1-9
「もちろんあそこに行くための」
そういうと彼女は北の方に広がる白い雲を指さした。指の先にはルイミの白い壁が広がっている。
ということは今朝彼女が見つめていたのは手前ではなくその奥にあるルイミであったということか。
「ルイミですか?」
「そう、君もそうじゃないの?」
「え?」
「だって君、よくあの公園にいて山の方を見ていたじゃない」
そこまで見られていたのかと颯は思った。颯がよくあそこに行くのは山に行く計画を立てるためなどはないのであるが、彼女はよくあそこに座ってルイミの山に行く計画を立てていたらしい。では、なぜ夕方に彼女がよくあの場所に行っていたとしたら会わなかったのだろうか。彼女は目を引く容姿であるし覚えていないということはないと思うのだが、と颯が考えていると
「私も夕方に行ってたんだけど、君がいたから邪魔したらいけないと思って朝行くようにしたの」
彼女が颯の心を読んでいたかのようにその疑問に対する答えを口にした。
で、と彼女は続けて、
「君はいつ行くの?」
その言葉に颯は沈黙をしてしまう。
このような時どういう風に返すべきか。
正直にルイミに行くために見ていたわけではないと言うべきか、それとも「まだ、考え中です」など適当に取り繕うべきか。どちらの方がこの場面を丸く収めることができるのか友達づきあいなどあまりない颯にはその判断がつかなかった。
彼女はその様子を見て、
「まだ、決まってないの?」
と、聞いてきた。
「まだ、高校生なので早いかなって」
颯は話を合わせることにした。
「今、何年生?」
「三年です」
「進路とか聞いてもいい?」
「北大です」
彼女は颯のその答えに、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます