える。まあ、お手並み拝見だ。知恵が利くバカには、ガンダラに代わって、オレら特攻主義者のフォローを任せたい。
「……ほんとに、どいつもこいつも、大バカ者どもめ!!」
「『パンジャール猟兵団』に入った時点で、お前もバカの才能があるんだぞ?」
「し、失礼なコト言うな!!……で、でも、いい。だって、団長の命令は、絶対だ!!それが、掟だもん!!……歌いなさい、ゼファーっ!!」
『GHHHAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHッッ!!』
『マージェ』に命じられたままに歌って、ゼファーが敵の軍勢のど真ん中に降りていく。
竜の上空からの襲撃に、兵士たちは絶叫する。
火球だけでもイヤだったのに、巨大な牙持つ獣が、空から降臨だ。そりゃ、イヤだよね?逃げ惑うが、ヒトが密集しすぎていて、そう上手く逃げることも出来ない。
ゼファーが露払いだと言わんばかりにブレスで大地を焼き、逃げ惑う兵士らを燃やしていく。そして、大地に竜が降りる!
ガガガギイイイイイイイイッ!!足爪が地面を引き裂くこの音と、この振動、懐かしくて、笑うしかねえぜえええええッ!!
「ハハハハハハッ!!行くぞ、『パンジャール猟兵団』ッ!!」
『GHHHAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHッッ!!』
竜が叫び、猟兵たちが戦場に躍り出る。
オレは、敵の群れに向かって突撃していく。今の仕事は殺すこと、名誉の追求ではない、『間引くこと』が大事だ。
オレは、背中を見せるヤツだろうが、挑んでくるヤツだろうが、お構いなしに竜太刀で切り刻んでいく!!
ゼファーも同じようなもんだ。ただし、アイツのは派手だな!!
なにせ、7メートルを超えた巨獣が、大地を高速で走りながら敵を踏み潰し、その巨大な牙で噛み千切り、尻尾で数十メートル近く、吹っ飛ばしてしまうんだからよ。
嵐どころか、もう竜巻だな!!兵士たちは成す術がなく、殺されていくだけだ。
リエルが矢を連続で射る。敵が多すぎて、外すことはない。とにかく、撃ちまくっているな!
……しかし、これがまた、彼女らしく『マジメ』だ。
ゼファーの攻撃は少々、雑すぎるからな、それを回避して生き延びた兵士を的確に射抜いていく。ゼファーを攻撃されないようにっていう、母親心だな。
ついでに言えば、オレから逃げ出した兵士も彼女のターゲットだ。
なんだろ、オレ、ちょっと子供扱いされてるのかな?……でもいいよ、『マージェ』。オレ、君のところに、帝国兵の男なんて、ひとりだって近づけやさせやしねえよ!!
弓姫さまの騎士だ、オレ。礼はいらない。あとで、エロい祝福をくれたらいいさ。お互いの傷の手当てでもしながら、猟兵らしくイチャつこうぜ!!
ミアは遊撃担当。左の篭手に備え付けられたスリング・ショットで中距離射撃。
『それ』から放たれるのは小さな鉄球だが、一般歩兵の薄い鎧なら、あっさりと穴を開ける。彼らの鎧は、軽さを重視されて作られているから、もろい。
それに、ミアは腕や脚を精確に撃つからな。固そうな鎧のヤツを相手するときは、そこを狙うのさ。殺せなくても、骨が折られて使い物にはならなくなるからな。
あと、顔を兜が覆っていないヤツは、目玉や鼻を貫き、とても悲惨なことになっていた。
さすがストラウスのケットシー。射撃ばかりじゃないぞ?風を帯びたその動きは、接近してきた兵士どもをすり抜けながら、鉄を切り裂くミスリルの爪で、鎧の継ぎ目―――関節を切り裂き、動脈と腱を裂いていく。
兜が顔を覆っていないヤツは?もちろん、その爪で、顔・面・大・裂・斬!!
「ぎゃあああああああああああああああっ!!」
「あははははははははははははッ!!」
悲鳴と笑い声があがる。ミアは、人間を殺すといつも、楽しそうだ。狂気を感じるぞ。まちがいなく、ストラウス系女子だよ!!お兄ちゃんといっしょだぜ!!
……とはいえ、ミアはパワーに欠けるから、囲まれそうになっちまうことも多い。そういうときは、慌てるな。そうだ、空に高く、ピョンと跳びな?
お兄ちゃんの『魔剣』が、そいつら、全員ぶっ殺してやるからなッ!!
「『バースト・ザッパー』ぁああああああああああッッ!!」
ミアを追い回していたクソ不届き者どもに、魔竜の炎が届いていた。追いかけ回していた連中の背後にもいた兵士たちも、炎の疾風が爆撃しちまう。
かつて帝国兵士を成していた肉と血液と臓物が、バラバラになりながら戦場に赤い雨を降らす。
『GHAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHッッ!!』
人間の血を風に嗅ぎ取り、興奮を極めたゼファーが、咆吼し、その全身に流れる魔力を増大させていく!!魔力が高まり過ぎたせいで、その体表に雷が走り始めている。
スゲーけど、しかし……なんだ、『これ』?
オレでさえ、知らんぞ、この感覚は?
―――『どーじぇ』、『かぜ』を!!
「……なるほど!!リエル、ミア!!風を、ゼファーに合わせろ!!」
「え!?こ、こう!?」
「なになに!?どーするの!?」
「とにかく風を呼べばいい!!制御は、オレがしてやるよッ!!」
「……じゃあ。僕は、そのサポートだね!!」
ラミアが敵の群れに突撃していく。兵士たちは混乱している。
美女が一人で特攻!?よく分からない状況だけに、怖いよな?
……でも、残念だけど、そいつは多分、男だし……そいつが持っている薬瓶はな、君らの群れの真ん中に落ちると、面白いことが起きる。
空気と混ざって、3、2、1。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッッ!!
耳をつんざく爆音と、そして、激しい発光だ。
威力は、じつはそれほどない。ただし、音と光で君らは怯む。動物だからね、その反射的な本能は、なかなか抑えられないよ。
そいつはシャーロン・ドーチェがエルフの秘薬から作った、『こけおどし爆弾』さ。
殺傷力はまったく無いが、時間は作れる。
そんなものを、あちこちにバラ撒くんだからね。いい仕事だよ。
まあ、『こけおどし爆弾』ってのは、ネーミングセンスが足りないけど?……実用性はホントにスゴいのさ。
「こ、こんなものおおおおおおおおおッ!!」
「フフ。元気一杯な殿方って、好きですよ?」
……それでも、怯まず近づいて来た猛者には、ラミアちゃんの美しい声と鋭いレイピアがプレゼントされる。
兜と鎧のすき間から入って、君の肉へと突き刺さるんだ。頸動脈を狙うのさ。帝国軍の制式鎧であるならば、ラミアの剣術から逃れる角度はない。
文才以外には色々と天才なオレの友は、なかなか研究熱心なヤツで、手先も死ぬほど器用だぞ?……近衛騎士の重装鎧といえど、細剣で『突き殺せる角度』があるんだってさ。
非力な分、技巧に頼る。素晴らしく洗練された技巧にね。
いい殺しだ。褒めてやりたい。
そして。ありがとう、友よ。
お前が男だか女だか、だんだん分かんなくなってきたが、別にいい。お前が稼いでくれた時間のおかげで、オレたちは、『高み』へと近づいていた。
「な、なんだ、あれは!?」
「風が、降りてくるのか?」
「空から……ここに?」
「でも、なんで?」
兵士たちは戦場を吹き荒ぶ風の津波に怯えている。ラミアの『こけおどし爆弾』の光が消えた頃、オレとリエルとミアが呼んだ『嵐』が、この場所で暴れていた。
もう、これだけの『嵐』に至れば、兵士たちはおいそれと近づくことも出来ない。
「……で。どうするの?この『嵐』、長くは、保たないわよ?」
リエルは苦しそうだ。戦場ではオレの命令に絶対服従。彼女は持てる魔力の全てを捧げて、この『嵐』の大半を構築している。罪悪感を覚えるほどに、健気だな。
「う、うん。私も……あと20秒、保たない……ッッ」
ミアは、もっと苦しそうだった。風に愛されたケットシーとは言え、エルフの王族ほどの魔力は無いんだよ。だから、オレも急がなくてはな。
「すぐに決めるさ!!行くぞ、ゼファーッッ!!」
『GHAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHッッ!!』
ゼファーが敵軍の中央へと顔を向ける。
そして、溜めに溜めた魔力を炎に変換しながら、オレでも見たことのないほどの大火力のブレスをぶっ放していた!!
視界の全てが灼熱に塗りつぶされる。全身に衝撃と魔力の放つ圧倒的なプレッシャーを浴びて、体が痛いほどだった。
それほどの熱量と魔力が混ざった煉獄の炎は、大地を穿つようにゼファーから斜め下方に向けて放たれる。
オレたちのすぐ近くにね。
だから?
だから、オレは全力でアーレスの魔力を使い、うずまく『嵐』の力を、『直線』に変えて―――大地で爆ぜるゼファーの灼熱に、『方向性/ベクトル』を与えるのさ!!
そう。これは、炎の魔剣を大地に叩きつけて、その衝撃波と爆炎を前方にぶっ飛ばす、オレの得意技―――『バースト・ザッパー』の、再現!!
暴発寸前までに高めた魔竜のブレスを、大地に反射させ、その衝撃波を風で操り、前方にぶっ放すという大技中の大技だよッ!!
……名付けて、『ドラグーン・ザッパー』!!
シュバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッッ!!
それは、もはや閃光。網膜が焼けちまうんじゃないかという程に熱く、その輝きはあまりにもまばゆかった。爆裂した大地の破片が、散弾と敵の群れに降り注いでいく。数メートル規模の岩も飛んでいたな。
ワケ分からん速度で飛来する岩の群れは、どれもがみんな灼熱の劫火の津波を伴っていた。帝国兵どもがバラバラに吹き飛びながら、焼き払われていき―――さらにはリエルの矢より速いスピードで飛来する岩石のつぶてに貫かれていく。
死が、そこには満ちていた。
ま、まいったぞ。こんな光景は、オレでも見たことがない。
竜たちが六匹も我が家にいたときでさえ、コレは無かった。なんで、こんな威力になったのか?オレには推理が出来る。
『耐久卵の仔』が……『二匹』の『破壊竜/ドラゴン・イーター』の魔力が、共鳴しているのさ。オレの中にいる『アーレスの力』と、『ゼファーの力』。そして、エルフとケットシーの紡いだ竜巻が、一つになって、解放……いや、暴走してる!?
何十?……いや、何百人かが、『ドラグーン・ザッパー』の一撃で、死んじまっていたのさ。
帝国兵どもが、驚愕している。そりゃそうだ、こんな『魔法』は、『ゼルアガ/侵略神』ぐらいしか、出せないとオレも思っていた……っ。
しかし……ダメだな。
全身の魔力が枯渇しているぞ。マズった、敵軍の一部を消滅させたところで、ここまで消耗してしまうとは……もう、全身の魔力が無い。火の球、ひとつ、呼べやしない。
オレも、ゼファーも空っぽだ……そして、リエルとミアが失神して倒れてしまう。『反動』として浴びた衝撃だけで、あの二人が失神しただと?
……いや、ちがう。肉体的なダメージだけじゃないな。生き延びるために本能が魔力を放射して、『盾』を作らせていたんだ。そして、二人は魔力切れを起こした。
ラミアも、似たようなモノだ。ギリギリで立ってはいるが、意識があるのかどうかも分からない。
これは、ダメだ。間違っていた。
『こんなモノ』は、ヒトや、竜が使っていい力じゃない。出すのなら、もっと、十分の一ぐらいの出力じゃないと、ダメだ。死にかけてるぜ、オレたち全員が……っ。
……でも。
だからこそだ。
踏ん張れ、意識を失うな。
オレたちは、倒れている場合じゃないぞ。
……わかるよな、ゼファー!!
―――うん、『どーじぇ』、『いこう』!!
「ううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
『GHAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHッッ!!』
オレとゼファーが吼えた。消えそうに揺らぐ自分の意識に、喝を入れるためだ。目を覚ませ。感覚を研ぐんだ。まだだ。まだ、終わってはいないぞ。
ゼファーとふたりして、敵の群れに向かって並んで走り始める。『ドラグーン・ザッパー』を放たなかった方の敵に、オレたちは突っ込んで行くのさ!!
ああ、ちくしょうめ。心臓が変な脈を打つ。体が、いつもと全然違う。命を維持するための体力とか、魔力がほとんど残っちゃいないんだな……っ。
「……ぐふッ」
咳き込んじまう。ルノー将軍の演技のなごり?なら、いいんだが、今回はヘビイチゴのシロップじゃなくて、鉄の味。クソが、口の中に血の味がしやがったぜ。
視界も何だか、赤い……そして、魔力を失った左の目が、失明する。
いや。
……それでもいい、構うか、そんなもん!!
オレたちが、『砦』になるぞ!!ゼファーッ!!
……そうだ。焼ける故郷を思い出す。
焼かれた竜教会と、そこにあった、セシルとお袋の、熱で赤くなった骨。
させるかよ。
二度と、あんなことを、させるかよッ!!
オレたちの、『家族』に、敵を近寄らせてたまるかよッ!!
―――うん!!うしろにいる、みんなを、まもるッ!!
「ああ。そうだよ。だから……ッ。死ねええええええ、帝国の豚どもがああああッッ!!」
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