2-9

 「でも颯君、残念ながらここは考古研ではないんだ、つまり非公式なんだよ、ここの部室もいわば不法占拠だ、そんなところにいたら君まで大学から目をつけられるかもしれないよ?」

 それに、とさらにサンは続ける。

 「ルイミに興味があるといっても冬じゃないとダメなわけではないだろう、夏なら船で行くこともできるよ」

 「颯は冬に行きたいのよね」

 颯としてはどうしても冬に行きたいというわけではないのだが、ミイナの祈るような瞳を見て、話を合わせることにした。

 「できれば冬ですかね」

 颯はこの時点で既にミイナに対して惚れていたのである。

 また、実際この退屈な時期を壊すいいイベントになるだろうと思ったのも事実である。

 「やっぱり、信じていたわ」

 そう言うと、ミイナは颯の手を握り

 「改めてよろしくね、颯」

 じっと見つめて言われるのでやはり恥ずかしかったが、ミイナの手は想像通りに柔らかかったという感想が浮かんだ。

 「ところで」

 と、颯は先ほどからの疑問を口にする。

 「ここって考古研じゃないんですか」

 「考古研よ」

 「いや違う」

 二人の先輩の声が重なった。

 「サン先輩お願いします」

 颯はサンに向かって促した。ミイナが、えっと、いう顔をする。だが今までの様子からするとミイナよりもサンに任せた方が正確な情報が得られるだろう。

 うん、と頷いてサンは話し始めた。

 「ここは、考古研じゃないよ、本当の考古研はあっち」

 サンは颯と一緒に部屋を出て奥の方にある扉を指さす。そこには考古学研究部とのプレートがかかっていた。

 それを見て再び部屋にと戻る。

 「本当の考古研、いや考古研はルイミだけではなくこのリミストシアの様々な歴史を研究する部活なんだよ、そしてもともとはそこのミイナもうちの一員だったんだ、だが彼女はルイミにしか興味がないみたいでね」

 そう語るサンの表情は少し寂しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る