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 「私が通っている大学だね、じゃあもう登校とかないの?」

 「まだ、少しだけ」

 「じゃあ、一緒に行かない?」

 突然の提案に、颯は一瞬どこに行くのか分からなかったが、すぐにルイミにだということに気が付いた。

 だが、颯はあの白い壁のようにそり立っているルイミに行こうなどと考えたこともなかったし、準備も何もしていない。だが、話の流れで彼女は颯がルイミに行きたいと考えていると思っている。どう、話すのがいいのかとまた颯が悩んでいると、彼女は

 「私は、二月に行く予定なの」

 と続けた。

 ルイミ山につながる海は冬の間凍るため、山までの道が陸路で行けるようになる。三月になると暖かくなり、氷も緩くなってくるので、山に陸路で行くとするならば二月はベストの時期だろう。

 「何しに行くんですか?」

 颯は素直に疑問を口にした。

 「見つけに」

 そう言った彼女の目は確かな意思を持っていた。

 対して颯の方はその意思に見合うだけの覚悟も何もない。そうであるならば、自分のようなものがなおさらついていくべきではないだろう。ここは断ろうと颯は口を開いた。

 「そうなんですね、僕は大学に入ってからにしようと思います」

 「準備ができていないから?」

 彼女は笑みを絶やさず聞いてきた。

 颯はどきりとした。少し心臓の鼓動が速くなるのを感じる。本当は行く気などないことがばれてしまったと思ったからであった。

 「そうですね、まだちょっと、山は厳しいですね」

 「そうだね、その体では熱があまり貯められないかな」

 「はい、ですのですいませんが」

 「特訓しよう」

 突然彼女は言った。

 「はい?」あまりに突然だったので少し声が高くなってしまう。

 「特訓ですか?」

 「そう、特訓、二月まで一か月程度だけど少しはましになるよ」

 「いえ、今回は遠慮しておきますが」

 「今年はだめなの?」

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