第四話 『星になった少女のために……』 その3

 ……血なまぐさい作戦会議は、女王陛下の計らいで、明日にすることになった。セシルへの祈りを穢したくはない。


 女王陛下は、尊敬できる人物だ、少なくともオレにとってはね。オレたちは、とりあえず今日の分の報酬を渡された。民草たちへの食糧と、医薬品を運んだことの礼だ。


 かなりの額だったから、シャーロンは先行投資を回収し、十分な利益を手にすることが出来た。オレもアジトを再建するだけのまとまった金が手に入り、満足だね。


 そして……次の仕事も決まったようなものだしな。


 傭兵として、『どれだけの人数』がこの戦に参加するのかは、まだ未定だから。その報酬についても、また明日ということになった。


 結論を保留しているツンデレなエルフさんがいるからね。


 いいさ。


 もう今日は疲れている。それなりの長旅だったからな。


 オレたちはルード王国の兵士たちに宿屋へと案内される。それぞれに大きく豪華なスイートルームがあてがわれた。たまの贅沢だ、デカいベッドに寝転んじまおう。


 寝転んだまま、オレはこれからのコトを考える。


 あー、我ながら仕事熱心な男だぜ、経営者の鑑だぜ、ホント。ワーカホリックだなあ……。


 さて。まず、メンバーだな。


 かなり不利な戦に手を貸すことになってしまった。こちらの戦力を、改めて確認しておくことも大事だよね。


 まずは、オレとゼファー。


 戦闘も破壊工作も暗殺も。とりあえず万能だな。


 やろうと思えば『リアル千人力』も可能だ。アーレスが歌になったあの日のように、竜と剣鬼の特攻を、またやれば、それぐらいの数を道連れにすることは不可能じゃない。おびただしいの数の敵だからね、奇襲で炎を浴びせてやれば?外れることなく殺しまくれるだろう。


 そして今回の地獄の『道連れ1号』は、女王陛下の恋人であられるシャーロン・ドーチェ。


 このバカが参戦するのは、すでに決定だ。なにせ、このオレたちを罠にかけたんだからな?ヤツに拒否権はない。地獄までつきあってもらおう。まあ、女王陛下のためにも、ヤツは命がけでがんばるだろうけどね。


 あの方が恋人なら、オレだって死ねるし?……ガチで情勢がヤバくなったら、シャーロンとゼファーをつかって、彼女だけはどこかへ運ぼう。


 滅びる国のために、死ぬことなんてないさ。あの二人を、生と死の壁で分断するだって?……アホくせえ、この竜騎士さまが許さねえわ。


 さて。このバカ……シャーロン・ドーチェだが、じつは『猟兵』としても有能じゃある。


 あの貴族然とした無害な外見と、神がかった逃げ足の速さ。そして、妙な幸運。レイピアの腕前もなかなかだ。愛想が良くて器用なヤツだから、そう死ぬようなヘマはしない。死なない仲間はそれだけで頼れる。


 特殊技能は……情報収集能力と……『情報操作』。敵地の酒場に吟遊詩人として出向き、さまざまな『噂』を流すことが出来るのさ。


 案外、バカに出来ない力だぞ?


 ……あいつの二枚舌に騙され、仲間割れした連中は少なくない。多対少の戦においては、有効だろう。下手すりゃ、今度の戦のキーマンだ。


 そして、道連れ2号は、オレのもう一人の妹、ミア・マルー・『ストラウス』。潜入と暗殺上手の最年少猟兵。罠の設置も上手なスキルフルな女子。


 ああ、もう死ぬのも生きるのも一緒さ。


 ワインで清められ、『命の誓い』は果たされた。あいつは、その儀式のためにワイン飲んでたんだよね。オレには分かったよ。エルフちゃんは気付かなかったかな。


 オレとミアは『杯』を交わしたのさ。女王陛下の前で、契約は成された。


 ―――もしも、あの子が殺されたら、仇を討ってオレも死のう。


 オレが殺されたら?オレの仇を討ってあの子が死ぬように。


 いいねえ、ストラウスの血と魂にズガンと響くぜ。こんな美学を共有できる女子は、滅多にいない。さすが、我が妹だ。


 オレ、明日、あいつに名字をあげる。ストラウス家に迎えるのさ。


 ああ、婚約じゃねえぞ?


 まだ、13才の子だ。オレの子を仕込むには早い。


 妹にするんだよ。ケイン・ストラウスの三女は、『ケットシーの美少女』ってことになるんだよ、永遠にな。カワイイ女子だ。親父もきっと喜ぶだろう。殺しも上手。じつに、ストラウス系女子である。


 道連れ3号は、オレの右腕であり副官。頼れるスキンヘッドな知の巨人。ガンダラくん。


 巨人族は『名字』とか無いらしい。種族全てが一つの家族だという概念だってさ?うむ、彼らのあいだに内戦が起きたことがないという伝説に、根拠を与える話かもな。


 彼にもストラウスって名字をあげたいぐらいだが、なんか拒否られそうだから止めとく。賢くて難しい言葉でバカにされそう。


 まあ、オレのことを命の恩人ぐらいには思っていてくれているらしいから……地獄の道連れにしても、怒りゃしないだろう。


 ガンダラは戦略・戦術に長けている。オレより長く生きていて、多くの戦場を知っているからね。


 敵の軍勢の弱点や、指揮系統を破綻させる術に、巧みな話術による説得・交渉も可能。肉弾戦もすさまじいが、彼の本領は『策士』なところ。頭脳労働者なのさ。


 弱点は、暗殺とか潜入には向かないだろうね。あまりにデカくて目立つから。まあ、巨人族しか忍び込めない場所だってあるから、そういう場所には潜り込める。演技は上手。あふれる知性で臨機応変にさまざまなことをこなすのさ。


 ああ、もちろん、強いぞ?腕力だけなら、オレよりも上だ。槍やら棍棒、あるいは戦斧。そんなものを彼の体格とパワーで振り回されてみろよ?たまらないね。あと雷系魔術を一つだけ使えるのさ。『チャージ/腕力強化』だ。


 『チャージ』に祝福された槍の一撃。破壊力だけなら竜太刀をも超える一撃だろうな……まあ、合戦みたいなパワー勝負には、頼りになるよね、戦士としても。


「……ふむ。器用な連中が揃ってるな。さすがは、オレの猟兵団。破壊工作には向くメンバーだ……まあ。これだけいれば、無様なコトにはならんだろう」


 ―――あとは。


「……入って来いよ?」


 オレはドアの向こうにいるリエル・ハーヴェルちゃんに声をかけた。ドアはゆっくりと開く。そして、湯上がりと思しきエルフ少女を視界にとらえた。身を清めて、男の部屋にやって来るか。悪くない覚悟だぞ。


「……ノックはするつもりだったんだぞ?」


「いらない。オレの魔眼には不必要。壁の向こう側の人影ぐらいは見えるのさ」


「知っているが、マナーだ」


「……まあ、たしかにな。さて、入れよ。用があるんだろ、こっちに来い」


「……あ、ああ。その……酔いは、醒めているか?」


「どうだろう?さっきよりは冷静だろうな」


「……セクハラは、ダメだからな?いいな?わかってるな?」


 石けんの香りをさせる美少女エルフはそう言いながら、入室してくる。


 バラの花の香りもするな。陛下の計らいか?風呂には豪華なオプションが投入されてるらしい。オレはベッドに腰掛けて彼女を待った。もしかしたら、ベッドに来てくれるかもだし。


 でも、期待は外れた。


 リエルは室内に調度品である机とセットになっているイスを引きずり出し、それに座っちまった。ベッドの隣、わざと開けてるんだけど?……彼女にはまだ伝わらないか。まあ、いいか。


「それで、答えは出たのか?」


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