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正直言って死にたくない。怖い。覚悟したという自分の心がいかに適当なものであったかを思い知らされる。ミイナと新しい世界に行きたいという気持ちがこの恐怖を乗り越えられるのかなんてわからない。
まだまだ考えも言葉もまとまらなかったが、この沈黙を破るために颯は口を開く。
「ええ、それでも行きたいと思います」
馬鹿げていることなのかもしれない、自分の力なんて何もないのにさっきの話を聞いてミイナだけは守らないといけないと感じるなんて。足手まといになる可能性の方が高いのに。守られているのは自分の方なのに。
でも、一緒にいたいと思う。だから、行く。
「そうか、行くか。 ならこれを持っていきな」
そう言って、店主はいつの間にか手に持っていたインナーと、手袋を渡してきた。
「それ一枚でも冬山で生きれるぜ、新しい素材でできているんだ、汗の速乾性と、保温性により優れている」
「あ、ありがとうございます」
「ミイナちゃんから話を聞いて今日颯さんが来ることは知っていた。悪いな、試すような真似をして」
颯はそう言われて、ミイナの方を見ると、少し恥ずかしそうに笑ってごまかしていた。
「いえ、ありがとうございます。改めて覚悟ができました」
「なら、良かった、いつの時代も馬鹿はいる、止めても無駄だ、せめてできることをと思ってこの店を始めたんだ」
温かく見守るように店主に言われる。
「いえ、ありがとうございます」
颯はこの思いにどういった言葉で返すのが適切なのか分からなかったので、ただ、短い感謝の言葉とともに頭を下げた。
その様子を見ていたミイナもやっと口を開く。
「ソレナさん、ありがとう、また来るね」
「ああ、必ず来い」
二人で店を出て、駐輪場へと向かう。
「試すような真似をしてごめんね」
ミイナが静かに切り出す。
「いえ、おかげで覚悟ができたんで」
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