1-13

 「そういえば、名前聞いてなかったね、私はミイナ。名前でいいわ」

 「僕は、颯です、よろしくお願いします」

 「うんこれからよろしくね、早速だけど今からトレーニングしていこうか」

 「今からですか?」

 それはまたずいぶん急な話だと颯は思った。先ほど颯をルイミへと誘った時もそうだったがミイナは考えるより先に行動が来るタイプなのかもしれない。自分とは正反対だと颯は思った。

 「そう、善は急げ、トレーニングも急げってことよ」

 ミイナの言葉に颯は思ったことを口にした。

 「何をするんですか?」

 「バイクでルイミに行くから颯君は後ろに乗ってくれればいいわ」

 どうやらトレーニングというのは名目で、実際のところは送ってくれるということなのだろう。

 モールを出て駐輪場へと向かう。ミイナがこれが私のバイクと示したのは大型の白いバイクだった。コートの色合いとも合っている。女性が乗っているのは珍しいタイプである。もともと、ルイミに行くために用意したのかもしれない。そんな颯の疑問の視線に気付いたように、ミイナはその答えを口にした。

 「このバイクは妹と乗るために買ったの」

 「妹がいるんですか」

 「そう、颯君と同じ年の妹がね」

 そう、答えるミイナの顔はどこか誇らしげだった。

 「颯君は兄弟はいるの?」

 「いないです」

 「そう」

 その会話の間にも彼女はチェーンを外しながら、バイクを出す準備をしていた。

 準備を終えて、彼女がバイクにまたがり颯に声をかける。

 「乗っていいよ」

 颯はミイナの後ろに座った。きれいなうなじが見えてどきりとする。どこを掴んでいいのか分からなかったが、恐る恐る肩に手をやった。またいい匂いが漂ってくる。

 「肩じゃ危ないよ、ここ」

 ミイナは自分の腰を指さした。

 「いえ、大丈夫です」

 そんなところを持ったらお腹周りなどに触れないようにし過ぎて余計に危ないだろう。

 「遠慮しなくていいよ、それとも緊張してるのかな」

 ミイナが冗談めかして言う。

 颯はもちろん緊張していた。今の状態でさえ近くにミイナの身体があるのに、さらにその細い腰にまで触れていいのかということまで考えなければいけなくなったからである。

 その結果、颯は

 「いえ、本当に大丈夫です」

 とだけ返すのが精いっぱいであった。

 「そう、じゃあ行くよ」

 バイクは走り出した。

 走っている間、ここに置いたままのバイクは明日取りにこようと颯は考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る