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「誰でもいいけど、ルイミに興味がありそうだったからよ」
だが、彼女は颯の質問に答えてくれてはいるが、当たり障りのない回答ばかりで、その本当の目的はまた別にあるのではないかと颯は少し思った。
さらに踏み込んで聞くべきか颯が迷っていると彼女の熱が少し冷めたのか、颯に近づいてきていた顔を離すと改めて、
「やっぱりだめそう?」
「大学の方とかはだめだったんですか」
落ち着いていた彼女だったが、その颯の何気ない一言にまたスイッチが入ってしまったのか、
「そう、だめだったの、全員怖気づいちゃって、腰抜けの部員だらけだからね」
と熱のこもった口調で言われた。
「で、僕だったんですか」
「そう、興味があるなら一緒に行かないかなと思って」
彼女は先ほどと同じ理由を繰り返す。
「一人ではダメなんですか?」
「やっぱり何かあった時は支えあえる人がいた方がいいでしょ」
颯は、その回答に先ほどと同じ違和感を覚える。
答え自体は模範的なものだがどこか彼女の本心ではないように思えるのである。
そう考えることができるほどには颯の心臓の鼓動も収まってきた。
「じゃあ、ルイミに行きましょう」
颯は深く考えるのをやめて軽い口調で言った。
そう決めたのは、この代わり映えのない日常に少しのアクセントが欲しかったからかもしれないし、美人の年上のお姉さんにもっと近づくことができるとの下心があったからかもしれない。だが、一番の理由は颯自身も未知の世界を見てみたいというわくわく感のようなものに包まれたからである。
「本当?」
彼女はこれまでで一番の笑顔でそう言った。少しずつ顔を見ることができ始めていたのにまた見れなくなってしまうので颯は少し困るのだが、やはりいいものを見ることができたという嬉しさの方が大きかった。
そこで、彼女は気付いたように、
「ちょっと寒くなってきたね、中に入ろうか」
と、勧めてきた。
はい、と言われるままに彼女に続いて中に入る。暖房の暖かさが失われつつあった肌の感覚を取り戻していく。彼女は颯が建物の中に入ったのを確認してから振り向いて颯に話しかけてきた。
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