4-13
「颯君だけバイクに戻っていて、すぐに行くから」
案の定彼女は掘るのをやめる気配はない。だが、一人の人間がこの氷の地面を手で掘ろうとしたところで禄に掘れるわけもない。ミイナもそんなことはわかっているはずだ。つまりこれは気休め程度の茶番である。
颯はミイナの肩を掴んで颯の方にと振り向かせる。
「いいですかミイナさん、現実的に手で掘り進めるのは無理があります。それよりもいったんこの場所を記録して離れましょう」
「でも、姉さんたちは移動していくのよ」
「ここら辺の海流を調べるに付近で循環していると思います。帰ってからで大丈夫ですよ」
実際、海流が循環しているかなんてどうでもよかった。見ず知らずの先祖よりも今前にいるミイナの方が颯にとっては大事だったし、今この瞬間ミイナを無事に返すためにミイナとともに今日ここに来たのだと思った。
「でも、また何か月か空いてしまうわ、その間ずっと氷の中よ」
「運んで帰るつもりですか」
「そ、それは」
ミイナが言いよどむ。
「だったら、厳しい言い方ですが何カ月の差かなんて関係ないですよ、それに海にいる可能性が出てきたんだったらまたそのための準備を整えてくるべきです」
そう颯が言い終わるとまたブリザードが強くなってきた。タイムリミットだ。
説得は無理だと試みた颯は、また「失礼します」とつぶやくとミイナの身体を抱き上げた。
「え、ちょ、颯君」
ミイナは慌てた様子だったが颯はそれには構わず、ミイナを運んでいく。ミイナの身体は以外にも軽かったがここにいることで大分颯も体力を消耗しているのか、または雪に体が沈むためか分からないが、一歩一歩が相当重い。だが自主練のスクワットが役に立っているのか進めないほどではない。
「おろして颯君、自分で歩けるから」
ミイナが肩の上から声をかけてくるが、
「信じられないのでダメです」
と、颯は相手にしない。
「いや、もう本当に帰るから、それに颯君の体力もそれでは危ないよ」
確かに颯もだいぶ疲れてきていた。それに対して、冷静になって少し回復したのか今はミイナの方が体力的には余裕がありそうだった。
「分かりました」
颯はミイナを降ろす。ミイナは言葉通り、颯の前をおとなしく歩いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます